市場の調整ニーズが「オミクロン・ショック」を生んだ? 今夜の米雇用統計が今後の試金石に
前回のコラムでは、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の反落が想定より長引くことを警戒していた。それは結果的によかったと思う。
【参考記事】
●米ドル/円は115円を超えたが、高値追いには時間がかかる可能性。円安主導の展開に変化、主要なクロス円の底打ちは少し先か(2021年11月26日、陳満咲杜)
何しろ、先週末(11月26日)の米国株の大幅反落で米ドル/円の急落もあって、いわゆる「オミクロン・ショック」が発生し、目先、これが続いていると思われる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
昨日(12月2日)のNYダウの大幅切り返しがあっても、調整波の色合いを払拭できず、今週(11月29日~)に入っての為替市場の値動きも限定的、今晩(12月3日)の米雇用統計待ちというか、ブレイク待ちの状況にあると推測される。
もっとも、このような値動きの大きな背景にはパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のタカ派発言があると解釈される。「オミクロン・ショック」の本質は、マーケットの内部構造とリンクしているのかもしれない。
言ってみれば、調整のニーズがあったからこそ、外部材料に敏感に反応してしまったのだ。
これは株式市場でも為替市場でも一緒なので、米インフレ傾向長期化懸念が高まるなか、さらなる調整があってもおかしくなかろう。今晩(12月3日)の米雇用統計が試金石となり、マーケットの本音を探れるかと思う。
ドルインデックスは元レジスタンスラインによってサポートされている
相場のことは相場に聞くしかないから、テクニカル上のポイントを点検しておきたい。
ドルインデックスの日足を見ると、今週(11月29日~)に入ってからの安値が「規則どおりだった」ことがわかる。
(出所:TradingView)
何しろ、1~3番と表示した高値を連結した元レジスタンスラインの延長線が、ちょうど11月30日(火)安値を制限していたから、内部構造としての強さが示されている。
先週末(11月26日)の反落に続く形での11月30日(火)の波乱自体はむしろ理解されやすかった。
同日の値幅を超えず、目先まで保ち合いが続いているから、日足では「インサイド」のサインを形成、今晩(12月3日)、米雇用統計がリリースされたあとのブレイク次第で、状況は一段と鮮明になってこよう。
ここでまた強調しておきたいのが、米雇用統計の数字自体より、マーケットの反応のほうがはるかに重要ということだ。数字が良ければ米ドル買い、悪ければ米ドル売りという単純な話ではない。
いつものように、そもそも、事前予想がまったくあてにならないほど、同統計は常にマーケットに波乱をもたらしてきたから、それを材料としてマーケットがどのように反応するかはマーケット次第なので、自分勝手に推測してはいけない。
とはいえ、少なくとも目先はドルインデックスのブル(上昇)構造が維持され、また証明されている。したがって、今晩(12月3日)の米雇用統計後でもそれが維持され、さらに11月30日(火)高値96.65のトライやブレイクがあれば、強気構造が一段と証左されるだろう。
反面、仮に同日安値95.54の割り込みがあれば、10月末からの強い上昇波は否定できないものの、先週末(11月26日)から続く調整波の一段拡大を短期スパンにおいて覚悟しておきたい。なにしろ、再掲載した以下のチャートが示すように、重要な元レジスタンスラインのサポートが効かなくなるから、一部ロング筋の手仕舞いが容易に推測される。
(出所:TradingView)
米ドル/円は元レジスタンスラインのサポートを割り込むか否かに注目
シンプル・イズ・ザ・ベスト。難しい局面にあるからこそ、難しいアプローチ手法ではなく、できるだけ簡潔なメソッドをもって相場を測りたい。
米ドル/円の現状に照らして考えると、目先、一番気になるのが、やはり2~3番で連結した元レジスタンスラインの延長線が維持されるかどうか、というところではないかと思う。
さらに、2020年高値レベルである112.22円前後がやはりサポートゾーンとして意識されており、今晩(12月3日)の米雇用統計後の動向次第では、短期スパンにおける変動幅を再考しなければならないだろう。
(出所:TradingView)
もちろん、維持される場合は米ドル/円の強気構造が再度証左され、先週末(11月26日)からの下落幅を一気に取り戻せなくても、徐々に再度高値更新を試していくだろう。
反面、112円前半のサポートゾーンが効かなくなる場合は、一段と調整の余地を拡げ、昨年(2020年)コロナショック直後の高値(2020年3月高値)111.72円前後、さらに、場合によっては円売りポジションの一段整理で、一時的にせよ、110円台への突っ込みがあってもサプライズではなかろう。
チャートの節目ごとにロング筋やショート筋の損切りオーダーが密集しており、相場には短期スパンでも一方通行になりやすい時期がある。
サポートゾーンを割り込んでいるユーロ/円はさらなる下落の可能性も
クロス円の状況もだいぶ悪化してきたので、目先、楽観視できない。
代表的なクロス円であるユーロ/円は、2021年年初来安値を割りこみ、また、チャート上に示した1~3番の安値で連結したサポートゾーンの割り込みもあった。したがって、今晩(12月3日)の米雇用統計後、早期回復し、また、その割り込みが「ダマシ」であったことが証明されなければ、やはり、反落波が一段と進行することを覚悟しておきたい。
(出所:TradingView)
昨年(2020年)のコロナショック後安値を起点とした全上昇幅の、38.2%反落水準が126円台後半にあるから、同安値水準のいったんのトライがあっても許容範囲内だと思う。
米ドル/円は、中期的に見ると押し目買いの好機か
市場心理を悪化させたもう1つの問題も見逃せない。それは、原油の急落だ。
商品相場が崩れたことで、資源国通貨とされる豪ドルも大幅続落、対米ドルでの2021年年初来安値更新もあって、本来の資源国通貨として、対円での豪ドルの優位性もだいぶ剥落してきた。
その優位性を取り戻せるかどうかも、今晩(12月3日)の値動き次第だが、結論から申し上げると、短期的に優位性が低下しても、中長期的な位置付けはあまり変わらないと思う。
なぜなら、豪ドル/円の優位性は単に豪ドル/米ドルのみでなく、結局、米ドル/円の動向に左右されるが、中長期スパンにおける米ドル/円の優位性は変わらないとみるからだ。
そのあたりの話はまた次回に譲るが、米ドル/円の調整が目先進行してくれば、中長期スパンにおいてむしろ絶好の押し目買いの好機であることを記しておきたい。市況はいかに。
(14:00執筆)
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