■米長期金利の上昇では株の上昇トレンドを修正できない
米長期金利(米10年物国債利回り)の急伸で、株式市場の反落がもたらされている。
一時1.6%まで上昇した米長期金利は、S&P500の配当利回りを上回り、株価を圧迫する要素として理解されやすいかと思う。
(出所:TradingView)
何しろ、債券利回りが株配当利回りを上回る状況が長期にわたって維持される場合、敢えて大きなリスクを背負って株式に投資する可能性は低下していくと思われる。よって、マイナス要素であることは間違いない。
もっとも、日米株の上昇が長く続いてきただけに、何等かの材料で調整してくること自体はサプライスではない。
したがって、米長期金利が急伸してきたとはいえ、目先のメイントレンド、すなわち、株高の基調が崩れたといった判断にはつながらない。
換言すれば、あくまでスピード調整と見るべきで、現時点で大袈裟に取り上げるべきではなかろう。
つまるところ、米長期金利が配当利回りと逆転しても、あくまで株価圧迫の要素の1つとして挙げられるだけで、株式市場のメイントレンドを左右する決定要素ではない。その上、長期金利がこれから上昇し続けるかどうかは、なお不透明である。
さらに言えば、長期金利の急伸が問題視される側面が大きく、緩やかな上昇が続く場合、株式市場へのインパクトも低下していくから、目先、米長期金利の上昇で株のメイントレンドを修正できるとは思わない。
■米長期金利の上昇傾向は米ドルを支える要素となる
一方、米長期金利の急伸は、本当は株式市場に比べ、為替市場において、より重要視されるべきではないかと思う。
米長期金利の急伸がこれからも続くとは限らないが、大事なこととして、米長期金利の下落トレンドがすでに終焉し、これから上昇する傾向にあることを確認しておきたい。
(出所:TradingView)
そうなれば、米ドルを支える要素として、これから効いてくる公算が大きい。日本における根強い円高思考の根拠にもなっていた「米長期金利の低下」という流れが完全に逆転された以上、円高の余地があっても限定されるだろう。
もちろん、円のみではなく、ユーロなど外貨にとっても同様であるが、米長期金利の高止まりが頭打ちの要素として意識されてもおかしくなかろう。
とはいえ、目先、米長期金利の上昇のみを取り上げるべきではなく、また、為替市場への影響が思ったほど大きくないことにも、わけがある。
要するに、米国以外の国や地域の長期金利も上昇しており、米国だけの話ではないのだ。日本の場合、10年利回りが一時0.175%まで上昇した。数字自体は微々たるものだが、それでもマイナス金利決定以降の最高値となっている。
(出所:TradingView)
豪州に至っては、直近(本コラム執筆時点)の1.734%の金利水準は2020年高値を大きく上回り、最近の豪ドルの上昇を支えてきた要因として見逃せない。
■為替市場は、まさに転換点に差し掛かっている可能性!
さらに、原油など商品相場の急上昇からして、インフレの上昇を懸念する声が多く、各国の長期金利上昇を一段と促進する可能性がある。
当然のように、株価市場の頭を抑え込む要素として、これから効いてくる可能性も大きいから無視できない。
ただし、為替市場の中心は、あくまで米ドルである。諸外貨の長期金利の動向はもちろん大事であるが、米ドルの事情に勝ることはない。
米ドルの底打ちがあれば、諸外貨の事情がどうであれ、必然的に頭打ちとなる。また、金利を含め、材料面の強さがあってもトレンドを推進できなくなってきた場合、転換点になりやすいことも自明の理だと思う。
言い換えれば、目下は、まさにその転換点に差し掛かっている可能性がある。ドルインデックスの下げ一服の公算は高まり、これから再度、切り返しを果たす可能性に注目しておきたいところだ。
前回2月19日(金)のコラムで、ドルインデックスにおける2月16日(火)のローソク足がもたらす反発の意味合いを指摘した。
【参考記事】
●主要クロス円にとって、コロナショックは長かった円高時代の終焉を意味する存在!(2021年2月19日、陳満咲杜)
しかし、その後、同日安値の割り込みでこの見方は否定され、いったん2月5日(金)からの反落波の延長が示唆されて、切り返しの後ずれを決定した。ゆえに、昨日(2月25日)の90.13の打診は、この流れの一環と見なされる。
(出所:TradingView)
その反面、昨日(2月25日)90の節目を維持し、また、米長期金利の急伸と相まって安値から切り返しを果たしたところは見逃せない。再度、底割れを回避したサインとして読み取れる。
昨年(2020年)6月高値からの大型下落波が、下落ウェッジというフォーメーションを形成してきたことは既述のとおりで、その後の上昇で、いったん同フォーメーションのレジスタンスラインをブレイクしたのも明らかだ。
(出所:TradingView)
2月5日(金)からの反落は、ジグザグ変動をもって昨日(2月25日)安値まで続いたものの、元レジスタンスラインの延長線を割り込めずにいたから、ここから再度、切り返しを果たす公算が高まる。
要するに、2月5日(金)高値からの反落自体が調整波動の特徴を示し、また、元大型フォーメーションの意味合いを証左しているから、2021年年初来安値を再度割り込むリスクが、逆に低下していると読み取れる。
■ユーロの頭打ち警戒! 1.2ドル割れなら下落幅拡大か
このような見方は、米長期金利の値動きと連動しているなら、なおさら軽視できない。
ドルインデックスが、再度、91の節目を打診すれば、一段と大きく切り返しの余地が拡大し、2月高値を更新していくと推測される。
(出所:TradingView)
この見方が正しければ、主要外貨のうち、ユーロの売り圧力が一番大きくなってこよう。
何しろ、英ポンド、豪ドルなどの外貨における、対米ドルの高値更新が確認される中、ユーロ/米ドルは高値更新を果たせなかったから、米ドル全体の切り返しの継続は必然的にユーロ売りにつながりやすい。
再度、ユーロ/米ドルの1.2ドルの節目割れがあれば、一段と反落波の拡大が見られるだろう。
(出所:TradingView)
そろそろ、ユーロの本格的な頭打ちを警戒する段階に入るのではないかと思う。市況はいかに。
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