英国・秋季予算案を巡る「5つの焦点」
10月28日(水)に発表される英国の秋季予算案。
ヒーリー財務相にとって就任後初となる今回の予算案は、前スターマー政権下における経済の舵取りの変更や、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])の金融政策の行方を左右する可能性がある、極めて重要なイベントです。
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⇒英ポンドが大きく動き出す時期が近づいている!?バーナム政権の予算案発表は英国民に希望を示すことができるのか?そして…英中銀の利上げの有無が市場の焦点となる!(9月28日、松崎美子)
先週(10月12日~)バンコクで開催されたIMF(世界通貨基金)総会では、英国はG7(先進7カ国)諸国の中でもっとも迅速に財政赤字と債務削減を進めている点が高く評価され、成長見通しも上方修正されました。
しかし、国際社会からの絶賛とは裏腹に、国内に目を向けると「増税に対する業界からの猛反発」や「生活支援の充実」など課題は山積みです。
今回のコラムでは、予算案を理解する上で私が重視している5つの点をお伝えしようと思います。
①財政の余剰枠(Headroom)
予算案発表時にロンドン在住の私たちがもっとも注視する数字が、「財政の余剰枠、英語ではHeadroom」です。
今年(2026年)3月時点で240億ポンドと言われていたHeadroomは、国債利回り上昇による利払い費の急増により100億ポンド程度へ縮小すると試算されています。

(出所:TradingView)
しかし、英国の著名な経済シンクタンク『財政研究所(IFS)』の試算によると、インフレに伴う名目税収の増加が190億ポンドあり、それが金利上昇による痛手を相殺するため、Headroomは200億ポンド前後で踏みとどまるとの見方が浮上してきました。
それに加え、賃金の伸びが想定を上回れば、さらに100億ポンド程度の改善が実現する可能性もあり、増税の必要性を和らげる要因となり得ます。
ただし、このHeadroomは経済予測のわずかなブレで容易に数字が変わるため、「見かけ上の数字の過信は禁物」とのことでした。
いずれにせよ、Headroomが拡大すれば増税の必要性が薄れ、歳出拡大への余地が生まれるため、市場のセンチメントを大きく好転させる要因となり、英ポンドには好材料となります。
②「見えざる歳出リスク」と生活支援の両立
今回の予算案でより深刻なのは、「現場での予算不足」です。
見えざる歳出リスク
インフレ進行前の予算でやりくりを迫られている行政の各部門では、実質的な購買力が著しく低下。特に公共部門の給与伸び率は政府想定を超えており、給与の調整だけでも2028~29年度までに年間30億ポンド、公共サービス全体のレベルを維持するには年間約150億ポンド規模の予算追加投入が必要と言われています。
生活支援
バーナム首相は国民の生活費負担の軽減を掲げており、エネルギー関連の軽減税率や光熱費支援など「一時的な支援策」の導入が不可欠です。
各省庁に「既存予算でのやりくり」を命じつつ、いかに国民へ安心感を与えられるかが問われます。
波紋を呼ぶ「銀行増税」と60億ポンドの代償
今回の予算案では、財政の穴を埋める手段としてもっとも有力視されているのが、「銀行上乗せ税」の3%から8%への引き上げです。これにより年間20~30億ポンドの税収増が見込まれるそうです。
しかし、この方針に対しては、金融業界や専門家からは批判が噴出。
銀行業界
上乗せ税率を8%へ引き上げた場合、今後5年間で英国のGDPが60億ポンド縮小し、融資枠が約100億ポンド削減されると警告。金融機関で起きる雇用削減の3分の2はロンドン以外の地方都市に集中し、地方創生にも逆行すると主張しています。
グローバル金融機関
米JPモルガン・チェースのダイモンCEOらは、特定業界への狙い撃ち増税に不快感を示し、ロンドンへの投資見直しを示唆。
BOE(英中銀)やIMF
ベイリー総裁は「銀行への増税は住宅ローン金利の上昇を招き、金融安定を損なう」と難色を示し、IMF(世界通貨基金)の専門家も「税負担がすでに高い英国では、増税よりも年金・福祉改革などの歳出削減を優先すべきだ」と助言しています。
私個人の意見になりますが、前スターマー政権下では、合計660億ポンドの増税が、主に企業向けに実施されました。
その結果、企業投資が大幅に減少しただけでなく、雇用市場も縮小せざるを得ず、英国経済は低空飛行を余儀なくされ、現在に至ります。
ここで今度は銀行への増税を実施し、住宅ローンや企業貸付金利の上昇が起きれば、最終的には国債利回り上昇やそれに伴う利払い増で国の財政運営が難しくなることが考えられるため、これ以上の企業や銀行への増税には、私自身も消極的です。
④全国最低生計賃金
2027年4月からの最低賃金額も、予算案と同時に発表されます。
低賃金委員会による事前試算によると、3.7%程度の引き上げが予想されていたようですが、最近のインフレ率上昇を踏まえ、引き上げ幅が4%~4.5%、最大では5%近くまで拡大する可能性が浮上してきているようです。
最低賃金(人件費)の急増はサービス業を中心に企業にとって圧迫要因となり、BOEが掲げるインフレ目標である2%達成を難しくします。
特に最低賃金の伸びが4.5%を超えた場合、BOEによる利上げ圧力が一段と強まるシナリオが浮上し、英国債利回り上昇に直結するかもしれません。

(出所:TradingView)
一般的には「金利上昇=通貨高」ですが、これ以上の国債利回り上昇は利払い増加に直結し英国財政の逼迫に繋がるため、英ポンドにとってはネガティブ材料となるかもしれません。

(出所:TradingView)
⑤成長の起爆剤としての「新ビザ制度」などの工夫
厳しい財政制約の中でも経済のパイを広げるため、政府は海外からの資本誘致を狙う新たな成長戦略を模索しています。
そのひとつが、富裕層の外国人投資家を呼び込む新たなビザ枠の開設です。
成長セクターへの投資を条件とするビザや、「適格投資」を前提とした定額課税優遇措置を導入することで、現行制度では逃していた優良な投資と人材を呼び込む狙いがあるそうです。
10月28日、ヒーリー財務相が下す決断は?
10月28日(水)の秋季予算案は、単なる歳入・歳出の計算合わせではありません。
IMFが求める「厳格な財政規律」を守り切れるのか?
国民が求める「生活苦への支援」を届けることができるのか?
業界が懸念する「増税による経済停滞」を回避し、成長への道筋を描けるのか?
など、チェックポイントは多岐に渡ります。
英国経済の信頼性と将来の成長軌道を左右する運命の1日に、世界中の市場参加者と国民の注目が集まっています。
最後になりますが、現時点では今回の予算案内容は、「BOEの11月利上げ観測にはただちに大きな影響を与えない」というのが基本シナリオとなっていますが、歴代の財務相がそうであったように、今回も「サプライズ」を用意している可能性がありますので、注意してください。













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