本記事でご紹介している後藤達也さんは2022年4月からフリーランスとなり、新たなツイッターアカウント(@goto_finance)やYouTubeにて、投資・経済情報を発信しています。
夏の終わりといえば、ジャクソンホール会議。
世界の中銀首脳などが集まり、米ワイオミング州ジャクソンホールで毎年行われるこのイベントは今年(2020年)、コロナ禍により、オンライン開催を余儀なくされた。つまり、ジャクソンホールで行われなかったジャクソンホール会議となったわけだが、そこで一際注目を集めたのは8月27日(木)に行われたFRB(米連邦準備制度理事会)、パウエル議長の講演だった。
オンラインで中継され、FXトレーダーが固唾をのんで見守ったパウエル議長講演がスタートしたのは日本時間22時10分のこと。その8分44秒後には要点を手際よくまとめた「速報」をツイートし…
23時台にはパウエル講演要旨を4つのテーマにきれいに整理し、4枚のスライドにまとめてツイートしたツイッターアカウントがあった。
このパウエル講演要旨ツイートは瞬く間に1300以上の「いいね」(※)を集め、400以上もリツイートされることとなった。今、急速にトレーダーなどの間で注目を集めつつあるこのツイッターアカウントの主は後藤達也記者(@goto_nikkei)。日本経済新聞米州総局所属、ニューヨーク駐在の記者である。
(※本記事公開時点では1400以上)
カリスマトレーダーも注目するNY駐在記者のツイッター
この後藤記者のツイッターアカウント、開設されたのは2020年4月、つぶやきが始まったのは5月始めのことだから、まだ割と最近のことだ。それでいてフォロワー数はもう2万6000を超えている。
日本経済新聞の公式サイトには「ソーシャルサービス一覧」というページがあって、日経電子版各ジャンルのツイッターアカウントなどが紹介されているのだが、ここには日本経済新聞の編集委員や記者など、個人アカウントも掲載されている。44人のそれら個人アカウントについてフォロワー数をざっと見てみると、1万を超えるようなアカウントはわずかしかなく、数百程度のものもそこそこある状況だった。
日本経済新聞といえば、滝田洋一編集委員が有名だ。滝田氏はWBS(ワールドビジネスサテライト)で、かの大江麻理子キャスターの隣に座っていつも解説しているという、これはもう大変な人なわけだが、その滝田氏がツイッターを始めたのは2015年4月のこと。そして、5年以上の歳月をかけて滝田氏が集めたフォロワー数が2万3000である。
後藤記者のフォロワー数はわずか4ヵ月あまりでこれを超えている。というか、日本経済新聞公式サイトに掲載されているすべての個人アカウントのなかで、後藤記者のフォロワー数は開設4ヵ月にして早くも一番に上り詰めているのだ。
自慢ではないが、筆者・井口は6月初旬の段階で、後藤記者のツイッターアカウントを最近注目しているツイッターアカウントの1つとして紹介していた。すると、ザイFX!でもおなじみのカリスマFXトレーダー・羊飼いさんが「同じく②」とつぶやいたということもあった。羊飼いさんも後藤記者のツイッターアカウントに早くから注目していたのだ。
(※執筆者注:念のために書いておくと、「自慢ではないが」という表現は、実際には「自慢だが」ということを意味する)
— 羊飼いFX 時々FX (@hitsuzikai) June 2, 2020
また、後藤記者のツイートを日経電子版ならぬ“後藤電子版”と呼んで、頼りにしている人もいる。
@goto_nikkei @remyxx
— 藤代宏一 (@KoichFuj) July 26, 2020
レミーさんと後藤電子版に今日も感謝です(敬称略)
これはどこかの匿名トレーダーが通りすがりにつぶやいたことではない。“後藤電子版”とつぶやいているのは藤代宏一氏。第一生命経済研究所・経済調査部の主任エコノミストである。
このように後藤記者のツイッターアカウントは日本の有名シンクタンクの主任エコノミストから“後藤電子版”と呼ばれるほど、急速に注目を集めつつあるわけだが、コロナ禍のニューヨークにあって、後藤記者はどんな気持ちでツイッターを始めたのだろうか? 後藤記者はこれまでトレーダーの注目を集めるどんなツイートをしてきたのだろうか?
