昨日の海外市場でドル円は、米国とイランの停戦協議を巡る先行き不透明感から、WTI原油先物価格が急伸すると、一時159.30円まで上昇した。ただ、「イスラエルとレバノンは和平協議を開始する」との報道が伝わると、WTI原油先物が急失速し158.63円付近まで下押しした。しかし、イスラエルが改めて強硬姿勢を示したことで159円台を回復した。ユーロドルは一時1.1723ドルまで上昇後、再び1.17ドルを割り込んだ。
昨日の値動きを振り返ると、中東情勢を巡るヘッドラインに振り回される展開が続いた。本日の為替市場も同様で、イランを巡る軍事衝突の帰趨が最大の焦点である構図に変化はない。とりわけ、週末に米国とイランの代表団が仲介国パキスタンの首都イスラマバードで協議を行うと伝わっていることから、その帰結次第では相場が急展開する可能性が高い。結果次第では週明けのオープンでギャップを伴う変動が生じるリスクも十分に意識しておく必要がある。
交渉開始時期については当初10日とされていたが、レビット報道官は8日の記者対応で11日開始と発表している。バンス米副大統領が協議に出席し、米国側の交渉団にはウィトコフ中東担当特使とトランプ米大統領の娘婿のクシュナー氏も加わる。報道によるとバンス氏とウィトコフ氏はともに、今回の軍事侵攻に対しては否定的だったともされている。しかしながら、バンス氏は今回の停戦は「もろい休戦(fragile truce)」と位置付け、イラン国内には停戦について嘘をついている勢力もいると発言している。一方で、イランのガリバフ議会議長もイランが提示した10項目の停戦案のうち、米国は3項目違反していると述べるなど、協議前から両者の間で不信感が漂ったままだ。このような状況下では、そもそも交渉が実質的な進展を伴わない、あるいはテーブルに着く段階で難航する可能性も排除できない。その場合、週明けは原油高・株安・ドル高といった典型的な有事フローが再燃するシナリオが想定される。
また、10項目からなる停戦案を巡っても、隔たりは依然として大きい。イラク、レバノン、イエメンを含む広域での戦闘停止という枠組みにおいて、米国が休戦に傾いたとしても、イスラエルが徹底抗戦の姿勢を維持する構図に変化は見られていない。加えて、イランに対する復興費用や補償金の支払い、さらにはホルムズ海峡の安全確保といった論点は、いずれも米国側にとって受け入れ難い条件が多く、現実的な合意余地は限られる。むしろ、条件次第では2月末の軍事行動以前よりもイランに有利な内容となりかねず、トランプ政権の軍事的圧力が実質的な成果を伴わなかったとの評価につながる可能性すらある。交渉が平行線のまま終わる場合、前述の通りドル買いシナリオが優勢となろう。
このように、リスクシナリオは総じて「和平期待の後退」に収斂する。ただし一方で、政治的な「演出」の余地も無視できない。トランプ大統領はこれまでも、実態以上に交渉進展を強調する発信を行ってきた経緯がある。政権の求心力維持という観点からも、何らかの「成果」を示す必要性は高く、仮に見せかけにとどまるものであっても、進展を印象付ける発言があれば、短期的には原油安・株高・ドル安といったリスク選好の反応を誘発する可能性がある。また、バンス副大統領にとっても、ポスト・トランプを見据えれば今回の局面は政治的な存在感を高める好機となる。仮に包括合意に至らずとも、例えば期間限定の停戦(45日規模)が打ち出されれば、同様にドル売り方向への反応が強まる公算が大きい。
経済指標では、本日は日本の3月国内企業物価指数が発表される。原油価格の上昇を背景に、前月比での伸びが意識される局面だ。足元では国内指標に対する市場の反応は限定的だが、エネルギー価格の上昇が物価指標に持続的に波及すれば、今後の日銀の金融政策運営にも徐々に影響を与える可能性がある。また、中国からは3月の消費者物価指数(CPI)および生産者物価指数(PPI)が発表予定であり、グローバル需要の温度感を測るうえでも注目度は高い。
加えて、週末にはハンガリーで総選挙が実施される。現職のオルバン首相は、トランプ政権やプーチン大統領との近い関係で知られ、いわゆる権威主義的な政治スタンスを取る指導者と位置付けられている。仮に同氏が敗北する展開となれば、中東情勢とは別軸で、トランプ政権の対外的な求心力低下が意識される可能性がある。複数の地政学イベントが交錯する今週末は、同政権にとって一つの試金石となり得る局面だ。
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