米ドル全面高は一段と進行。一方、円安のリードは曖昧に
今週(11月22日~)に入って以降、相場に大きな「異変」があった。米ドル全面高が一段と進行したことだ。そもそも、米ドル全面高はずいぶん進行してきたから、今さら指摘することはないと思われるが、従来の円安のリードがずいぶん曖昧になってきたところは、やはり特筆しておきたい。
なにしろ、FRB(米連邦準備制度理事会)議長の続投で米ドル高のスピードが一段と加速し、米ドル/円はいったん115円の心理的大台を突破した。にもかかわらず、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)は総じて冴えなかったのだ。
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本日(11月26日)、米ドル/円は少し反落してくると、主要クロス円の多くは下落モメンタムを強め、目先、下値志向を感じさせるほどだ。
それは他ならぬ、従来の円安リードの局面から、ユーロなど主要外貨の全面安局面にシフトしてきた証拠である。
ドルインデックスの頭打ちを示唆するサインがダマシだったことが、上昇を一段と加速させている
プライスアクションの視点では、週明け(11月22日)のドルインデックスの高値更新が、11月16日(火)~18日(木)に形成したサインを否定。同サイン自体が「ダマシ」のサインと変化し、むしろ、上昇波の一段加速をもたらした存在になったとみる。
(出所:TradingView)
同サインは「宵の明星」に近い存在だったので、本来いったん頭打ちの可能性を示唆していた。が、その後ほぼ一直線の高値更新があったから、かえって上昇波の堅調さを証左したとみられ、米ドル全面高の勢いは当面維持されるとみる。
ユーロ/米ドルの頭打ちを示唆するサインがダマシだったことが、下落を一段と加速させている
同じように、ユーロ/米ドルにおける「ダマシ」のサインも鮮明であった。本来いったん底打ちを示すサインが点灯したが、早くも先週(11月15日~)の末には否定され、今週(11月22日~)の一段下落をもたらしたわけだ。
(出所:TradingView)
ユーロ/米ドルの、先週末(11月19日)高値1.1374ドルの更新なしでは、ユーロ/円はなかなか底打ちを探れない状況ではないかと思う。
したがって、先週(11月19日)のコラムにて述べた見方を、短期スパンにおいていったん修正せざるを得ない。
【参考記事】
●米ドル/円の上昇トレンドは維持されている。クロス円で進んだ調整も、いったん完了か?(2021年11月19日、陳満咲杜)
中長期スパンにおいて、円高構造への転換はありえないが、ユーロ/円におけるユーロ安の主導から考えて、ユーロ/円を含め、主要クロス円の底打ちが後ずれになる公算が高いかと推測される。
ユーロ/円、英ポンド/円の日足チャートには下落の可能性を示唆する「インサイド」のサインが点灯
目先のユーロ/円下落もあって、11月19日(金)の大陰線に包まれた形で「インサイド」のサインを点灯し、また、下値トライの可能性を示唆している。
(出所:TradingView)
このような場合、一時にせよ、2021年年初来安値のいったん割り込みもあり得るから、底打ちの可能性があっても、目先のことではないだろう。
本質的には、ユーロ/円の弱含み、また、レンジ変動における下値トライの可能性自体が大きなシグナルである。
前述のように、従来の円安がリードする局面から、主要外貨全面安の局面へシフトしてきたから、主要クロス円における外貨安・円高の進行が、一転して米ドル/円の頭を抑え込む可能性がある。
とはいえ、米ドル/円の上昇トレンド自体は維持されるとみる。頭が抑え込まれるといった話は、あくまでスピードが制限される、という意味合いである。
ただし、本コラムが繰り返し指摘してきたように、米ドル全面高において米ドル/円のリードが曖昧になってくれば、クロス円の多くは外貨安に主導される円高のリスクがかえって高くなるから、要注意だ。
ユーロ/円ほどではないが、直近の英ポンド/円も「インサイド」を形成しつつ、下放れを図ろうとしており、さらなる反落余地の拡大が推測される。
(出所:TradingView)
もちろん、2021年年初来安値更新にほど遠く、また、年初来安値更新は容易には見られないと思うが、反落波の深押しが懸念され、目先、安易に底打ちを想定しない方が賢明であろう。
豪ドル/円は「インサイド」を下放れ。本当に底打ちするまで性急な安値拾いは避けたい
目先の豪ドル/円の下値トライは、11月19日(金)から形成されていた「インサイド」のサインを下放れ、下値志向の継続を示唆。
(出所:TradingView)
さらに、11月16日(火)のローソク足が示した「フォールス・ブレイクアウト」のサイン(11月9日の高値の一時ブレイクがダマシであった)から考えて、現時点までの流れとしてはむしろ、今月(11月)以降の反落幅を加速する方向にあると推測される。
本当に底打ちするまで性急な安値拾いは避けたい。
ユーロ/英ポンドの切り返しがユーロ独歩安局面の修正を示唆
もう1つの現象も見逃せない。米ドル高の受け皿として円、そしてユーロが売られてきたが、今週(11月22日~)以降、ユーロに対するその他外貨の優位性も低下してきた。
ユーロ/英ポンドの日足を見ればわかるように、10月安値の割り込みがあったものの、下落波は一段とは加速されず、むしろ切り返しの先行が見られるから、ユーロも「独歩安」の局面を修正しようとしている。
(出所:TradingView)
これも他ならぬ、米ドル全面高の構造の表れだと思う。そうなると、英ポンド/米ドルは、これからユーロ/米ドルの下落モメンタムを追ってくる可能性もあって、英ポンド/円の頭の重さはしばらく続くかもしれない。
ユーロ/豪ドルも切り返しが鮮明に。豪ドルの優位性がしばらく修正される局面となっている
ユーロ/豪ドルも同様である。8月高値を「ヘッド」とした大型「ヘッド&ショルダーズ・トップ(※)」のフォーメーションを形成、また下放れ以降、ユーロ/豪ドルの大幅下落がみられた。
しかし、同フォーメーションが指し示すターゲットを達成してから、むしろ切り返しの先行が鮮明となり、豪ドルの優位性はしばらく修正される局面にある。
(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ・トップ」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるためで、人の頭と両肩に見立てて「三尊型」と呼ぶこともある)
(出所:TradingView)
同じロジックで言うなら、豪ドル/米ドルも、これからユーロ/米ドルの下落志向を追ってくる余地があり、豪ドル/円の底打ちがあっても後ずれになるだろう。
まとめてみると、今回は前回の見方と打って変わってクロス円における押し目がすぐ来ない、という可能性について注意を喚起したい。
とはいえ、円高構造への復帰ではなく、あくまで円安の流れにおけるスピード調整の拡大、という位置付けも再度、記しておきたい。
この意味では、米ドル/円の高値追いも、もう少し時間がかかるかもしれない。市況はいかに。
(14:00執筆)
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