今回はザイFX!が日本経済新聞記者に取材するという異例の企画を敢行した。これまでの後藤記者の興味深いツイートを紹介しながら、ニューヨークにいる後藤記者に直撃取材した内容をお届けしたい。
コロナショックの相場激変を見てツイッターを開始
後藤記者がニューヨークに赴任したのは2019年4月のこと。その頃からツイッターをやってみたいという気持ちはぼんやりあったという。
「海外では多くの記者が個人名でアカウントを持っています。FT(フィナンシャル・タイムズ)でもWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)でもCNBCでも、ウェブの海外メディアでは記事に署名が載ったうえで、記者の顔写真とツイッターアカウントに飛ぶリンクみたいなものがついていることが多いんです。SNSが重要な情報収集ツールとなった今では自然な流れだと思います」
「SNSには従来型のマスメディアとは違う強みがあり、対立するのではなく、併存していかなくてはいけないという考えはたぶんグローバルにどのメディアにもあると思うんです。
そして、日本経済新聞の記者でも海外赴任者にツイッターをやっている人が多かったので、自分もやってみたいなと考えていました。ただ、日常業務がバタバタしていたり、ツイッターを始めるには社内手続きも必要だったりして、着手していなかったんです」
やろうと思ってはいても何気なく時が流れてしまう。誰しもよくあることだ。そんな後藤記者に新たな思いを強く湧き上がらせたのは2020年3月、あのコロナショックの相場激変だった。
「NYダウが短時間のうちに500ドルも1000ドルも下がったりする。これだったら、ちょこちょこつぶやくだけでもニーズはあるんじゃないかと思いました。ニューヨーク市場の時間帯は日本の深夜なので、日本の昼間に日経平均が乱高下しているのと比べれば、日本語でつぶやく人の絶対数は少なそうだし…」
(出所:TradingView)
「とはいえ、3月のその瞬間は仕事でバタバタしていたので、4月になって会社に申請を出し、5月にツイートし始めたという感じですね。相場的には3月がクライマックスだったと思いますが、4月以降も経済指標がすごい数字になったり、とんでもないことがたくさん起こってきたので、ツイッターを始めて良かったなと思っています」
マイナス2000万人超えの非農業部門雇用者数をどう表現?
5月8日(金)に発表された4月分の米雇用統計では、非農業部門雇用者数がなんとマイナス2000万人を超えていた。通常は数万人や十数万人、30万人という数字が出たらビッグサプライズという非農業部門雇用者数が、通常時には信じられないような、とてつもないマイナスになっていたのだ。それは本当に、実際に、リアルに起こったことだった。
もしも、1年前にタイムトラベルして、そこにいたFXトレーダーへ「2020年には非農業部門雇用者数がマイナス2000万人を超えることがあるんだぜ」と主張してみせても、バカなことを言うなと鼻で笑われるのが関の山だろう。
そんなとてつもない米雇用統計は、後藤記者のツイートで、通常よく取り上げられる「非農業部門雇用者の増減数」ではなく、「非農業部門雇用者数自体の推移」というグラフにまとめられ、起こったことの激しさをまざまざと見せつけていた。
きれいなグラフ作成には何か秘密のコツがある?
こんなふうにわかりやすく、まとめられた図表などを挟みながら、経済・金融情報をツイートしている後藤記者なのだが、そのようなツイートをするにあたって工夫していることを聞いてみると、(1)見栄え、(2)スピード、(3)ツイート厳選、(4)主張は控えめに、という4つのポイントが返ってきた。
「見栄え」については、先ほど紹介した「非農業部門雇用者数自体の推移」のグラフにしても、以下のようなグラフにしても、雑誌に掲載できるぐらいのクオリティではないかと筆者は感じている。以下のグラフには、直近の米財政赤字のすさまじさが鮮やかに描き出されている。
後藤記者のグラフ作成には、何か秘密のコツのようなものがあるのだろうか?
