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ロンドン発!松崎美子のFXマーケットレター

英ポンドはなぜ強さを取り戻しつつあるのか?アンディ・バーナム氏が直面する二重の試練とは?英国新首相就任となれば財務相に誰を指名するのか注目!

2026年07月07日(火)07:35公開 (2026年07月07日(火)07:35更新)
松崎美子

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アンディ・バーナムが直面する二重の試練

 長い間 英国で政治の世界を見てきましたが、タイミングと運は時には何よりも強力な武器になることがあります。かつてブレア元首相は、「ゴルディロックス経済」と脆弱な野党という、これ以上ない幸運の波に乗り、10年間にも渡り政権運営をしました。

 そうかと思えば、最近の歴代首相たちのように、世界的なエネルギー危機や地政学リスクという「大嵐」の最中に舵取りを任される不運な指導者もいます。

 スターマー首相の後任として確実視されているバーナム前マンチェスター市長は、まさに後者の「厳しい時代」の指導者として、その真価を問われようとしています。

 同氏は「労働党政権の新しい方向性」は発表しましたが、彼を待っているのはお馴染みの双子の赤字と世論の分断です。

●アンディ・バーナム氏の試練

 バーナム氏が直面している試練はたくさんありますが、その中でも特に気になる点は2つあると私は考えます。ひとつは、2016年のBrexit以降続いているマクロ経済の弱さと財政事情。もうひとつは、元マンチェスター市長という経歴ゆえに付きまとう「地方偏重の懸念」、特に北部と南部の分断リスクという世論の壁です。

【試練1:金融市場の反応】

 バーナム政権の前途に立ちはだかる経済の逆風は、凄まじいものがあります。

 現在の国債発行額は高水準に高止まりする中、成長力は弱く、防衛費増額やネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)への移行、さらには高齢化社会への対応といった歳出圧力は高まっています。

 一方、バーナム氏は債券市場からの圧力には抗えず、労働党が現行で掲げる厳格な財政規律を遵守せざるを得ない状況に追い込まれ、それに加えスターマー政権が残した「防衛投資計画の未払い分(4年間で47億ポンド)」という財政面における不発弾も、足かせとなる事は目に見えています。

 しかし、最近になり、もしかしたらその泥沼からかろうじて抜け出せるかもしれないという「幸運の兆し」が見えてきました。

 それは、中東情勢が落ち着いたことによる原油価格の下落です。これによって最悪のシナリオは回避されつつあり、大手マクロ経済シンクタンクは、今年のインフレ率は3.5%に収まり、成長率は1%近くまで回復するという予測を出しました。

WTI原油先物 日足
WTI原油先物 日足

(出所:TradingView

 さらにBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])による来年(2027年)の利下げ観測も浮上しており、リーブス財務相が残すであろう財政の「余力(ヘッドルーム)」への打撃も、当初の想定より軽微で済む見通しとなるようです。

 そうとはいえ、国民を悩ましている家計の困窮が一気に改善するわけではなく、バーナム陣営内部では「慎重論」と「過激な改革論」が激しく火花を散らしていると伝えられています。

 バーナム氏は公営住宅の拡充やインフラ投資、そして生活費負担を軽減する「ブリージング・スペース(とりあえず一息つけるような)」支援を公約していますが、当然これには莫大な資金が必要です。

 そして同氏は「働く人々への増税はやらない」という2024年の労働党マニフェスト(政権公約)を遵守するとも明言しているため、増税という選択肢を封じられており、いかにして生活困窮対策を打ち出すのかに短期的な関心が集まることは、無理もないでしょう。対策発表のタイミングを今秋に予定される予算案まで待つべきか?前倒しでポピュリスト的なパッケージを打ち出すべきか?陣営内の議論は尽きません。

【試練2:YouGovが暴いた「北部の王」というレッテル】

 バーナムを悩ませるより根深い問題が、世論調査会社YouGovが浮き彫りにした「地域的な分断」という視線です。

6月30日(火)に発表された結果は、

・バーナム氏は国全体の利益のために国政を担うと考える:23%
・イングランド北部のような特定の地域を優遇するだろうと考える:27%
・ロンドンやイングランド南東部の地域を優遇するだろうと考える:4%

