■米軍特殊部隊がバグダーディー氏を殺害
今週(10月28日~)のトルコにとっての最大のニュースは、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)の最高指導者であるバグダーディー氏が米軍の特殊部隊によって殺害されたことです。
なぜ、この出来事がトルコにとって大事かといえば、それはバグダーディーが殺害された場所が、トルコに非常に近かったからです。
【参考記事】
●トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す
彼は、シリア反政府勢力の拠点であるシリア北部のイドリブ県にいましたが、隠れていた家はトルコ国境から、わずか4キロの地点にあり、トルコ軍の管理下にある地区でした。
つまり、米国が一生懸命探していた人物は、イラクやシリアの奥地ではなく、ずっと目の前にいた、ということになります。
トルコがバグダーディーの居場所を把握できなかったのは仕方ないですが、彼がトルコ軍の管理下にある地域で暮らしていたことを、米国は問題視する可能性が高いと考えます。
■米国とトルコ政府の亀裂はまだまだ大きい…
トランプ大統領は記者会見で、軍事作戦に協力したとしてトルコにも感謝していましたが、トルコの協力は限定的で、作戦の内容も、トルコには事前に伝えられていなかったようです。
もうひとつ気になる点は、今回の軍事作戦の指揮がとられたのは、すぐ近くにあるNATO(北大西洋条約機構)基地のインジルリクではなく、北イラクのクルド自治区の首都であるアルビルです。
つまり、米国は、長年使用してきた距離的にも現場に近い、トルコ南部の空軍基地ではなく、現場からかなり遠いクルド自治区の基地を使いました。
これらを考えると、トランプ大統領のトルコに配慮した言葉とは裏腹に、米国とトルコ政府の亀裂は、まだまだ大きいことがわかります。
今回の米国の軍事作戦ではトルコ南部の空軍基地ではなく、クルド自治区の基地を使用。米国とトルコ政府の亀裂がまだまだ大きいことがわかる。写真は6月に開催されたG20大阪サミットで握手をするトランプ大統領とエルドアン大統領 (C)Anadolu Agency/Getty Images
そして、ここへきて私の仮説を裏付ける重要なニュースが、もうひとつありました。
ロシアメディアと一部のトルコメディアの報道によると、トルコはロシアからSu-35戦闘機を36機購入するための交渉をしているようです。36機とは飛行隊を2つ組める数であり、決して少なくありません。
S-400の全パーツがトルコに届き、稼働まで1年を切ったところで、ロシアから戦闘機も購入するとなれば、いよいよ、トルコのNATO脱退も本気で囁かれることになるでしょう。
【参考記事】
●トルコ政府がS-400到着を正式発表! それでも、トルコリラ/円が底堅いワケとは?(7月17日、エミン・ユルマズ)
■予想外の利下げでも、トルコリラが堅調なワケは?
今週(10月28日~)のトルコリラですが、対円で一時19円台を回復し、堅調に推移しています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
先週(10月21日~)、24日(木)に行われたトルコ中銀の政策会合で、政策金利は2.50%引き下げられ、14%になりました。
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
個人的に2.50%の利下げは予想外でしたが、トルコ中銀は、シリアの軍事作戦が当初想定されていたよりも早く終わり、地政学リスクが低下したことを利下げチャンスと考えたに違いないです。
【参考記事】
●トルコ、米露と合意で軍事作戦停止! トルコ中銀の年内利下げはあるのか?(10月23日、エミン・ユルマズ)
依然として、利下げ後もトルコ中銀と国営銀行による積極的なトルコリラの買い支えはありましたが、グローバル投資家もシリア情勢が意外に早く落ち着いたことを評価しているのではないかと考えます。
また、トルコに限らず、新興国通貨が堅調に推移している背景には、FRB(米連邦準備制度理事会)による追加利下げ期待があります。
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