■株高・高失業率、異例の併存
イケハヤネタでちょっと横道に逸れてしまったが、後藤記者のツイートに戻ると、後藤記者は先に紹介したとおり、「戦後最悪の景気と歴史的株高の併存はやはり気味が悪い」と書いていた。
また、以下の後藤記者のツイートには「株高・高失業率、異例の併存」というグラフが挟み込まれており、一目見て、何か異様なことが起こっているぞという雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

こう見てくると、「戦後最悪の景気と歴史的株高の併存はやはり気味が悪い」と書いていた後藤記者は内心、もう株が下がると思っていたのではないかと思えてくるのだが…。
「これは7月下旬にツイートしたものですが、気味が悪いとは思うものの、相場がこれで終わるかどうかはその時点でも、現時点(※)でもわからないという気持ちは変わらないですね。これはここから株は下がるというメッセージでツイートしたものではないんです。
2008年にリーマンショックがあって、それからときどき、多少の調整はあっても、株価はずっと右肩上がりで来たじゃないですか。その過程では、正直、いくらなんでも相場が行き過ぎなんじゃないかと思ったこともあったんですが、実際にはさらにどんどん株価は上がっていきました。
理屈を前面に押し出して、ここが相場の天井なんじゃないか、ここが相場の底なんじゃないかというのはどうせ当たらないとすごく感じているところがあるんです」
(※後藤記者への取材は日本時間の9月3日(木)に行っている)

(出所:TradingView)
先ほど書いたとおり、結局、「無責任にここが天井だとか、ここが底だとか言わないようにしている」というのが後藤記者のポリシーであり、それは言わないようにしているだけでなく、心のうちでもわからないと思っているということなのだ。
相場の先行きがわからないということは筆者も基本的には同感するところだが、しかし、それでも「これは上がるんじゃないか」「こうなったら下がるんじゃないか」とつい思ってしまうことが筆者にはある。後藤記者はそんな邪念もなく、客観的立場に徹しているというのである。
■マネーストック急増! 米ドルがジャブジャブになっている
もう1つ、いろいろな資産の価格が上がっていた7月下旬、後藤記者のツイートに紹介しておきたい言葉があった。「ドルの過剰流動性に焦点が当たった金融相場」という説明である。

要するに米ドルがジャブジャブになっており、米ドルの反対側にあるものが軒並み上がっている状況というのだ。
その“ジャブジャブ感”は後藤記者がツイートした以下のグラフを見れば一目瞭然。先ほどは後藤記者のツイートから日米欧のマネーストック(M2)を合算したグラフを紹介したが、今度は日米欧が分けられたグラフだ。米国の突出ぶりが明らかである。

この後藤記者のツイートに出てきた用語の1つ、マネタリーベースとはざっくり言うと、中央銀行が供給している通貨の総量のこと。「世の中に出回っている現金」+「民間銀行が中央銀行に持つ預金残高」のことになる。マネタリーベースはハイパワードマネーとか、ベースマネーとも呼ばれたりする……などと言ってもわかりにくいかもしれないが、2013年4月、就任したばかりだった日銀の黒田総裁が異次元緩和をぶちあげたとき、「2年で2倍」と言った、あれがマネタリーベースである。
一方、もう1つ出てきた用語、マネーストックはざっくり言うと、金融機関が経済全体に供給している通貨の総量のこと。M1、M2、M3など定義の異なるいくつかの指標がある。マネーストックは以前はマネーサプライと呼ばれていた。
経済全体に対して供給されている通貨の総量であるマネーストックは、通常、中央銀行が供給している通貨の総量であるマネタリーベースの数倍にもなる。そして、中央銀行が直接的に影響を及ぼせるのはマネタリーベースなので、これまではマネタリーベースの方が注目されやすかった。
そして、日本の話になるが、黒田日銀は異次元緩和でマネタリーベースをグイグイ増やしたが、そのとき、マネーストックは増えたことは増えたものの、マネタリーベースほどの勢いでは増えなかった。
それが今のアメリカでは…
「マネーストックは企業や家計がどれぐらいお金を必要としているかというところに左右される面が大きいです。
今回はコロナ禍でアメリカでは失業者が大量に出たため、家計もお金をたくさん必要としていますし、企業も資金繰りが大変になっています。そんなことがリーマンショック以上の状況になっているという結果がマネーストックという統計に表れているのです。
そして、米政府もFRBも企業や家計を見捨てることなく、サポートしようとしています」
さらに、このようなコロナ禍の状況へ、“サポートのダメ押し”を行ったのが本シリーズ記事の冒頭で取り上げたジャクソンホール会議におけるパウエルFRB議長の講演だったと後藤記者は話す。
「目標とするインフレ率を単純な2%ではなく、平均2%にしたということは、インフレ率が2%を超えていっても当面、金融緩和を続けますよということです。失業率が数字の面で下がりすぎただけでは金融緩和はやめません、まだまだ金融緩和は続けていきますので安心してください、というメッセージなんです。
だから、新型コロナが早期に終息して、経済状況が改善したりしない限りは、金融緩和を続けるということだと思います」

