(「松下誠さんのシンプルなトレード演習(1) 1500万円もの損失からどう立ち直ったか?」からつづく)
相場のトレンドを明確に定義するダウ理論
さて、松下さんのDVDブック『FXトレード演習帳[チャート攻略編]』で、相場のトレンドを判断する基本的な考え方として、詳しく説明されているのが「ダウ理論」だ。
ダウ理論のダウとは、チャールズ・ダウという人の名前。みなさんご存じの株価指数「ニューヨーク・ダウ」(ダウ工業株30種平均)を考え出した人であり、かの「ウォール・ストリート・ジャーナル」を作った人だ。
「ダウ理論」全体にはいくつもの「法則」が含まれているのだが、松下さんが使っているのはそのうちの1つ。
それは安値が切り上がり、高値が切り上がっているものをアップ(上昇)トレンド、高値が切り下がり、安値が切り下がっているものをダウン(下落)トレンドと定義するものだ(下図参照)。
「今、市場で何が起こっているのかということがダウ理論では具体的によくわかるんです。安値が切り上がっていくというのは、それはその場所で明白に『買われている』ということ。『買われている』ことがわかるわけですね。
だから、ダウ理論はしっかり使わないともったいないと思います」
ダウ理論に疑問あり!?
以上のように松下さんは話すが、記者にはちょっと疑問もあった。
上のようにダウ理論を模式図で示されると、確かに安値切り上げ、高値切り上げが明確にわかるのだが、実際のチャートでは、こんなにきれいな動きにならないこともしばしばある。
チャートを見て、ここの出っぱりはちょっと出っぱっているだけだけど安値と判断していいのか、それとも安値には含めないちょっとした出っぱりにすぎないのか、といったことに悩んでしまうのだ。
「私が見る安値と別の人が見る安値が違うということはあり得ます。安値と高値を判断するのは実はちょっと難しいんです。
真ん中に1本ローソク足を置いて、それが左右1本ずつのローソク足より下に出っぱっていれば、それが一番小さな見方での安値になります。
その左右1本ずつというのを、左右5本ずつとか左右10本ずつとかにしていけば、それによって見えてくる安値が変わります」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/米ドル 日足)
「長期のトレードをやりたい人はこの本数を多く、短期のトレードをやりたい人はこの本数を少なくすればいいのです。
ただ、左右10本ずつというとかなり長いスパンになるので、使いにくいと思います。だいたい左右1本~左右5本ぐらいのところで、自分がほしい安値を使っていくのがいいのではないでしょうか」
急上昇した豪ドル/円の参入ポイントはどこだったのか?
松下さんの解説で安値の探し方は一応わかったのだが、記者にはさらに具体的に知りたいことがあった。
3月17日の急激な円高のあと、今度は怒濤の円安進行になったが、この円安相場の過程で、ダウ理論を使って安全に相場に参入するポイントはどこだったのだろうか?
記者は個人的に興味のある豪ドル/円の日足をサンプルとして、松下さんに聞いてみた(これ以下の2つのチャートは、松下さんへの取材を行った4月8日までのものを掲載している)。
(出所:米国FXCM)
「まず、このチャートだと3月16日が疑いなく安値です。そのあと棒上げがはじまりました。安値のあとは高値を確認したいところですが、棒上げなので高値が見えません。そして、次の安値も見えません。
つまり、日足のダウ理論では買いポイントがないと言えます。いわゆる『押し目待ちに押し目なし』という状態なんですね」
ダウ理論の教科書的に、低リスクでこの急速な円安相場を取りに行くにはどうしたら良かったんだろう? と記者は思っていたのだが「その答えはない」というのが正解だった。
では、他に何か方法はあったのか?
