イスラエルとイランの軍事衝突で、先週は原油高騰の円売り、安全資産のスイスフラン買いが優勢に
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 梅雨はもう終わったんじゃないか?と思うぐらい一気に暑くなりましたね。
一方、金融マーケットも相変わらず荒れ気味で、気が抜けない相場が続いています。
それでは、まず先週(6月16日~)の振り返りからいきましょうか? 叶内さん、お願いします。
MC叶内 はい、よろしくお願いします。
米国株は前週末に急浮上した中東地政学リスクが重しとなり、頭の重い展開となりました。
S&P500は前週末比-0.15%の5967.84と最高値に接近したところから小幅ながら2週連続で下落しました。週ベースでの続落は約2か月半ぶりのことになります。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がFOMC(米連邦公開市場委員会)後に、今後数カ月インフレが高まると想定していると述べたことも嫌気されたかもしれません。
NYダウは+0.02%とほぼ横ばいで終了しています。
また、金曜日(6月20日)には米中関係についての懸念も意識されました。中国産のレアアースや磁石の輸出が増えていないなか、米国が半導体関連製品の輸出規制を厳格化することを検討していると報道があり、半導体関連株が下落しました。ただ、上昇基調は崩れておらず、ナスダック総合指数は+0.21%で2週ぶり上昇、SOX指数は+1.94%と4週続伸となっています。
東京市場も中東リスクや貿易交渉を気にしつつ、自動車株などは手掛けにくい一方、防衛関連やコンテンツ関連などが物色されました。週半ばには円安傾向も追い風に、日経平均は3万8800円台、約4ヵ月ぶりの高値をつけました。週末の日経平均は568円(1.5%)高の3万8403円と、2週連続で上昇、TOPIXは+0.54%と3週ぶりに上昇しました。
日銀会合(日銀金融政策決定会合)は現状維持、国債買い入れ減額ペース鈍化と予想どおりで、相場への影響は限定的でした。
なお、日本時間6月22日(日)朝、米国がイランの核施設を攻撃したと伝わっています。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 為替市場の注目も、イスラエルとイランの軍事衝突です。
地政学的リスクの高まりは、安全資産としての米ドルとスイスフランが意識される展開に。
マーケットではまず米ドルの買い戻しが先行。その中心は米ドル/円です。
イスラエルとイランの軍事衝突はホルムズ海峡の事故リスクを高め、それが原油の高騰を誘引します。
日本は原油の80%以上をホルムズ海峡経由の輸入に頼っています。そのため、原油の高騰は、円売りにつながります。
そのホルムズ海峡に関してですが、FT(フィナンシャルタイムズ)に下記の報道が出て、マーケットは徐々に円売りが加速。
GPS干渉、ホルムズ海峡の事故リスク高める
6月15日夜、ホルムズ海峡付近を航行していたリベリア船籍の石油タンカー「フロント・イーグル」があり得ない位置情報信号を数回発信し、繰り返し瞬時に数十キロ移動する様子が観測された。フロント・イーグルは翌朝未明に別のタンカーと衝突し、相手側のタンカーが炎上した。衝突の原因はまだ不明だが、イランが制海権を有する海峡付近でフロント・イーグルが見せた不可解な動きは、全地球測位システム(GPS)妨害によるものだというのが専門家の一致した見方だ。GPSへの干渉は近代戦のツールであり、事故のリスクを大幅に高めることにつながる。
(出所:FT)
呼応して、米ドル円は146円台まで反発して先週のNY市場は引けています。
(※編集部注:米ドル/円は6月23日(月)に147円台まで上昇した)

