今回は、2011年の為替市場最大のテーマであるユーロについてです。
多くのエコノミストやヘッジファンドは、昨年に続き、ユーロ圏のソブリンリスク(国家に対する信用リスク)に注目し、ユーロの下落を予測しています。
そのシナリオのとおり、ユーロ/米ドルは今年のオープニングの1.3337ドルから下落が続いています。
その背景を探ってみましょう。
■ポルトガル、スペインからベルギーへ
ユーロ安を加速させた要因の1つが、英デイリー・テレグラフ紙の次の記事。
「欧州委員会は、ユーロ圏域の銀行破綻の費用負担を優先債券保有者にまで拡大させる計画を推進する」
この記事をきっかけに、欧州の金融機関の資金繰りが市場の話題になっています。
スペインのサンタンデール銀行や、ベルギーのデクシア(※1)などのCDS(※2)のスプレッドは、一時、リーマン・ショック時を上回る水準まで拡大しました。
ポルトガルの銀行株が下落し、ポルトガル国債も暴落しています。
※1:デクシア=Dexia(デクシア)は、ベルギーに本拠を置くヨーロッパ有数の金融グループ。
※2:CDS=クレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap)とは、クレジットデリバティブの一種で、債権自体を移転することなく信用リスクのみを移転する取引。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
欧州金融市場の動揺を背景に、ユーロ/米ドルは1.3125ドルのバリアを突破し、2010年12月に底堅さを見せた1.30ドル台に突入しました。
その後も大きな戻しはなく、ズルズルと1.28ドル台へと下落し、1.2850ドルのバリアの手前でようやく下げ止まるという展開に。
2011年のユーロ/米ドルは、年初からわずか1週間で500ポイント近く急落してスタートしたのです。
■欧州当局の対応でユーロが反発した
ユーロ周辺国の国債の暴落に対し、欧州当局は即座に対応しました。
昨年12月のユーロ周辺国の国債暴落時に、ECB(欧州中央銀行)が国債を購入して沈静化させたことは記憶に新しいところです。
今回も、この混乱に対して、まずECBがポルトガル国債を購入したとの報道が流れ、これで、ユーロ/米ドルは1.29ドル台後半まで反発しました。
次に、EU(欧州連合)の関係者が「来週、救済基金の貸出能力拡大の可能性を検討する公算」と明らかにしたことで、ユーロ周辺国の債券市場は沈静化しました。
加えて、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)がアイルランド支援に向けて月内に発行を予定している債券について、日本政府が購入の意向を示したこともユーロの追い風となりました。
1月12日にポルトガルの国債入札が行われましたが、混乱なく通過しています。
さらに、ドイツのメルケル首相が「我々はユーロ支援に必要なことを支持する、加えて、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の拡大を支持する」と発言したとの報道が流れると、欧州の金融株やCDSも急回復しています。
ユーロクロス(米ドル以外の通貨とユーロの通貨ペア)はいっせいに上昇し、また、ユーロ/米ドルは執筆時の1月13日午前11時現在で、1.3100ドル台までリバウンドしています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 1時間足)
友人のヘッジファンドもいっせいに、ユーロ/米ドル、ユーロクロスを買い戻しているとのことです。
■マーケット参加者はさらなる下落を懸念している
ただ、欧州当局の迅速な対応にも関わらず、マーケット参加者の多くは、ユーロ圏のソブリンリスクに対する懸念を払拭できない状況が続いています。
日本政府がEFSFを購入するという報道も、裏をかえせば、欧州の資金不足が原因です。
つまり、欧州当局は救済先を海外に求めるほど困窮している状況と考えることもできます。
また、前述のとおり、欧州のソブリンリスクは今年に入り、ポルトガルやスペインに加えて、ベルギーまで拡大しており、ベルギー国債とドイツ国債のスプレッドは一時、急拡大しています。
ユーロ/米ドルは、年初から一方的な下落が続いたことと欧州当局の迅速な対応により、短期的には反発する可能性が濃厚です。
しかし、ユーロ圏のソブリンリスクに対する根本的な打開策が出てこない状況が続いている中、中期のユーロ安の流れは変わっていないのではないでしょうか?
現在、ヘッジファンドなどの短期筋は、年初からのユーロ/米ドルのショートポジション(売り持ち)を縮小しています。
1-2monthでユーロ/米ドルの1.25ドルあたりのオプションを物色して、次の下落に備えているといったところです。
2011年の為替市場も、「ユーロ」が主役になりそうです。
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