ジャクソンホール会議での講演が注目を集めたパウエルFRB議長。米国の金融緩和は当面続くのか… (C)Bloomberg/Getty Images News
■米ドルの量が非常に増えているという大きな構図
そして、金融緩和が続き、経済全体に莫大な資金が供給されている状態が続いていけば…
「お金の総量であるマネーストックがこれだけ増えれば、そのお金はどこかへ向かうはずなので、3月のような危機的な相場にならなければ、自然といろいろな資産に染み出ていくんでしょう。
そしてもしも、米ドル全体の量に市場が着目すれば、米ドルが弱くなりやすいという現象になるんでしょうね。
ただ、資金が染み出ていくとしても、それがどこかで行き過ぎれば調整するかもしれないと思います。
大きな構図として、ここ数ヵ月、米ドルの量が大きく増えているということがあって、それはこの先、数ヵ月も続く大きな構図なのだろうと思います。
とはいえ、それを受けて、株はまだまだ上がると思うとか、こんなことをやってたらヤバいんじゃないか、といったことまでは私がしゃしゃり出て言うことではないと思っています。
私としては今起こっていることを整理するヒントになるような材料をお見せして、あとの判断はフォロワーの方に委ねるのがいいと思っているんです」
米ドルの量が大きく増えている、米ドルがジャブジャブになっているという大きな構図。これはFXトレーダーとしても大いに気になる話だろう。
■トランプか、バイデンか。米大統領選、どうなる?
米大統領選がいよいよ、あと1ヵ月半というところまで迫ってきた。
【参考記事】
●米大統領選とは? 制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説
米大統領選について、後藤記者は賭けサイトのデータを継続的にツイートしている。
たとえば、6月30日(火)の段階ではこんな具合になっており、ワニの口が大きく開いたようになって、バイデンかなり優勢か、と見えるデータになっていた。

けれど、8月の途中ぐらいから両者の差は次第に縮小し始め、9月2日(水)にはついにバイデンとトランプがほぼ並んだ状態となった。

そして、9月8日(火)にはバイデンが再び優勢になっていた。このように後藤記者が適度な間隔でツイートしてくれるので、後藤記者のツイッターをフォローしておけば、米大統領選の手に汗握る展開も自然に把握することができるのだ。

ということで、本記事シリーズの最後に、4年に一度の一大イベント、米大統領選について、米国駐在の後藤記者に聞いてみよう。
「どちらが勝つかということは、本当にほぼ均衡していて、まったくわかりません。
そして、何となく『トランプが勝てば株高、バイデンが勝てば株安』みたいな声が多いですが、本当にそうなるか、ちょっとわからないところがあると思っています。
トランプだって、ここまで株が上がってきたなか、再選したとしても、追加でさらにサプライズの経済対策を出して、それでさらに株が上がるかわからないと言えそうですし…」

2016年の米大統領選の前は当選したら株が暴落するなどと言われていたトランプ氏。2020年の今回は当選したら株高の期待が高いようだが… (C) Chip Somodevilla/Getty Images News
「バイデンについては、富裕層増税とか、法人税増税とか、株に逆風っぽいことを言ってはいるものの、民主党は共和党より大きな政府ということが大きな軸として基本にはあります。バイデンが大統領になったら、新型コロナ対策をはじめとして、財政はバンバン出してくるでしょうから、それは株高に作用するかもしれないですよね」

バイデン氏が当選したら株に逆風? それとも株高? どっちなのか? (C)Scott Olson/Getty Images News
前回、2016年の米大統領選では、トランプが勝つとはあまり思われていなかったし、トランプが勝ったら株が暴落するなどと言われていた。しかし、2016年の米大統領選が行われたあの日、実際にはトランプが優勢になると株は下がり始め、米ドル/円は下落し始めたものの、その局面は割と短時間で終わって一気に反転し、すぐに株が上がって米ドル/円も上がる、いわゆる“トランプラリー”が年末にかけて展開された。
後藤記者はこの2016年のときの状況も振り返ったうえで、「シナリオをたてるというより、そのときどきの発言だったり、そのときどきのマーケットの反応をなるべくバイアスを持たずに見ていくのが大事なんだろうと思います」と話す。
「私のツイッターではわからない相場の先行きを語るよりも、明確に変わった事実があればそれを伝えるとか、この発言でマーケットはこう反応したといったことを伝えるとか、ファクトベースで伝えていければ…と思っています。それもスピード重視で!」
トランプか、バイデンか。
リスクオンか、リスクオフか。
二転三転、四転五転、情勢はくるくる変わり、これからさらに丁々発止のやりとりがあることだろう。米大統領選、その投票日は11月3日(火)だ。投票日に向けて、9月29日(火)、10月15日(木)、10月22日(木)と3回のテレビ討論会も予定されている。後藤記者のツイッター、通称“後藤電子版”も参考にしながら、トランプvsバイデンの攻防をウォッチしてみてはどうだろうか。
(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 編集協力/ザイFX!編集部・堀之内智)
本記事でご紹介している後藤達也さんは2022年4月からフリーランスとなり、新たなツイッターアカウント(@goto_finance)やYouTubeにて、投資・経済情報を発信しています。
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