米ドルの上値は重いまま。テーマは「米債務問題」に移行しつつある
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 トランプ政権が繰り出す関税の報道に、マーケットは相変わらず翻弄されていますが、テーマは「米債務問題」に移行しつつあります。
本日の作戦会議は、このあたりにフォーカスしようと思っています。
それでは、株も含めて先週(5月19日~)の振り返りからいきましょうか? 叶内さん、お願いします。
MC叶内 金利上昇が引き続き懸念材料となったことに加えて、週末の米国では米高関税政策への警戒感が再燃しました。
週間でS&P500は-2.61%、NYダウは-2.47%、ナスダック総合指数は-2.48%下落しました。S&P500とNYダウは5月20日(火)以降、4日続落です。
前週末にムーディーズが発表した米国債の格下げは、さほどの影響なく通過しましたが、米議会で審議されている減税関連法案の行方が不透明なことや入札が不調だったことで、特に長いところの金利が上昇し、株価の重しとなっています。
イスラエルがイランの核施設への空爆を準備しているとの報道などで、地政学リスクも意識されました。
さらに、5月23日(金)はトランプ大統領がEU(欧州連合)に対し、6月1日(日)から50%の関税をかける方針を示し、アップルに対しては「iPhone」を米国内で製造しなければ、25%の関税をかけると言及しました。アップルをはじめハイテク株が下げました。
国内でも長期金利の上昇が懸念され、また3回目の日米関税交渉を前に手控えムードも強く、日経平均は6週ぶりの下落で-1.57% 、TOPIXも-0.18%と小幅ながら下げて終わっています。
ところで、トランプ大統領は5月23日(金)にSNSで、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を承認する考えを示しています。「パートナーシップ」が実現するなら、巨額の米ドル買い要因になるとの報道もあります。
まずこの点はいかがですか?
トレーダー西原 ご指摘のように、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画をトランプ大統領が承認するというニュースが話題になっており、基本的には米ドル買い要因です。
ただ、このニュースは長期に渡って二転三転したことで、マーケットでかなりブレインストーミング(集団発想)されつくした件なので、日本製鉄が承認されたことで、ここから慌てて大規模の米ドル買いを起こすとは考えにくい。
そのため、この報道に関してはいったんニュートラルなスタンスです。
一方、マーケットでは関税以上に注目されている問題で、神経質になってるのが米債務問題です。
米議会下院は5月22日(木)、トランプ大統領の看板政策である大型減税を盛り込んだ法案を可決。これで法案は上院に送付されます。
上院では共和党の一部議員が広範な修正を要求しており、採決は8月までに行われる見通しです。
トランプ大統領によれば、この法案は「One、Big、Beautiful Bill」と銘打つ減税法案だそう。
ただ、この法案には、反対意見が多数です。
僕がチェックしているFT(フィナンシャルタイムズ)の著名コラムニスト、ジリアン・テットは、この法案を「Trump’s ‘big, beautiful’ budget is spooking(トランプ大統領の‘大きくて美しい’予算は投資家を怖がらせている)」としています。
加えて、下記のように警告しています。
より憂慮すべきは、昨年の債務の利息支払いが8,800億ドルに達し、メディケアと軍事費を上回ったことです。「防衛費よりも債務の返済に多くの支出を費やす大国は、その大国としての地位を失う危険性がある」と、歴史家のニール・ファーガソン氏は述べている。
(出所:FT)
マーケットは、注目が「関税から米債務問題」に移行しつつあり、引き続き米ドルの上値は重いままですね。
それでは今週(5月26日~)の展望に行く前に、今週のスケジュールと株の見通しをお願いします。
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株式市場は5月28日のエヌビディアの決算発表に左右されそう
MC叶内 5月28日(水)にエヌビディアの決算発表があります。
経済指標では、米国で5月27日(火)発表の米5月コンファレンスボード消費者信頼感指数、5月30日(金)発表の米国4月の個人所得と個人消費支出、PCEデフレータに注目しています。
5月28日(水)にFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨が公表されます。
中国の5月製造業PMIが5月31日(土)に発表されます。米中合意の影響、中国当局の景気刺激策の影響がどの程度出ているか見たいです。
国内では5月30日(金)に4月の完全失業率・有効求人倍率、鉱工業生産指数、5月都区部消費者物価指数が発表されます。
そのほか、5月28日(水)に日本40年債の入札、NZ中銀が政策金利を発表。5月27日(火)〜28日(水)で日銀の国際コンファレンスがあり、植田総裁、氷見野副総裁、NY連銀ウイリアムズ総裁の発言機会があります。5月30日(金)にトランプ大統領の演説が行われる予定です。
今週の株式市場ですが、エヌビディアの決算・見通しによって影響を受けそうです。
第1四半期決算でビックテックのAI関連投資は衰えていないことを確認したので、決算は強めに出ると期待されているでしょう。ただし、中国向けや関税政策は予断をゆるしません。半導体関連は指数への影響も大きいので、ファンCEOの発言にも注目です。また、トランプ外交で中東へのAI半導体輸出が可能になりました。今後ソブリンAIの構築が進むと見られ、中期的には需要増加が期待できそうです。
英国・中国と合意したあと、貿易交渉は難航していてトランプ大統領のイライラが伝わって来るようです。株式市場は、急速に戻ったあとの調整の時間帯かもしれません。
ベッセント財務長官が、米国債取引巡る銀行規制を今夏にも当局が緩和する可能性に触れていて、もし実現すれば米国の銀行が米国債を買いやすくなるため金利が落ち着くことも考えられます。財政懸念からの長期金利の上昇が止まるのか、引き続き注目です。
為替市場はいかがですか。
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米ドル/円の目標値138円は変わらず。142円台から上でショートを追加できるよう、慎重にポジション管理
トレーダー西原 ご紹介したいのが、米ドル/円と米10年債利回りの日足チャートです。
基本、米10年債利回りが上昇している局面では、総じて米ドル/円も上昇しています。
ところが、4月2日(水)の「解放の日」以降、米金利が急騰すると、米ドル/円が反落する傾向が高くなっています。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は138円に向けて戻り売り継続! 注目は関税から米財政問題に。米ドル/円の上昇要因だった米金利上昇が、解放の日以降、米ドル安要因となり上値は限定的に(5月22日、西原宏一)

