当時の東京市場では他に第一勧銀、東京銀行、三菱銀行、住友銀行、三井銀行、三和銀行、富士銀行、日本興業銀行、三菱信託銀行、三井信託銀行、モルガン銀行、バンカース・トラスト、ケミカル銀行といったところが一部リーグでしたね。
一方、銀行の規模が小さく、体力がないので、10本とか20本までしかやりません、という銀行は二部リーグになるのです」
ここで今一度、「50本」の日本円での金額を確認しておくと、1ドル=100円として、50億円ということになる。改めてすごい金額だと感じる。
■瞬時の判断で売りか買いか読むのが大変!!
「東京市場のダイレクトディーリングはおもに電話でやっていました。電話でどこかの銀行を呼び出したり、呼び出されたりするのです。
たとえば、電話で呼び出されると、『ドル/円50本ください』とまず本数だけが提示されます。この時点では売ってくるか、買ってくるかわからないんですね。
当時は5銭刻みですから、95円の20銭~25銭レベルだったら、『ニーマル、ニーゴーです』と売値と買値の2つのレートを提示します。そうすると、それを聞いた相手の銀行が売りか買いかを言ってくるわけですね。
この時、向こうが売ってきそうだなと判断したら、少しレートを低くして、『イチゴー、ニーマルです』と95円15銭~20銭を提示したりすることもあります。瞬時の判断で、売りか買いかを読み、レートを提示するわけですが、これが大変なんですよ。
また、東京市場が終わったあとのロンドン市場など、海外の銀行と取引する場合は電話ではなく、ロイター端末で呼び出して取引していました。
東京の銀行同士でも、ドル/円以外のドル/マルクやマルク/円などはロイター端末で取引していましたね」
2ウェイプライスといって、今のFXの取引では投資家に対して、売値と買値が両方提示されているが、それをダイレクトディーリングではおもに電話で声に出してやっていたわけだ。
■1日50回は「机に蹴り」!? 白熱するディーラーの世界
「ブローカーを使って取引する時はボイス・ボックスという機器を使って取引していました。
当時の東京市場にはブローカーが3~4社あって、各ブローカーごとのスピーカーがディーラーの前に並んでいるんです。そこからブローカーの声が聞こえてきます。一方、こちらからブローカーへはマイクで指示を出していました。
いずれにしても、1990年代前半ぐらいまでのインターバンク市場では『声を出して取引する』のが主流だったんですね。
声を出すとね、エキサイトしてくるんです。特にマーケットが大きく動くとね。声に出すことが人間心理を煽るところがあるんじゃないでしょうか。
私も電話を投げつけたり、机に蹴りを入れるなんてことは1日に50回ぐらいはやってましたね」

先にYEN蔵さんの印象を「穏やかな紳士」と書いてしまったが、それは訂正しなくてはいけないのか!? 「電話投げ」と「机に蹴り」が1日50回とはすさまじい!
もっとも50億円とか100億円、あるいはそれ以上の金額をバンバン取引する為替のディーリングルームは、どんなに穏やかな人でも、冷静ではいられなくなる場所なのかもしれない。
(「YEN蔵さんに聞く為替ディーラーの世界(2) 凄まじき仲値の攻防。米屋が出てるぞ~!?」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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