英国政治の「最初の試金石」
2026年2月26日(木)、英国の労働党の伝統的な地盤であるマンチェスター北東部 Gorton and Denton(ガートン&デントン) 選挙区で、国会議員補欠選挙が行われます。これは、現職の労働党グウィン議員が健康上の理由で辞任したための補欠選挙です。
通常であれば、補欠選挙は規模が小さく注目されることはありませんが、5月7日(木)に実施される英地方選挙・スコットランドとウェールズの議会選挙の前哨戦として、主要政党の支持基盤や政治潮流を映し出す「ミニ国政選挙」として、与野党ともに注目しています
【注目される理由】
有権者数わずか7万8125人(2024年時点)しかないマンチェスターの小さな選挙区での補欠選挙が、ここまで注目されるのには理由があります。
今年(2026年)1月22日にグウィン議員が引退を発表した瞬間に、BBCや英各紙の一面を飾り、ロンドン金融街のトレーダーたちは緊張しました。
というのは、グウィン議員辞任で空いた議席の後釜として、現グレーター・マンチェスター市長であり「北の帝王」と呼ばれるバーナムさんの国政復帰が現実味を帯びたからです。これは単なる人事異動ではなく、スターマー政権に対する「左派からの宣戦布告」と受け取られる動きであり、英ポンドや英国債(ギルト)を揺るがす経済的リスクに直結する動きでした。
どうしてグウィン議員の辞任が必要だったのか?
日本人にはなじみの薄い英国特有の選挙ルールとして、国会議員選挙には「居住地の制限」がありません。つまり、ロンドンに住んでいようが、マンチェスターに住んでいようが、党の公認さえあれば全国どこの選挙区からでも立候補が可能です。
しかし、現職の市長であり国政復帰の噂が絶えなかったバーナムさんが国政に戻るには、ひとつの高いハードルがありました。それは「議席が空くまで我慢する」ということでした。
この国では、現職議員が任期途中で辞職した場合、その選挙区で「補欠選挙」が実施されます。グウィン議員が、このタイミングで辞職の合意に達したということは、バーナムさんにとって「国政復帰への強力なチャンス」が巡ってきたということです。
たまたまかもしれませんが、グウィンさんの選挙区はマンチェスター市内に位置し、人気市長のバーナムさんの支持基盤と重なります。ここから出馬すれば、当選はほぼ確実となり、バーナムさんが国会議員資格を取り戻し、最短距離で「労働党の党首選」への出馬権が得られるはずでした。
立候補を認められなかったバーナム候補
補欠選挙に立候補するには、労働党の公式候補として認められる必要があります。
通常、候補者の選定は地元の党員による投票で行われますが、補欠選挙などの緊急性が高いケースや特殊な状況では、労働党全国執行委員会(NEC、 National Executive Committee)が主導して候補者を絞り込みます。
NECは労働党の最高意思決定機関であり、党の運営、規則の制定、そして何より候補者の選定プロセスに絶大な権限を持っています。言い換えれば、誰を候補者リストに載せるか、あるいは特定の候補者を「差し止める」かなどの最終決定権を握っているという意味です。
今回のケースでも、バーナムさんがスムーズに立候補できるかどうかは、NECがどのような選定プロセスを敷くかにかかっていましたが、スターマー政権下ではNEC は同首相の意向を反映しやすい構成になっており、バーナムさんの立候補に対しNEC幹部会は申請を却下したのです。
この驚くべき決定を受け、「民主主義の否定」との批判が出ましたが、バーナム市長は無所属で立候補する気はないと語り、断念しました。
補欠選挙での主要候補と政党
このようないきさつがあったので、2月26日(木曜日)の補欠選挙結果には、否が応でも注目が集まります。
この地域は、これまでずっと労働党が50%以上の支持を得てきた「安全地帯」ですが、最近の労働党支持の低迷や政策不満、バーナムさんに対する嫌がらせ(?)などから、今回の補欠選挙は 三つ巴の構図とされ、主に次の3党が激しく争っています。
労働党候補者:Angeliki Stogia (アンゲリキ・ストギア)