「前回お話ししたローソク足と10日移動平均線のゴールデンクロスだったら、3月21日にできていますね。この方法なら、この時点で買うことができて、そこから8円ぐらい取れたかもしれません」(「松下誠さんのシンプルなトレード演習(1) 1500万円もの損失からどう立ち直ったか?」参照)
(出所:米国FXCM)
シンプルな移動平均線のゴールデンクロスでも、このような利益を取れるケースが十分あるというわけだ。
米ドル/円が半年後に100円まで上昇しても驚かない
では、ここからは松下さんに為替相場の見通しを聞いてみよう。まず、米ドル/円はどう動きそうなのか?
「私は米ドル/円が半年後に100円になっても驚きません。月足を見れば、その可能性が見えてくるんです。
その前に言っておきたいのは、みなさん、日足でトレードする方は少なくとも週足と月足は見ておきましょう。これがほぼ確実にみなさん、やってないんですけどね。
では、月足を見てみましょう。1995年の80円割れの円高からは147円まで70円近く戻しているのがわかります」
「その後も20~30円ぐらいの上昇が数年に一度来ているのがわかるでしょう。
この数年に一度の米ドル上昇がはじまれば、過去の例から言っても、20円ぐらいは造作もなく上がるだろうと思うわけです。
そして、この4年間、米ドル/円は大きな流れでは下がりっぱなし。だから、数年に一度の米ドル高がいつ来てもおかしくありません。
米ドル/円は今回、76円ぐらいまで突っ込みましたから、20円戻せば96円。それが行き過ぎれば100円です。
100円になっても驚かないという理由はこういうことなんです」
松下さんはみんながあり得ないと思っていることが起こるのが相場だと言う。
「サブプライムショックのときを思い出してほしいんですが、相場の世界では、そんなこと、起こりっこないと思っていることが起こります。
2007年前半に英ポンド/円が250円だったとき、それが120円になるとは世界中の誰一人予想していなかったはずです。100円を超えていた豪ドル/円が55円台まで落ちるとはみんな思っていなかったでしょう。
でも、それが起こった。
現時点で、米ドル/円が100円になるなんて思ってる人が少ないということは、危ないんです。いつか必ず起こります」
円安への大きな転換点を迎えている可能性
「ただ、直近の米ドル高・円安はちょっとスピードが早すぎますね。これがこのまま上に行くことは考えられません。相場は10上がると3落ちる、10上がると7落ちるといった動きになるものです。
今の時点(取材をした4月8日)で買えるかというと買えませんね。売れるかというと、少し前(取材日の2日前の4月6日)に高値があるので、それを上抜いてしまったら損切るという前提で短期的に売れなくはない。
ただ、今は円安への大きな転換点を迎えている可能性があり、それこそが一番注目すべきことでしょう。
米ドル/円でいえば、3月17~18日で相場が転換した可能性があります。だから、ここから円安方向でどう利益を出していくかということを今は考えながら様子見するところだと思います」
では、様子見するとき、どこに一番注目すればいいのか?
「チャートパターン的に言うと、今後反落してきたときに、82円ぐらいで止まるとチャートが強そうに思えます」
「2010年11月の上昇から2011年3月の大暴落になる前まで、米ドル/円は三角保ち合いを作っていましたが、そのときの安値がいくつも80~81円台ぐらいに並んでいるんです。
82円というのはそれより少し上のレートになるんですね。ここで止まるとテクニカル的にはきれいだと考えます」
米ドル/円がこれから82円ぐらいで次の安値をつけて反発するのか、その点はよく見ておこう。
地震で売られたが再評価されているNZドルに注目
では、米ドル/円以外で松下さんが注目している通貨ペアはあるのだろうか?
