■米ドル切り返しの受け皿が英ポンドに
前回のコラムで、「米国株の反落に比例した米ドル全体の切り返しあり」と主張していたが、大まかな方向は間違っていなかったと思う。
【参考記事】
●安倍ショックの円高は、まったくの偽り!米国株の調整で米ドルの切り返しを想定(2020年9月4日、陳満咲杜)
ただし、米ドル高の受け皿としては、ユーロではなく、英ポンドの方が激しい値動きを見せており、しばらく、英ポンドが通貨安をリードする局面が続くかと思われる。
当然のように、主要なクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の中では、英ポンド/円の反落が一番目立っており、これからの市況を示唆している。
■ナスダックは戻り切れない、よってドルインデックスは…
米国株の動向をはかる上では、コロナショックからいち早く脱出し、2020年年初来高値を更新してからも大幅続伸を果たしたナスダック指数の方が、NYダウよりも重要であることは間違いない。
ナスダック指数を見る限り、9月2日(水)高値1万2074ドルから9月8日(火)安値1万837ドルまで反落し、その後、いったん切り返したものの、昨日(9月10日)再度、大幅反落と、戻り切れない様子を示している。
既述のように、コロナショックで形成された3月安値からの米国株の大幅切り返しは、米ドルの反落とほぼリンクしてきた。このことからも、ナスダックスの頭が重くなり、戻り切れない現状に照らして考えると、基本的には、ドルインデックスは底打ちを果たし、これから切り返しを継続する公算が高い。
したがって、昨日(9月11日)、ユーロの切り返しはあったものの、基本的に米ドル全体の切り返しを否定できるほどの値動きではないことも明らかで、過大評価すべきではないことを、まず、記しておきたい。
■ユーロ/米ドルの切り返しは「裏切り」がもたらしたサプライズ
もっとも、ユーロ/米ドルは、いったん1.1750ドルに迫ったのだから、本来、反落していく勢いであった。昨日(9月11日)の切り返しは、ある意味では、ラガルドECB(欧州中央銀行)総裁の「裏切り」がもたらしたサプライズであったと言えよう。

ラガルドECB総裁の「裏切り」がサプライズとなり、ユーロ/米ドルは急騰した(C)Visual China Group/Getty Images
というのも、EU(欧州連合)圏におけるインフレは低下気味で、本来、ECBは、中央銀行としてユーロ高の要素を看過できないはずだった。ゆえに、市場関係者の多くは、ECB声明やラガルド総裁の発言で、何らかのユーロ高牽制を行うだろうと見込んでいたのだ。
しかし、ラガルド総裁は、「ユーロの上昇については話し合ったが、ECBは為替をターゲットにしない」と明言し、市場関係者の意表を突いた。
総裁は、「ユーロの上昇が価格に悪影響を与える、これについては広範囲で話し合った」とも語ったが、市場はそれに対する反応を、あまり示さなかった。ユーロ高牽制を強く「期待」していただけに、「失望」も大きかったようだ。
その結果、ユーロ売りポジションの買い戻し、また、投機的なユーロ買いに走り出し、昨日(9月11日)のユーロ/米ドルは、一時1.1918ドルまで戻ったというわけだ。
しかし、そうした慌てた行動があっても相場の流れは続かず、昨日(9月11日)のユーロ/米ドルの終値は、1.1813ドルと安い。日足では典型的な「スパイクハイ」のサインが点灯し、ユーロ/米ドルの戻り切れない状況を暗示したとみる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
■ラガルドECB総裁の「裏切り」が効いたのはユーロ/ポンド
そして、ラガルドECB総裁の「裏切り」が本当に効いた相場は、実は、ユーロ/英ポンドである。総裁発言の後、騰勢を強め、昨日(9月11日)は200pipsほど続伸した。
ただし、その背景には、英国のEU離脱問題の再燃があり、また、ユーロが買われたことよりも、英ポンドが売りの要素が圧倒的に強かった。ラガルドECB総裁によるユーロ高牽制がなかった分、勢いがさらに加速したというわけだ。
詳細については、いろいろな報道があったからここでは省くが、要するに英国は、EUとFTA(自由貿易協定)で合意しないままEUを離脱してしまう、いわゆる「無秩序離脱」の可能性が現実味を増し、その結果、英ポンド売りに拍車がかかった。
英マイナス金利採用のウワサもあるが、無秩序離脱があれば、そちらの方も一段と現実味が増す。
このような英ポンドに関する疑心暗鬼が市場関係者に共有され、英ポンドのロングポジションの手仕舞いを急がせたと言える。
その結果、ドルインデックスが、まだ93前半に留まっているにも関わらず、英ポンド/米ドル、英ポンド/円の急落が見られ、目先、英ポンドの独歩安が深まったわけだ。
英ポンド/米ドルは一気に1.2773ドル、英ポンド/円は135.57円まで急落した。これからも、売られやすいのではないかと推測される。
なぜなら、巷における一般的なロジックと違って、相場におけるロジックは生活の常識とされる因果関係に縛られないからだ。
無秩序離脱のリスクが増大したから、そして、マイナス金利実施の可能性があったから英ポンド安が進んだ。その半面、英ポンド安が進んでいるからこそ、無秩序離脱とマイナス金利の可能性がより重視され、市場関係者の疑心暗鬼も一段と深まって英ポンド売りが、より一層仕掛けられる、といったロジックも十分想定される。
よって、「英ポンド安だからこそ、さらなる英ポンド安を呼ぶ」構造に警戒しておきたい。
■ユーロ/米ドルは早晩反落。リスクオフの円高は見られない
そして、足元進行している英ポンド安から、以下の2つの事柄が導き出せるかと思う。
まず、米ドル安が一服し、米ドル全体の切り返しが続くこと。次に、円は引き続き受動的であり、リスクオフの円高は、これからも見られにくいということだ。
前者に関しては、前述のように、たしかにラガルド総裁の「裏切り」があり、また、ユーロ/英ポンドの大幅上昇があったから、ユーロ/米ドルの切り返しがあったのだが、それをもって米ドル全体の切り返しを否定することはできない。英ポンドの先行に追随する形で、ユーロ/米ドルは、近々頭を再確認し、早晩反落してくると思う。
後者については、EU離脱問題の再燃があっても、米ドル/円は蚊帳の外だ。106円の節目の攻防に留まり、静かな値動きを見せているから、リスクオフの円高云々…とは言えない。
昨日(9月11日)の英ポンド/円の大幅続落は、あくまで英ポンドの急落であって、円がなんらかの主体性を発揮した痕跡は皆無だった。ここからもリスクオフの円高はないと思う。
この2つの事柄に対する検証はまた次回。市況はいかに。
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