■米雇用統計結果不振で米ドル売りだが、利上げには影響なし
先週末(6月2日)の米雇用統計は、予想をずいぶん下回った。事前のADP民間雇用者数がよかっただけに、マーケットはサプライズの反応を示し、米ドル売りがさらに進んだ。
ただし、ドルインデックスは97の節目割れがあっても、下落モメンタムが一段と強まりはしなかった。ユーロ/米ドルにしても、やはり昨年(2016年)11月9日(トランプ氏当選日)の高値(1.13ドル)を上回っていない。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
5月雇用統計の不振で、米利上げ中止の観測も一部には出ているが、市場センチメントは「今月(6月)の利上げは確実、その後は状況次第」といったところだ。
9月利上げがなくなり、12月まで待たなければならないというゴールドマン・サックスさんの予測が今のコンセンサスを代弁しているように聞こえるが、状況は流動的で、米雇用統計に限っては、ウォール街の猛者でも大した根拠を持たないようだ。
為替業界に身を投じて以来、あらゆる修羅場をくぐってきたが、米雇用統計だけは予測すべきでないことを悟ってきた。これはもはや投資業界の常識といえるぐらいだが、その予測を生業としている方も多いから、あえてそれを口にできないところも大きい。
いずれにせよ、予測完全不可能とは言い切れないものの、基本的に確率が非常に低いものにあれこれ頭を使ってもしょうがないから、米雇用統計云々を根拠にした米利上げ中止といった予測はまじめに捉えなくてもよいと言い切れる。
■過去2回の利上げ後に米ドル高にならなかった理由とは?
6月利上げは確実だから、これからの焦点はやはり、利上げ後の米ドルの反応だ。
昨年(2016年)年末の利上げも、今年(2017年)3月の利上げも、その後は米ドル高ではなく、米ドル安が続いたから、6月利上げも同様になると思われる節は確かにある。しかし、よく点検すれば、今回は違ってくる可能性があることを見逃せない。
利上げ後の米ドル安に関しては、後づけで解釈することも実は簡単ではない。なにしろ、市場はあらゆるファンダメンタルズや市場参加者たちの思惑を織り込んで価格を形成しているから、たやすくまとめることはできないのだ。
一方、複雑な物事だからこそ、本質的にシンプルに捉えるべきだと思うから、ポイントを指摘するなら、以下の理由が挙げられるのではないだろうか。
まず、昨年(2016年)12月14日(水)の利上げ後に結局は米ドル安になったのは、いわゆる「トランプ・ラリー」の「行きすぎ」、すなわち、米ドル高の「行きすぎ」が明らかな時期と重なっていたからだ。利上げ後に米ドルは一段高を演じたものの、それは長くは続かなかったのである。
次に、今年(2017年)3月16日(木)の利上げ直後に米ドル安が進んだのは、FRB声明文やイエレン議長の話が効いた側面が大きかったからだ。
マーケットは昨年(2016年)12月時点のものより、経済見通しは明るくなり、今後の金利引き上げペースは早まると予想していたが、FRBは経済見通しを据え置き、また、今後の利上げペースを早めなかった。マーケットの期待は裏切られる形となったのである。
言ってみれば、3月利上げ後の米ドル安は、事前に市場予想が良すぎたところに起因していたといえる。
■過去2回と違い、米ドルのマイナス材料はかなり織込み済み
だからこそ、今回は違ってくるのではないかと思われる。
なにしろ、6月利上げ観測は維持されているものの、これからの利上げペースは早まるのではなく、緩やかになると、今は市場参加者が予想しているから、いわゆる「失望売り」が出にくい。
詰まるところ、2017年年初来、米ドル全体の大幅反落が続いてきたからこそ、米ドルのマイナス材料はかなり織り込まれており、これ以上の下落余地は逆に小さいといえる。
当然のように、このような思惑は「トランプ・ラリー」がもたらした米ドルの全上昇幅がほぼ帳消しにされたからこそ言える側面も大きい。
また単純な話で、テクニカルの視点では、昨年(2016年)年末の利上げは「トランプ・ラリー」の最終段階、また、今年(2017年)3月の利上げは同ラリーに対する修正の途中といった位置づけができる。だから、利上げでも米ドル高が続かなかったわけであり、また、これは利上げ直後の米ドル安を理解するカギとして重要な視点だと思う。
トランプ氏のロシアゲート疑惑が続いていることも…
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