(出所:TradingView)
加えて「イスラエルとイランの軍事衝突」という地政学的リスクの高まりは、安全資産としてのスイスフラン買いにつながります。
結果として、当コラム注目のスイスフラン/円は続伸。NY市場は178.60円と史上最高値の180.07円ブレイクに向けて上昇しています。
【※関連記事はこちら!】
⇒スイスフラン/円は180円の最高値超えへ続伸! イスラエルのイラン空爆で、避難通貨のスイスフラン買いと原油急騰の円売りが優勢に。6/19のスイス大幅利下げには警戒(6月16日、西原宏一&叶内文子)
そして週末、米軍の参戦で、マーケットの緊張感がさらに高まっています。
先週は、中銀ウィークといわれ、FOMCやBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])、SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])など主要国の金融政策決定会合が開催されています。
通常でしたら、こちらの発表がマーケットの話題の中心になるのですが、中東の緊張が高まり、地政学的リスクをどうみるかが、マーケットの焦点になっています。
米軍の参戦以降の為替の展望に関しては後ほど。
それでは、今週(6月23日~)のスケジュールと株の展望をお願いします。
株式市場は引き続き中東地政学リスクが焦点のひとつ。日本株は需給がいい時期
MC叶内 経済指標では、海外で6月23日(月)に欧米の製造業PMIが出てきます。6月24日(火)のコンファレンスボード消費者信頼感指数、6月25日(水)の新築住宅販売件数、6月26日(木)の米1-3月期GDP(確)、6月27日(金)の5月個人所得・個人支出・デフレーターなどが注目です。
国内では、6月27日(金)に5月失業率・有効求人倍率、6月の東京都区部CPI(消費者物価指数)が発表になります。
景気動向も見られる物流大手米フェデックスの決算発表が6月24日(火)(日本時間6月25日朝)、半導体マイクロンの決算は6月25日(水)(日本時間6月26日朝)です。
また、パウエル議長の議会証言が6月24日(火)、25日(水)にあります。
そして、6月24日(火)に日本の20年国債入札があります。財務省の国債発行計画見直し表明後、初の超長期国債の入札になり、応札の状況とその後の金利の反応に注目です。6月25日(水)に6月日銀会合の「主な意見」が公表されます。
6月24日(火)〜25日(水)に北大西洋条約機構(NATO)首脳会談、6月26日(木)〜27日(金)にEU(欧州連合)首脳会議も予定されています。
今週の株式市場は引き続き中東地政学リスクが焦点のひとつです。米国がイラン核施設を攻撃、今後の展開によって株価は大きく左右される可能性があります。ホルムズ海峡封鎖があるのか、実際の航行に支障がどの程度出るのかが問題でしょう。6月24日(火)からのNATO首脳会議での議論も注目です。
また、関税政策が米国の景気やインフレにどう影響しているのか、データをひとつひとつ確認している最中で、もしインフレが高まっていれば利下げ期待が後退して、やや割高感の出ている株価の押し下げ要因になりそうです。FRB高官発言も気になります。
日本株は需給がいい時期とされます。中間配当権利落ちの先物の再投資が約2300億円あると市場で観測されています。6月27日(金)が株主総会の集中日で、悪い材料が出にくいとされます。6月第2週も海外勢は日本株を買っていて、9週連続での買い越しでした。外部環境の影響を受けにくいセクターに資金が流れやすいかもしれません。
ただ、外部環境悪化でこの水準で下押しされると、日経平均の3万8000円から上が重いと再認識されてしまいそうです。
為替市場はいかがですか。
米軍の参戦で、安全資産のスイスフランの上昇に注目。スイスフラン/円は180.07円を明確に超えれば185円が視野に
トレーダー西原 イスラエルとイランの軍事衝突に「米軍が参戦(※)」してきたことにより、一気に緊張感が高まっています。
(※ここで「米軍の参戦」という言葉を使いましたが、米国のリバタリアン(自由至上主義者)の友人によれば、米軍は、イランの民間施設はもとより、イランの軍事施設も攻撃しておらず、唯一核施設を攻撃しただけなので、米軍が参戦してはいないという意見もあるようです。ご参考までに)
前述のように、ホルムズ海峡の事故リスクが高まるだけでも原油は高止まり状態でしたが、米軍の参戦により、イランの報復が意識され、原油は続伸。
この後の展開ですが、当然マーケットはイランの報復を警戒します。
ただ、「イランからの反撃があれば、相応に対応する」とトランプ大統領が威嚇していますので、なかなか動きにくい。
問題のホルムズ海峡ですが、仮にイランがここを封鎖すれば、イランの友好国である中国への原油供給に支障がでます。
中国向けのタンカーだけを通過させるというのは無理筋。
結果、イランがどのような反撃にでるのかはちょっと想像しづらいところ。
もっとも、米軍の攻撃を受けて、イランから何も反応がないというのは考えづらいため、どういう形になるかは読みづらいですが、イランからの報復を想定せざるを得ないといったところです。
結果、今週も依然として中東情勢が不透明なことから、安全資産のスイスフランの上昇に注目です。スイスフラン/円は180.07円の史上最高値を明確に抜ければ、185円が見えてきます。

(出所:TradingView)
米ドル/円は原油が底堅い限り、当面堅調に推移し、145〜149円のレンジでしょうか?

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 そでは、今週も株と為替のトレーディングを楽しんでいきましょう。
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