(出所:YouGov

 このように、保守党やリフォームUK党(旧Brexit党)の流れを汲む右派政党の支持層が高い南東部では、バーナム氏への懐疑論は根強いことが分かりました。

 さらに地域別での回答を見ると、このデータが示す「北部と南部の分断」の構図はさらに鮮明です。バーナム氏のお膝元である北部住民の32%が「国全体のために尽くしてくれる」と期待を寄せるのに対し、南部住民の36%は「どうせ北部を優遇するのだろう」と警戒の目を向けているという結果が出ているのです。

 マンチェスター市長として、地方分権の旗を振り、ロンドン一極集中に反旗を翻してきたバーナム氏の「過去の栄光」が、皮肉にも全英の指導者としては「地方偏重」というアキレス腱になってしまったようです。

●経済的ポピュリズムの行方

 有権者は終わりが見えない生活苦に辟易しており、「最悪の事態よりはマシになった」程度の改革では、新政権に感謝することはありません。そして2029年に予定されている次期総選挙へのカウントダウンが始まる中、バーナム氏に残された時間はあまりにも短いです。

 バーナム陣営の一部は、緊縮財政への配慮を優先し、安易な生活費支援対策実施には警鐘を鳴らしています。しかし、いろいろな報道を見ていると、陣営関係者の1人は「最大の関心事から逃げることはできない。やるしかないのだ」と語っており、生活困窮問題から目を背ければ、バーナム氏の支持基盤は一瞬で崩壊するリスクさえあるようです。

 特に、右派ポピュリズムを掲げるリフォームUK党(旧Brexit党)の追撃をかわし、労働党の過半数議席を維持するためには、あえて「経済的ポピュリズム」のカードを切り、労働者階級の不満を吸収することが戦術的に有効であるという世論調査の結果もあるくらいです。

 幸運にも中東情勢の緩和という「追い風」が吹くのであれば、新首相はその好機を冷徹に利用しなければならないでしょう。

 このように新首相を待ち受ける環境は非常に不安定で、財務相選びを間違えれば一瞬で終わるリスクさえあります。
【※関連記事はこちら!】
スターマー首相退陣で次の英首相は誰?市場は最有力候補バーナム氏の首相就任よりもその背後にある財政運営の中身を見極めようとしている!第2の「トラスショック」
は起こり得るのか(6月23日、松崎美子)

 みなさんも覚えているように、英国は2022年に財源のない減税案をぶち上げて市場の猛反発を喰らい、わずか49日間で崩壊したトラス政権の悪夢を忘れていません。もしバーナム氏が、市場の信用を得られない人物を財務相に据えたり、財政規律を無視した甘い見通しの予算を組めば、債券市場は一瞬でパニックに陥り、政権は発足早々に機能不全に陥ります。

 バーナム氏が真の国家指導者となるためには、財政規律を維持しながら生活困窮者を救うという「マクロ経済の針の穴」を通すような技術と同時に、南部を含むイギリス全体の国民に対し、「私は北部の代弁者ではなく、英国全体の首相である」という確固たる姿勢を証明してみせる必要があります。

●英ポンドへの影響

 最近 どうして英ポンドはこんなに強いのか(?)という質問をよく受けるようになりました。

英ポンド/円 日足
英ポンド/円 日足

(出所:TradingView

 私からの答えは、英ポンドのショートが溜まっていたので、そのショート・スクイーズが起きたであろう事と、ユーロ/英ポンドが0.8600ポンドを下抜けしたため、否が応でもユーロ安/英ポンド高の動きが出たと考えています。

ユーロ/英ポンド 日足
ユーロ/英ポンド 日足

(出所:TradingView

 今後の注意点としては、7月9日(木)から労働党の党首選立候補者受付が始まるので、バーナム氏に対抗するだけの候補者が現れるか?

 もし不戦勝となり、7月20日(月)にバーナム新首相誕生となれば、財務相を誰を指名するか(?)の2点が重要だと考えています。

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