■「ゴジラ襲来で円安」の違和感
「株安、円安、債券安だ!」
こんなセリフが登場するのは、大ヒット中の映画『シン・ゴジラ』だ。

大ヒット中の映画『シン・ゴジラ』。劇中には、ゴジラ上陸で「株安・円安・債券安」というセリフが出てくる (C)2016 TOHO CO.,LTD.
東京がゴジラに襲われた直後に登場したこのセリフ、以下のように考えて、首をかしげた人もいたのではないだろうか。
「株安は理解できるが、ゴジラが暴れればリスクオフで円高になるのではないだろうか?」
『シン・ゴジラ』では未知なる災害に襲われたときの政治家や官僚の行動がリアルに描かれている。それだけに「ゴジラ襲来→円安」にも何か理由があって言わせているはずだ――。
そう推測したザイFX!編集部ではマクロ経済に詳しいニッセイ基礎研究所の上野剛志さんに取材を敢行した。

「金融市場への影響を考える前に、ゴジラが日本経済全体にどの程度の被害を与えるのか、確認しておきましょう。
参考になるのが、日本政府が行った首都直下型地震のシミュレーションのうち、首都機能への影響が大きい『都心南部直下地震』についてのシミュレーション(『首都直下地震の被害想定と対策について』)です」
(ここからはネタバレを含みます。まだ映画を観ていない人はご注意ください)
東京湾、相模湾から二度に渡り、首都圏へ上陸したゴジラ。とくに二度目の上陸では神奈川県から千代田区まで50キロ以上にわたり、周辺の建物をなぎ倒しながら歩を進めた。

これがゴジラ二度目の上陸の瞬間。このとき、ゴジラは相模湾から神奈川県鎌倉市の由比ヶ浜へ上陸、横浜市・川崎市を縦断し、東京都心まで進んでいった (C)2016 TOHO CO.,LTD.
その被害は首都直下型地震クラスだったろうと想像できる。
「ゴジラが通ったルートの建物や道路などは全壊に近い状況だったでしょう。また、途中では口から熱線を吐いてもいます。
こうした行動による建物への被害は甚大だったと推測されます」

■経済のプロが計算したゴジラのもたらす被害額
では、その被害額は?
「都心南部直下地震の試算を見ると、ビル、家屋などの資産などに対する被害が47.4兆円。
そのうち、今回ゴジラがルートをとった東京都と神奈川県の占める被害棟数の割合はおよそ77%なので、被害額も77%とすると36.5兆円。
ところが地震と違い、ゴジラによる被害は局所的です。ゴジラが歩んだルートおよび熱線によって被害を受けた地域が東京都、神奈川県の地震被害地域に対して、ざっくり15分の1の面積とすると6.7%。
ここから仮に単純な面積比で被害額を算出すると、2.4兆円程度になると推定されます」

日本のGDPがざっくり500兆円。2.4兆円と聞くと、「あれ? 意外と小さい?」と思うかもしれない。でも、この話にはまだ続きがある。
「ゴジラが大暴れしたのは千代田区、港区、中央区の都心3区。価値の高いオフィスビルが密集した地域ですから、単純に面積比だけで考えるわけにはいきません。
東京都都市整備局の資料を見ると、東京23区のうち、面積では7%に満たない都心3区で事務所床面積のおよそ半分、49%を占めています。ここから都心3区では1面積当たりのオフィス密度がその他地域の13.2倍あると計算できます。
一方で、オフィス以外の建物や空き地もあるため、ざっくり半分としても、通常よりも1面積あたり約6.6倍の建物被害が出ていると推定されます」

「このように、郊外と大都市では建築物の総額も違うし、再建コストも違いますので、それらをいろいろと考慮すると、ゴジラが大暴れした都心3区、通り道となった都心3区以外の東京と神奈川での被害は単純な面積比による被害額の5倍くらいになると考えられます。
結局、2.4兆円の5倍、およそ12兆円がゴジラにより破壊された資産の被害額だと考えられます」
ゴジラのもたらした物理的な損害は約12兆円。東日本大震災による被害が16.9兆円、阪神淡路大震災による被害が9.6兆円だったから、ゴジラのインパクトは阪神淡路大震災以上ということになる。
しかし、被害はそれだけにとどまらない…。
「ゴジラが暴れたことにより、物流のサプライチェーンが断絶されたり、あるいは交通網が寸断されたりして、企業活動が行なえなくなる会社も多いでしょう。
そうした経済活動への影響が、都心南部直下地震では47.9兆円と推計されています。この数字はゴジラによる被害でも、そのまま流用していいでしょう」
でも、さらに厄介なのが今回のゴジラ。巨体で練り歩いたり…
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