(出所:TradingView)
これが米国のトリプル安(米債下落(利回りは上昇)、株下落、米ドル下落)といった展開を招いています。
そして、トランプ大統領の「One、Big、Beautiful Bill」という減税法案が、構造的な米ドル安の流れを拡大させていると考えています。
本日シドニー市場(5月26日早朝)で、米ドル/円はいきなり143.08円まで反発。
要因は「トランプ大統領は、欧州委員会のフォンデアライエン委員長との電話会談を受け、欧州連合(EU)に対する50%の関税発動期限を7月9日まで延長する」との報道。
トランプ大統領は5月25日(金)、ワシントンに戻る途中で記者団に対し、「非常に良い電話会談だった」とコメントしたようです。
先月(4月)まででしたら、関税がマーケットの一番のテーマであったため、米ドル/円は急騰するはずですが、今回の報道によって、米ドル/円は一時的に反発したのみで、再び142.20円台に戻されています。

(出所:TradingView)
つまり、マーケットのテーマはすでに関税から米債務問題に移行しつつあり、注目は「One、 Big、 Beautiful Bill」の行方と米長期金利の動向に集まっています。
FTもこの減税法案を『「大きく美しい」というトランプ氏のうたい文句は一部しか正しくない。規模は確かにとてつもなく大きい。今後10年間で米国の政府債務を3兆3000億ドル以上押し上げる可能性がある。だが、今のままではトランプ氏がうたうより、はるかに見苦しい経済的影響を生みかねない。』と強烈に批判しており、このトランプ減税法案の行方に注目しています。
このコラムでの米ドル安継続スタンスはまったく変わっていませんが、米政権はトリプル安を引き起こす可能性がある「米ドル急落」は避けたいはず。
そのため、米ドル/円の142円台からはリスクを高めず、米ドルの戻りでショートを追加できるよう、慎重にポジション管理をしたいところです。目標値は138円で変わりません。

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株、為替のトレーディングを楽しんでいきましょう。
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