■「米独立記念日の翌日に米雇用統計」は2002年以来
本日(7月5日)ほど、市場関係者が神経を尖らせる日はないだろう。本日は、米6月雇用統計が発表される日だ。
それくらい知っているよ、と言われそうだが、本日は特別であることを強調しておきたい。
というのは、米FRB(米連邦準備制度理事会)が同指標をもって「出口戦略」、つまり債券買い入れ額を段階的に減らすかどうかを判断する模様だからだ。
また、今回の米雇用統計は7月4日、米独立記念日の翌日に発表されることもポイントだ。米独立記念日は当然、流動性が低下する。そのため、昨日(7月4日)は後述するように相場の変動も尋常なものではなかった。
そして、その翌日の雇用統計も、通常よりは流動性が低下し、相場の変動率が高まる恐れがあるのだ。
米独立記念日の翌日に米雇用統計が発表されるのは2002年以来。つまり、10年以上も前の状況に似ており、プロもアマチュアも、ベテランでなければ経験していないはずだ。
ここまで書くと、「君自身がベテランであることでも自慢しているのか」とのお叱りも推測されるが、誤解を恐れずに、「はい」とお答えしておきたい。
■特別な雇用統計を控え、市場全体がピリピリ
さて、本題に入るが、要するに極めて大事な局面であるから、マーケットの波乱を警戒したいところだ。
先ほど述べたとおり、昨日(7月4日)が米独立記念日だったことによる流動性の低下もあって、指標が発表され次第、マーケットの反応が一層激しくなる可能性がある。
実際、マーケットの緊張は昨日(7月4日)もしっかり体験でき、ピリピリした市場の雰囲気は十分伝わったと思う。
英国に続き、ECB(欧州中央銀行)の金利決定会合自体は無風通過で、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])による異例な声明文、ドラギECB総裁によるハト派色の話はあったが、それにしても昨日(7月4日)のユーロ/米ドル、英ポンド/米ドルの急落は尋常ではなかった。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 1時間足)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 1時間足)
7月4日(木)の英ポンド/米ドルの値幅は250pips超、ユーロ/米ドルも130pips超となり、その大半は金利決定後の値幅であった。
事前予想どおりの金利据え置きだったことからすると、英ポンドやユーロの急落は、やはり、ややスピード違反の感がある。
トレンド継続の意味合いではごもっともだが、やはり薄商いかつ緊張したマーケットの環境による側面が大きいと思う。
したがって、本日(7月5日)も変動率の拡大をしっかり念頭におく必要がある。為替オプション市場の変動率で見る限り、米雇用統計の日は一般の取引日より2.5倍~3倍も変動するとみられるので、今回の指標の重要度から考えると、変動率がより一層拡大してもおかしくないと思われる。
■短期スパンではやはり「事実で売る」か?
しかし、「物極必反」(物事は極点に達すると必ず逆の方向へ転化する)という老子のお教えがあったように、変動率の拡大を警戒しながら、必ずしも一方通行な相場にないことも重ねて記しておきたい。
というのは、直近のマーケットのパフォーマンスは米雇用統計の数字を織り込んだ形で先走りしてきたから、予想どおりになったとしても値動きは限定的ではないかと思うし、行きすぎた反応は、必ずどこかで逆戻りさせられるといったリスクを無視できないからだ。
ドルインデックスは、6月19日(水)安値80.49からほぼ一直線に上げてきているが、これは米雇用統計の改善をもってFRBが出口戦略に踏み切るといった思惑をすでに織り込んでいるというほかあるまい。

(出所:米国FXCM)
短期スパンでは、むしろスピード調整が必要かと思われるほどややオーバーボートの兆しが出ており、米雇用統計が良くても高値余地は限定的ではないかとみる。
その上、前回はバーナンキ氏が出口戦略を明言しており、マーケットはそれに反応した形で米ドルを買ってきたから、短期スパンに限ってはやはり「ウワサで買い、事実になってから売り」といったロジックが動きやすいのではとも思われる。
バーナンキ氏の前回の発言以来、マーケットは再び急速な米ドル買いに傾いているが、さらに重要なのは、バーナンキ氏を含め、FRB内部では「出口戦略は経済状況次第」といった前提条件を設けている以上、経済指標の悪化が出口戦略を遅らせてしまう、といったリスクも十分想定されることだ。
つまり、FRBの債券買い入れ規模の縮小は、本当のところ、なお流動的である。
■非農業部門雇用者増加数はFRBの条件に達していない
注意しなければならないのは、過去6カ月の米雇用統計・非農業部門雇用者数の増加数は平均20万人以下に留まり、FRBの条件(連続6カ月20万人以上)には達していないはずということだ。この意味では、マーケットの先走りはやや性急のように見える。
その上、過去の統計から得られた教訓の1つとして、6月米雇用統計にはあまり過大な期待を寄せないほうがいいかもしれない。
過去16年、約75%の雇用統計は予想を下回ったし、非農業部門雇用者数は予想より平均7万人も少ないという統計データがあるから、今回も楽観視しすぎないように注意しておきたい。
仮に今晩のデータがマーケットを失望させるものなら、短期スパンにおける米ドル全体の調整を想定できる。
具体的、かつわかりやすい例では、ユーロ/米ドルは日足において「ヘッド&ショルダーズ(※)」といったフォーメーションを形成しているが、直ちに同ネックラインを下放れするかどうかは、なお慎重に見極めたいところだ。
(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダーズ」と呼び、仏像が3体並んでいるように見えるため「三尊」と呼ぶこともある)
(出所:米国FXCM)
■米ドル/円の高値打診があれば売りの好機!
なお、ユーロのプチバブルは米ドルに対しては崩壊しているが、豪ドル、円などのユーロクロスではなお鮮明なサインが点灯していない。本格的なユーロ安はこれからであろう。
ユーロ/豪ドルのテクニカル分析はまた次回に譲らなければならないが、ユーロ/米ドルと同様、「三尊型」の形成とその下放れによるトレンド転換の可能性に引き続き注意しておきたい。
(出所:米国FXCM)
最後に米ドル/円の話で締め括りたいが、100円台にてまた頭打ちを確認できれば、反落波に復帰するといった見通しを堅持したい。
が、変動率の拡大を警戒した場合、最大101.20~101.80円といった上値打診も覚悟しておいたほうがよいかもしれない。もちろん、高値打診があれば、売り好機とみなす。市況は如何に。
(7月5日 PM 2:30)
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