「グラフ作成には2009~2010年に日本経済研究センターというシンクタンクに出向してエコノミスト的なことをやっていたときの経験が生きています。
当時、ものすごくたくさんグラフを作っていたんですね。いらないものを省いていくとか、どうすればポイントが伝わるか、見栄えがよくなるか、といったことを先輩に教わったりしながら学んでいった経験がありました。
そのうえで、ツイッターに投稿する際は、スマホで見た場合の見やすさも含め、きれいに見えるよう、縦横比を調整したりしています。グラフが印象的だと、文章も読んでくれる人が多くなるので、そういうことを意識してやっているんです。
もちろん、恣意的に作った大げさなグラフでは、フォロワーの信頼を失ってしまいます。伝えたいことのエッセンスがフェアにわかりやすく届くにはどうしたらよいか、いつも考えながらやっています」
ツイッターはしょせん、つぶやきだ。筆者自身のツイッターについて言えば、見ている人に有益なことを伝えたいという気持ちでツイートすることも、もちろんあるが、相場とは関係ないこと、重要というのとはやや違うこと、ちょっとした雑音みたいなものなどをポソっとつぶやいてしまうこともある。
そこに「おはぎゃあ」とか「うさぎさんツイート」はない
前日の米国市場が暴落すれば、翌朝、筆者のツイッター・タイムラインには「おはぎゃあああああ~~~~」といったツイートが満ちあふれる。特に前日何ごともなかった朝には、有名FXトレーダーが「うさぎさん、かわいすぎ!」とか言いながら、かわいいうさぎの動画や画像を貼りつけたツイートを流してきたりする(うさぎさんツイートはおそらくもうFXトレーダーの間では有名だろう)。
しかし、後藤記者のツイートにはそんなふうにユルいものがほとんどない。ストイックなのである。
後藤記者は自身が住むニューヨークの街中の写真をツイートするにしても、それは何気なく自分の日常をツイートしているのではなく、新型コロナに揺れ動いてきた、世界経済の中心地・ニューヨークの「今」を伝えたいというハッキリした意図が感じられものになっているのだ。
後藤記者はマーケットのことを中心にさまざまな話題を丹念に拾いつつも厳選し、スマホで見た場合の見やすさまで考慮しながらスピーディーにツイートしている。第一生命経済研究所の主任エコノミストが“後藤電子版”と呼んでいるのはダテではないのだ。
後藤記者のツイートをずっと見ていくと、後藤記者自身が言うとおり、主張は確かに控えめなのだが、筆者はそこに圧倒的な熱量を感じる。そして、だからこそ、フォロワー数もここまで短期間に急増したのだろう。
90日で2000万インプレッション! なぜそこまで熱心なの?
それにしても、なぜここまで後藤記者は熱心にツイートを? ツイッターのフォロワー数が増えたり、たくさんリツイートされたりすると、もしかして後藤サン、出世したり、給料が上がったりなんてことが…!?
「まさか、そんなことはないですよ(笑)。
まず、ツイッターをやっていなくても、情報収集したり、グラフを作ったりすることは元々、業務上の必須作業なんです。それを業務の合間にツイートしているだけ。ツイッターに特別な手間はかけていません。そこに熱量を感じると受け取っていただけるのはありがたいことですが…」
こんなふうに後藤記者は業務の片手間にやっているに過ぎないと話すのだが、そんな片手間ツイートは以下のとおり、90日間で2000万インプレッション以上もの数字を記録している。フォロワー数の増え方もすごいが、閲覧数も大変な数なのである。
そんな後藤記者だが、ここまで約4ヵ月、ツイッターをやってみて、一番感じているのはどんなことなのだろう?
「自分のツイートに対する反響の大きさが結構自分の予想どおりにはならないと感じます。よく読まれるだろうとツイートしたものが、そうでもなかったり、逆にさほど読まれないかも…と思ったものに大きな反響があったり…。
読者のニーズを把握するのはすごく大事なこと。ただ、紙の新聞だと、いろいろ調べ方はあるかもしれないものの読者の反応は今一つわかりづらい。その点、ツイッターだとツイートしてから10分以内で、だいたいどれぐらい読まれそうかとわかってしまう。ここまでビビットに読者の反応が見えるのはすごいことだと思います。
もちろん、読者のニーズとは関係なく、大事なことがあるならばそれは伝えていかないといけないと思います。ただ、読者のニーズがわかれば、効率的にリソースを割いていけます。ツイッターでそれを把握することは、ツイートするのに役立つだけでなく、新聞記事を書く上での糧にもなるんです」
一時期、新型コロナが爆発的に拡大したNYの今は?