大学時代にイギリスに移民で入国したギリシャ人候補。
伝統的には、この選挙区では労働党は絶対的な強い支持を持つが、近年支持が低迷。
緑の党候補者:Hannah Spencer (ハナ・スペンサー)
環境・社会政策を掲げる急進左派勢力として台頭しており、若年世代や都市部で支持を伸ばしている。労働党からの票を引き寄せると期待が高い。
リフォームUK党:Matt Goodwin (マット・グッドウィン)
イギリス初の政治メインのテレビニュース新興企業:GBニュースのキャスター、かなり右翼色が強い人物。リフォームUK党は旧Brexit党であり、右派・ポピュリスト政党として、特に今回の補欠選挙が行なわれるデントン地域で、労働党支持層の一部を浸食。 地域の不満や安全保障を訴えている。
上記以外にも、保守党や自由民主党なども候補者を擁立していますが、注目は上記3勢力に集中しています。
現時点では、未定票が25~30%存在すると言われており、若年層では左派・環境重視の緑の党が、伝統的労働階級層ではリフォームUK党への流れが顕著だそうです。
私が読んだ報道では、最新の世論調査によると、緑の党・リフォームUK党・労働党それぞれの支持率は15~20%で拮抗しており、未定票の動きが結果を左右すると見られています。
英国政治の「新しい波」
今回の選挙は、単なる補欠選挙ではありません。労働党の伝統的基盤の変容や、今まで泣かず飛ばずだった緑の党の勢い、リフォームUK党というポピュリズム政党の台頭といった新しい動きが鮮明に表れています。
そしてここが大事ですが、この結果は、5月7日(木)の地方選挙とスコットランド・ウェールズでの議会選挙、そして2029年総選挙に向けた前哨戦となる可能性が指摘されていることです。
左寄りの緑の党が勝てば、労働党を含む左派の再編と環境政策重視の潮流が進む象徴。 右寄りのリフォームUK党が勝てば、既存保守政党の枠を超えた新しい政治勢力の勃興を示すと言っても過言ではないでしょう。
可能性としては低いでしょうが、万が一 予想以上に労働党が巻き返せば、党内基盤の粘り強さと地方組織力の重要性を示し、スターマー首相にとっては大きな安心材料になるはずです。
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⇒英国のスターマー政権終焉が迫る!この事態はなぜ起きたのか?次期首相候補のバーナム氏にも金融市場大惨事のリスク!?英10年国債利回りのチェックするクセをつけたい(2月10日、松崎美子)
マーケットへの影響
バーナムさんが立候補していれば、マーケットは大荒れになっていたはずです。1月22日のグウィン議員辞任と補欠選挙実施のニュースを受け、市場は即座に反応しました。
英10年物国債利回りは上昇し、対米ドル・対ユーロで英ポンドは初動では下落したのです。これは、投資家が「スターマー政権の安定が崩れ、将来的に財政支出を好むバーナムさんがリーダーシップを握る不確実性」を価格に織り込み始めた証拠でしょう。

(※筆者提供 TradingView)
最終的にバーナムさんは立候補ができなくなりましたが、補欠選挙で政治の不透明感が高まれば、短期的には英ポンドは下落圧力を受けやすくなります。
特に緑の党やリフォームUK党が予想以上に伸びる場合 は、英ポンドが一時的に弱含む可能性があります。逆に、労働党が安定した支持を確保できれば、市場の不透明感は和らぎ、英ポンドへの影響は限定的でしょう。
中期的な視点では、労働党基盤の弱体化や、緑の党やリフォームUK党の躍進が続けば、財政政策や英中銀の政策運営などへの不確実性も増し、英ポンドのボラティリティが高まりかねません。
繰り返しになりますが、2月26日(木)の補欠選挙、そして5月7日(木)の選挙での市場関係者の注目点は、「労働党が地盤を維持できるか」「非伝統的勢力がどこまで伸びるか」に集中しており、予想外のタイミングでの英ポンドの乱高下には気をつけたいですね。

(出所:TradingView)













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