労働党パニックの裏で始まった「英国政治の再編」
先週(5月4日~)実施された英国地方選挙、スコットランド・ウェールズ議会選挙は、単なる労働党への警告ではなく、英国の政治そのものが、従来の枠組みでは統治できなくなりつつあるという、より深刻な現実を突きつけました。
報道各社の記事を読むと、「次の首相は誰か?」という議論が飛び交っていますが、今回の選挙結果と、その後に噴き出した労働党内部の混乱を見る限り、問題はもはや個人レベルの話ではないと私は感じています。英国政治そのものが、大きく揺れているのです。
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地方選挙が暴いた「二大政党制の終焉」
今回の選挙でもっとも重要なのは、リフォームUK党の躍進だけではありません。ウェールズでは、1999年に議会が創設されて以来の労働党支配体制が崩れ、民族主義政党プライド・カムリが主導権を握る可能性が現実味を帯びてきました。
スコットランドではSNP(スコットランド国民党)が依然として存在感を保ち、さらにイングランドでは反移民政策を公約に掲げているリフォームUK党が既存二大政党への怒りの受け皿となっているのです。
今回の選挙で明白となったのは、英国政治は、保守党と労働党の2大政党制が崩れ、そこにリフォームUK党、緑の党、自民党が加わった多極化時代へ入ったと言っても良いでしょう。

(※筆者提供)
単なる「支持率低下」の話ではない
英国政治を長年支えてきた2大政党制そのものが、制度疲労を起こし始めたのでしょう。従来の英国政治では、有権者は最終的には保守党か労働党へ収れんしていったのですが、現在は、左右双方から既存政治への怒りが噴出し、有権者が分散しています。
しかも問題なのは、その分散が「一時的現象には見えない」ことかもしれません。
今回の選挙を受けて見えてきたのは、「次回総選挙では3党、4党、あるいは5党による大接戦選挙区が大量発生する」という見方です。
これが現実となれば、英国にとって極めて大きな構造変化です。
英国は長らく、「勝者総取り型」の小選挙区制度によって安定政権を維持してきましたが、有権者が多極化すればするほど、その制度は逆に機能不全を起こし始めるという皮肉なシステムです。
つまり英国は今、「2大政党制を前提とした制度」と、「多党化した現実」との間で、深刻なねじれを起こし始めているのです。
労働党で起きているのは「党内抗争」ではない
今回の地方選後、英国議会ではスターマー首相の進退をめぐり異様な緊張感が走っています。しかしよく観察すると、興味深い事実が浮かび上がってきました。それは、「次の首相候補」がまったく定まっていないことです。
次期党首候補
現在名前が挙がっているのは、(上から左派→中立の順)
アンディ・バーナム(マンチェスター市長)
アンジェラ・レイナー(元副首相)
ウェス・ストリーティング(保健相)
そこに、以前労働党の党首をしていたエド・ミリバンド(エネルギー・安全保障大臣)待望論まで浮上してきました。
少なくともここ数日は、それぞれの陣営が互いを警戒し、牽制し、メディア戦を仕掛け合っていますが、完全なる分裂状態です。選挙で惨敗したという不安定な状況でありながら、誰も決定打を打てず、誰も主導権を握れていません。
この観察を経て私が感じたことは、英国に住む人間にとって重要なのは、「誰が勝つか」ではなく、労働党がすでに「政権党としての自己統制能力」を失い始めているという事実でした。言い換えれば、労働党は終わったということです。
そしてこれは、マーケットにとっても極めて危険な状態です。というのは、マーケットは「誰がこの英国を統治できるか」の答えを待っているからです。
スターマー問題の本質とマクロン大統領との類似点
スターマー首相は、「安定」の象徴として登場した人物でした。イデオロギー色を極力抑え、官僚型の安定運営を目指すやり方が、強みだったと思います。
しかし今、同首相が直面しているのは、まさにその「管理型政治」の限界かもしれません。現在 英国は、移民・医療制度・エネルギー・EU離脱後の停滞という複数の問題を同時に抱えています。この状況を、「管理能力」だけでは乗り切れないのは、明白です。
これは週末にふと頭に浮かんだことですが、現在起きている現象は、フランス政治と非常によく似ているということでした。中道路線を掲げたマクロン政権もまた、左からも不満、右からも不満、既存政治への怒りの受け皿にはなれませんでした。その結果、政治の中心部から空洞化していった印象です。
現在の英国でも、同じ現象が起き始めているように見えます。
英ポンド市場が恐れているもの
今回の混乱の中で印象的だったのは、「どのシナリオでも、英ポンドや英国債にプラスとは思えない」という市場関係者のコメントでした。
通常、マーケットは「マーケット・フレンドリーな政権か?財政規律重視か?」をチェックします。しかし今の英国では、それ以前の問題が起きており、「英国政治は、今後も安定的に意思決定できるのか」という点がクリアにならない限り、きちんと動けないリスクが出てくるかもしれません。
●複数のテーマが同時進行中
スターマー首相が辞任しようが、新しい首相が誕生しようが、目の前の問題解決義務には変化ありません。
いくつか挙げますと、
・選挙での惨敗とリフォームUK党の躍進との向き合い方
・EUへの最接近論の浮上
・EU単一市場と関税同盟復帰論の浮上
・(スターマー首相が辞任すれば) 財政拡張リスク
・スコットランド独立問題再燃リスク
このような複数のテーマが、同時進行しますので、マーケット参加者にとって現在の英国は、単なる政権不安ではなく、「国家の方向性そのもの」が定まらなくなりつつあるように映るのです。
●政治的分裂と制度不安の同時進行
特に英ポンドや英国債市場にとって厄介なのは、「政治的分裂」と「制度不安」が同時に進行している点かもしれません。
英国が直面しているのは、単なる景気循環の問題ではありません。
英国という国家モデル自体が、Brexit後の新しい均衡点をまだ見つけられていないのでしょう。
問われているのは「次の首相」ではない
上述の繰り返しになりますが、現在 英国では次の首相は誰がなるのか?という話題で持ちきりです。しかし、今回の地方選が訴えかけているのは、もっと深い問題です。
それは、英国政治そのものが、従来型の統治モデルでは機能しなくなりつつあるという現実でした。
5月11日(月)、時間は不明ですが英国時間昼前くらいに、スターマー首相が演説を予定しているそうです。話す内容は、EU(欧州連合)との関係強化について。
先ほど書いたように、EU単一市場と関税同盟復帰論が浮上していますので、それについての説明になるだろうと私は推測しています。
ここまで読んだ勘が良い読者の方はピン!ときたと思いますが、万が一 この問題について次期首相も真剣に取り組んでいくのであれば、2029年総選挙は「EU再加盟の是非を問う国民投票」となることは、間違いありません。
●英ポンドの動き
私は、3つの時間軸を設定しています。
・短期→今週水曜日の「国王の演説」までの期間
・中期→9月末の党大会までの期間
・長期→年末までの期間
首相交代があるとしたら、上記3つの時間軸のどれかで実施されるはずです。
市場は「不確実性」や「政治の空洞化」を嫌いますので、英ポンドは気がつくと売られるという地合いが続くかもしれません。

(※筆者提供)
こちらはユーロ/英ポンドの日足チャートですが、0.8600/20ポンドがサポートされている限り、直近のリスクはユーロ買い/英ポンド売りになるでしょう。
0.89ポンド台に入るような動きになると、大手金融機関が「ユーロ/英ポンドのパリティ(1.0000)待望論」の顧客向けレポートを出しますので、あまり惑わされないようにしたいと思います。
まずは、0.87ポンド台への攻防を見極めたいところです。






















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