「円絡みの通貨ペアで言うと、豪ドル/円ですね。今すぐは買いにくいですが、押したところで買いたい。豪ドル/円は月足、週足を見るときれいに上に行っていて、流れは悪くない。すごく強いです。
とはいえ、豪ドル/円は2008年のリーマンショックで大暴落したあと、明らかにずっと買いに歩がありました。それが段々上がってきているので、徐々に条件的には不利になってきています」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/円 月足)
「それと円絡みの通貨ペアだけをトレードするのではなく、外貨同士の通貨ペアもトレード対象に入れておくと、パフォーマンスが安定するということも言っておきたいですね。
株の世界でいうポートフォリオの分散のような話です。
今回の大地震のようなときも円絡みの通貨ペアだけをやっていた人はかなり冷やっとしたことでしょう。
「そういった意味では、外貨同士の通貨ペアで面白いのはNZドル/米ドルだと思います。ニュージーランドも大地震があって売られましたが、その被害を食い止めて、今は再評価されつつあります」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:NZドル/米ドル 日足)
「ニュージーランドの政策金利がこれ以上、下がらなければ、面白い動きになるかもしれません。
また、今後の見通しという点で要注意なのは米ドルの動向。いつ米ドル高が来るかということです。
今現在、米ドル/円では米ドル高にちょっと動いていますが、他の通貨に対しては相変わらず米ドル安が続いています。
この米ドル安が米ドル高にいつ転換するのかという点は、心のどこかに常に置いておきたいですね」
トレードは気まぐれにやってはダメ
ここで、松下さんにトレードするにあたっての注意点を改めて聞いてみた。
「トレードでパフォーマンスを上げるには出たとこ勝負ではダメなんです。いつも同じ環境で同じことをやり続けなければいけません。
たとえば、夜の8時~11時でやると決めたら、毎日例外なくその時間はトレードする。適当に毎日違う時間にやるのはいけません。
夜の8時~11時といえば、アメリカ市場がオープンするのを挟んだ時間帯。それと、昼の1時~3時では当然動きそのものが違うんです。
もしも日足でトレードするんだったら、ニューヨーク市場が終わって、1本の日足が完成したばかり、朝の6時、7時ぐらいにチャートを見るのが理想的。それが無理なら夜の8時とか、とにかく毎日一定の時間にチャートを見てください。
ちなみに現在、私の会社では日足と4時間足を使ってトレードしていますが、4時間足は1本のローソク足が完成するごとに1日6回チェックしなくてはいけません。これは大変なので、個人投資家の方に4時間足でトレードすることはオススメしませんね」
トレードで一番大切なものとは?
松下さんがトレードで一番大切と話すもの……それは取引のサイズだ。
「サイズ、つまり、売買量ですね。1000通貨単位でやるか、1万通貨単位でやるかということです。
個人投資家のみなさんはみんなサイズが大きすぎます。先月も、『急落で、大きく損をしました』という相談を、いくつも受けました。聞いてみると、10万通貨とか20万通貨でやっている。
『FXトレード演習帳[チャート攻略編]』に載せているような日足のトレードの場合、10万通貨、20万通貨というのは1000万円、2000万円持っていないとできない感覚のサイズなんですね。
でも、個人投資家の多くはだいだい証拠金が100万円以下。それで20万通貨の取引をするというのは、ものすごいリスクを取っていることになります。
だから、私は『あきれるぐらい小さくしてください』といつも言っています。
具体的な数字で言えば、1回のトレードの最大損失は資金全体の2%までとするのがいいでしょう。チャート的に適切なところへ損切りを入れた際、損失が2%に収まるようなサイズで取引すべきなんです」
トレーニングによって、トレードは上達する!
では、最後に個人トレーダーのみなさんへ松下さんからのメッセージをお届けしよう。
「前回もお話ししましたが、あの指標を見て、この指標を見てと、みなさん難しく考えすぎているので、もっとシンプルなやり方でトレードしましょうと言いたいですね。
そして、トレードはトレーニング可能なものだと思います。
世の中には生まれつきの才能がなければ通用しにくい分野もあります。おそらく凡人がトレーニングだけで、イチローやタイガー・ウッズのようになることは難しいでしょう。
けれど、トレードではそれが可能なんです」
この“トレーニング可能”という言葉は、1500万円の損失から努力して這い上がってきた松下さんの言葉だからこそ、真に迫って記者には感じられた。
みなさんも『FXトレード演習帳[チャート攻略編]』を片手に、チャート読みの「演習」に励んでみてはいかがでしょうか?
(ザイFX!編集部・井口稔)
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