東京都の新型コロナ新規感染者数はこれまでのところ、1日最大500人弱だった。一方、ニューヨーク市は4月の最悪期に1日500人以上の人がどうなっていたか? 新型コロナに新規感染……ではなく、新型コロナで死亡していたのである。ニューヨーク市の最悪期の新型コロナ新規感染者数は…といえば、1日6000人以上という数字。東京とはケタが違っていたのだ。
緊急事態宣言の発令で東京の街も一時期はずいぶん寂しくなったものだが、ニューヨーク市で実施されたのは文字どおりのロックダウン(都市封鎖)。
後藤記者のツイッターでは、こうしたニューヨークの街の様子も写真つきでときどき紹介されている。
以下は5月10日(日)のツイートだが、日曜昼前だというのに見事にガラガラのタイムズスクエアが写されている。
ただ、米国の新型コロナ関連の各種数値の推移を紹介している8月3日(月)の後藤記者のツイートからグラフを1つ借りてくると…
以下のようになっており、東海岸のニューヨークの新規感染者数はずいぶん減って、南部・西部の地域とは好対照の図柄になっている。
(出所:2020年8月3日(月)の後藤記者のツイートより)
そしてこの夏、米国株上昇のニュースが流れると、そこには「経済活動再開の期待で…」という枕詞がいつもついていたような印象がある。
そんなことが頭にあったので、筆者は今のニューヨークの街はかなりコロナ前の状態に戻っているんじゃないかと何となく思っていた。しかし…
「飲食店は今も歩道などにせり出すようなアウトドアでないと営業できないですし、そもそも開いている店舗が少ないです。小売店も一部はやっているものの、人数規制などはあります。
ブロードウェイは年内休業ですし、映画館はやってないですし、野球は無観客試合。ニューヨークではありとあらゆるエンタメがやってないという感じなんです。
マンハッタンに住んで、マンハッタンのオフィスに通勤していた人も出社する必要性がなくなっていることが多く、そもそも街にいる人が少ないんですね。ニューヨークの街のエネルギーは平時を100としたら、まだ20~30にしかなっていないと感じています。
ニューヨーク州のクオモ知事はアメリカの中でも新型コロナをきちんと制圧しなければいけないという意識が特に強い知事ということもあります。年末に向けていろいろなものが元に戻っていくという雰囲気ではまだないと感じます」
以下は9月6日(日)の後藤記者のツイートだ。そこには、まだエネルギーがみなぎるまでには至っていないニューヨークの街が写し出されていた。
中銀マニア垂涎!? パウエル&カーニーのオフショット激写!
そんな、まだまだ大変そうなニューヨークの街で、後藤記者はどんなふうに取材活動をしているのだろう?
「出社はときどきしているのですが、必要性がない限りは極力自宅で勤務する態勢になっています。
取材はメールや電話やzoomのようなウェブ会議システムを使っています。今は対面の取材というのは、それをお願いすること自体、非常識という雰囲気なんです」
そう、本記事の最初に取り上げたパウエル議長講演。あれが行われたジャクソンホール会議も今年(2020年)はオンライン開催だった。
そのジャクソンホール会議だが、後藤記者は昨年(2019年)、ジャクソンホールの現地でそのときはリアルに開催された会議に取材へ赴いたという。
以下は昨年(2019年)のジャクソンホール会議で撮った写真を散りばめた後藤記者のツイートだ。
注目は左上の写真。ここだけ拡大すると…
パウエルFRB議長とカーニーBOE総裁(当時)が写っている。
たしかに後藤記者も「左上:パウエルとカーニー」とツイートのなかに素っ気なく書いているが、その素っ気なさに反して、これだけの大物2人をずいぶん近くで撮影した貴重な写真ではないか。それも大物2人は遠くの山並みを眺めながら談笑しており、ずいぶんリラックスした表情だ。FX界の一部にいる“中銀マニア”などが見たら、コーフンもののオフショット(?)ではないだろうか!?
この写真も後藤サン本人がパチリと…?
「ええ、私のiPhoneで撮った写真です。ここはジャクソンホールのロッジの裏手になるんですが、山が一番きれいに見えるところなんです。このあたりが屋外だけどスタジオみたいな感じになっていて、撮影スポットになっています」
それにしても、これだけの大物2人との距離感がずいぶん近いですね~。
「ジャクソンホールは国立公園で、アメリカ国民の観光地としても結構人気のある場所なんです。このロッジには一般の宿泊客もいっぱいいて、ロッジのラウンジみたいなところには、そういった一般客と中銀総裁が普通にいっしょに座っていたりします。
IMF(国際通貨基金)総会なんかだと、セキュリティがガチガチにかたまっていて、中には関係者しか入れません。ジャクソンホール会議は一般人と要人の間に異例の距離の近さがある、と言えるかもしれませんね」
(「メディアが騒ぎ始めたら、なぜ相場は終わる? 戦後最悪の景気と株高の併存は気味が悪い」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 編集協力/ザイFX!編集部・堀之内智)
本記事でご紹介している後藤達也さんは2022年4月からフリーランスとなり、新たなツイッターアカウント(@goto_finance)やYouTubeにて、投資・経済情報を発信しています。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)