ベッセント米財務長官「2時間の不満」、原典はニューヨーク・タイムズ
みなさん、こんにちは。
ベッセント米財務長官が訪日した5月11日(月)、片山さつき財務相との夕食会では何が起きていたのでしょうか?
約4カ月を経て出てきた報道の出所をたどると、そこには「影の日銀総裁」問題と、米ドル/円がなかなか160円台を超えられない理由が、そのまま書かれていました。
9月2日(火)、時事通信・FNN・テレビ朝日などが「ベッセント米財務長官が5月の訪日時、片山さつき財務相に2時間以上不満をぶちまけた」といった記事を一斉に報じました。
いずれも「米紙報道」を引用した二次報道で、原典はニューヨーク・タイムズです。
つまり、日本の報道各社が引用した情報は、日本の記者クラブ経由ではなく、米国側の取材によって明らかになったものということになります。
日本の報道各社が共通して、ベッセント米財務長官の発言として報じたのは、次の2点でした。
「なぜ日銀には独立性が与えられていないのか」
「なぜ高市首相を取り巻く一部の経済顧問たちは、円安のメリットを説いているのか」
財務省の公式発表にも、この夕食会が開催されたことが記されています。
「日米財務大臣会談(令和8年5月12日)」の発表文には、5月11日(月)に夕食会を開催し、翌12日(火)午前9時20分から約35分間の会談を行った、と明記されています。対面会談としては5回目でした。
ところが、会談の概要として財務省HPに書かれているのは、中東情勢と為替を含む金融市場動向、AIの進展に伴うサイバー脅威、重要鉱物のサプライチェーンです。
そして、片山財務相は会見で「日米間で非常によく連携できていることを確認した」と述べ、金融政策については「日本銀行との関係があるので申し上げられません」と言及を避けています。
ニューヨーク・タイムズが報じた「2時間以上」は、公式発表の5月11日(月)夕食会と時間的に整合します。翌12日(火)の正式会談はわずか35分でした。
つまり、実質的な議論の多くは前夜の夕食会で行われた、と読むのが自然です。
市場にとって今回新しかったのは、「ベッセント米財務長官が日銀利上げを求めている」という事実そのものではありません。
このことは、5月時点でBloombergが「片山氏にかけた圧力の内実」として報じています。5月20日(水)にパリでロイターが行ったインタビューでも、ベッセント米財務長官は「日本政府が中銀に独立性を認めれば、植田総裁は『するべきこと』をやると確信している」と語っています。
今回の報道で新しかったのは、財務省の公式発表や片山財務相の会見からは見えなかった、ベッセント米財務長官の圧力の「温度」と「長さ」が明らかになったことです。
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4カ月の動きで見えてきた『影の日銀総裁』問題
5月11日(月)の夕食会から4カ月間の出来事を時系列に並べると、今週の報道が単発のゴシップではないことが分かります。
【5月11日】ベッセント米財務長官・片山財務相の夕食会(約2時間)。今回ニューヨーク・タイムズが報じた場面
【5月12日】日米財務大臣会談(35分)。財務省の公式発表は中東情勢・AI・重要鉱物が中心。金融政策への言及なし
【5月20日】ベッセント米財務長官がパリでロイターのインタビューに応じた。「植田総裁は優秀な中央銀行総裁」「独立性を認めれば、するべきことをやる」
【6月15日~16日】日銀、政策金利を1.00%へ引き上げ。国債買入れ減額は2027年春に停止する見通し
【6月16日~17日】ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)新議長下で初のFOMC(米連邦公開市場委員会)開催。政策金利は据え置きだったがタカ派化し、参加者予想は2026年利上げへ転換
【7月31日】日米協調円買い介入。ベッセント米財務長官自身がSNSで公表し、米国が実弾で支援。米ドル/円は155円台へ急落
【8月12日】「円安是正の絶好の機会を逃した日銀」――高市首相とベッセント米財務長官の足並みの乱れがBloombergに報じられる
【8月中旬】日本の2年債利回りが1.62%と31年ぶり高水準へ
【8月23日】市場は日銀9月利上げを約8割織り込み(OIS(翌日物金利スワップ)ベース、8月21日時点で約82%)
【8月28日】財務省は7月30日(木)~8月26日(水)の円買い介入額が15兆3993億円と単月ベースで過去最大だったと公表
【8月28日前後】ジャクソンホール会議で、ウォーシュFRB議長がインフレ警戒を強調。9月FOMC利上げ確率が急上昇し、米ドル/円は160.20円台を回復
【8月31日】ベッセント米財務長官がロイターとのインタビューで、「円の動きはかなり抑制されている」「無秩序ではない」「日銀には何をすべきか指示するつもりはない」「アベノミクスはおそらく終わりを迎えた」と発言
【9月1日】ベッセント米財務長官と植田日銀総裁がG20財務相・中央銀行総裁会議で会談。米財務省の公表文は「円の大幅な過小評価に対処するための日本による決然とした市場・金融面での措置」を強く支持、と明記。植田総裁は「次回会合を含め毎回しっかり議論する」。日本の借入コストは30年ぶり高水準に
【9月2日】米ドル/円が東京市場で160.39円まで上昇後、高田日銀審議委員が「連続利上げになることもあり得る」と発言し、米ドル売りで反応。NY市場ではADP雇用報告が下振れ(+3.8万人/予想+4.7万人)もあり、158.22円まで下落。日銀9月利上げの織り込みは100%へ
【9月2日】NYT報道が日本で拡散。5月の夕食会の中身が公になる
ベッセント米財務長官の発言で興味深いのは、8月31日(日)の「日銀には何をすべきか指示するつもりはない」と、9月1日(月)の米財務省の公表文にある「円の大幅な過小評価」とで、明らかに温度が違うことです。
表向きは中銀の独立性を尊重し、公表文では過小評価を名指しする――この二面性こそが、5月の夕食会から一貫したベッセント流です。
ニューヨーク・タイムズの報道は、その二面性の裏側を市場に見せた形になりました。
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米ドル/円、160円台が重い4つの理由
当面の米ドル/円を僕はどう見ているのか。結論から言えば、156.00〜161.00円を中心に、上値も下値も「抜けられない」レンジ相場になる公算が高いという見方は変わりません。

(出所:TradingView(トレーディングビュー))
まず、160円台が重い理由は4つあると考えています。
1つ目は、7月31日(金)の協調介入の記憶です。米国が実弾で参加した事実は消えません。当局はFRBのレポ・ファシリティを活用することで介入を継続する余地があり、介入余力への懸念も大きくありません。
ヘッジファンドは160円台での円売りにアグレッシブになりにくくなっています。
2つ目は、米財務省が「円の大幅な過小評価」と公式に書いたことです。9月1日(火)の植田日銀総裁との会談の公表文は、市場に対する強いメッセージと受け取ることができます。ニューヨーク・タイムズの報道はその傍証として効いています。
3つ目は、日銀の9月利上げを、市場がほぼ完全に織り込んでいることです。9月17日(木)〜18日(金)の日銀会合(日銀金融政策決定会合)を前に、高田日銀審議委員が「0.25%ずつ年2回と決まっているわけではない」「連続利上げもあり得る」と踏み込んでいます。
野村證券もメインシナリオを9月利上げに前倒しし、政策金利の最終到達点を1.75%と想定しています。
4つ目は、米金利が上がっても米ドルが買われないことです。8月の最大の特徴はこれでした。米10年利回りが4.7%台に戻しても米ドル/円は伸びませんでした。米金利上昇=米ドル買い、という従来の関係が効きにくくなっています。
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それでも米ドル/円、156円台が底堅い4つの理由
米ドル/円の160円台が重い理由がこれだけ考えられるなか、それでも156円台が底堅い理由も4つ考えられます。
1つ目は、原油高です。WTI原油先物は9月1日(火)に前日比+5%の90.68ドルへ急騰し、2日(水)も89.56ドルと90ドル近辺で推移しています。8月初旬の75ドル台からは1カ月で約2割高、前年比では4割超の上昇です。
米国がイランへの空爆を再開し、イランが在中東の米軍拠点に報復しました。日本の貿易収支と実需の円売りに直結します。こうした緊張が続く限り、リスクプレミアムは消えません。
2つ目は、これまでの介入でも円安トレンドを反転させるには至っていないことです。7月末の155.23円から、8月は156円台、そして160円台へ素直に戻しました。
財務省の実績によれば、7月30日(木)~8月26日(水)の円買い介入額が15兆3993億円と単月ベースで過去最大。4〜6月期の11兆7349億円と合わせると、年初来の介入額は27兆円を超えています。それだけの弾を撃ってなお、トレンドは変わっていません。
3つ目は、構造的な円売りが存在することです。対外直接投資の再投資、デジタル赤字、潜在成長率。これらは会合ごとの利上げで消えるものではありません。
4つ目は、FRBも利上げ側にいることです。ジャクソンホール会合後、9月15日(火)〜16日(水)のFOMCの利上げ確率は、一時66%まで上昇しました(足元は6割程度)。現在の3.50〜3.75%からの利上げを織り込む世界では、日本が利上げしても日米金利差は縮まりにくいと言えます。
これらのことから、米ドル/円は156〜161円のレンジに収束する公算が高く、短期売買での対処のほうがいいかもしれません。
それでは、先月(8月)からこのコラムで注目している豪ドル/円をチェックします。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円には米ドル安が反映されにくい! 拡大する「ディベースメントトレード」とはなにか? 本命は豪ドル/円などのクロス円か(8月27日、西原宏一)
⇒米ドル/円は160円が上値の目安も、レンジ相場で売りはスワップ負担が重い。注目は120円を目指す高金利の豪ドル/円!(8月20日、西原宏一)
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豪ドル/円はなぜ115円を抜けられない?
金(ゴールド)は、1月の5595ドルという史上最高値から距離がありますが、8月に4000ドルレベルから4700ドル近辺まで一気に戻し、本稿執筆時点でも4408ドルで推移しています。
中銀の買いが四半期ベースで過去最高というのは、押し目に構造的な買い手がいるということです。
資源国通貨である豪ドルにとって「金が底堅い、資源価格が底堅い、RBA(オーストラリア準備銀行[豪州の中央銀行])は利上げ側」という環境は追い風です。こうした材料が、豪ドル/米ドルの底堅さにつながっています。
それでも、豪ドル/円が115円を抜けないのはなぜでしょうか。
答えははっきりしています。豪ドル/米ドルは先週(8月24日~)、0.7208ドルと15週ぶり高値をつけ、現在も0.7165レベルとなっており、豪ドル自体は底堅いのです。
ただ、同じ期間に米ドル/円が160円で頭を抑えられており、豪ドル/円の上値は、米ドル/円の介入警戒キャップにそのまま連動しています。
逆に言えば、米ドル/円がレンジで推移する前提に立つなら、豪ドル/円の115.00円ブレイクに必要なのは、豪ドル/米ドルが0.73ドル台に乗せてくることだと言えます。
ベッセント米財務長官の動きもあり、米ドル/円は160円台で当面上値が抑えられそうです。
注目は引き続き、豪ドル/円となります。
米ドル/円が上値を伸ばせないため、豪ドル/円も115円のレジスタンスをなかなか超えられませんが、豪ドル/米ドル自体も底堅く、豪ドル/円は忍耐強く押し目買い継続と考えています。

(出所:TradingView)
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