(「ファンダメンタルズの賢者・山岡和雅さん(1) 円安相場に今から参戦するテクニック」からつづく)
みなさん、こんにちは、葉那子です。
今回も、前回に引き続きGCIキャピタル・チーフストラテジストの山岡和雅さんのご登場です。
前回の記事では、2012年の年末から2013年1月、2月にかけての円安の背景やオプションバリアのしくみについてご紹介しました。
【参考記事】
●ファンダメンタルズの賢者・山岡和雅さん(1) 円安相場に今から参戦するテクニック
山岡さんにはホワイトボードを使ってていねいに解説していただき、途中から山岡さんが塾の先生に見えてきました。
そんな山岡さんに続いてお聞きしたのは、欧州債務問題の現状についてです。
欧州危機は今は一段落!?
2012年は欧州債務問題に関するニュースで大きく相場が動いていましたが、最近のマーケットの関心は日本に移り、欧州関連のニュースはすっかり影を潜めたような印象を受けます。
では、実際に欧州債務問題は現在どうなっているのでしょうか?
「すごく落ち着いてきています。国債の利回りを見るのが一番早いのですが、たとえば、欧州債務問題の中心国となっていたギリシャの10年債は、2011年のピーク時は35%でしたが、今は12~13%くらいまで落ち着いてきました。
日本の国債とアメリカの国債の利回りが違う理由は、単なるリスクの問題ではなく、経済成長率、為替の予想、その他さまざまなファクターがあるため一概には言えません。
ただし、ユーロという1つの同じ通貨を使うユーロ諸国は、本来どの国も同じ利回りでなければいけません。基本的にドイツで発行された1ユーロ紙幣も、ギリシャで発行された1ユーロ紙幣も同じ価値のはずなのですから」
ではなぜ、ドイツとギリシャでは国債の利回りが違うのでしょうか?
「信用力の差です。ギリシャは10年間、借りたお金をきちんと返さないのではないか。満期になっても貸したお金が返ってこないのではないか。それならドイツと同じ利回りでは嫌だ!というギリシャに対する不信感から、気づけば利回りが35%にまで高騰したわけです」
まさにハイリスク・ハイリターンというわけですね。
ドイツとギリシャは信用力が違う!
そんな信頼されていなかったギリシャの国債利回りが、今では約3分の1にまで低下したのはどうしてなのでしょうか?
「一番の理由は、欧州での救済プログラムがきちっと機能し始めてきたことが挙げられます。
また、ギリシャが包括対策の是非を問う国民投票を実施していた頃は不透明感が漂っていたものの、返済額を強引に天引きした後はなんとか財政赤字削減への姿勢を見せ始めました」
「さすがにこれくらいは返せるでしょう」という周囲の思いが広がった、というのが実際のところともおっしゃっていました。
そもそもギリシャは、財政赤字が対GDP比で3%以下というユーロ加盟の条件をクリアするため、加盟前年の2000年の財政赤字を虚偽報告していたという背景があります。
これを考えると、どうもまだ欧州債務問題が解決したとは思えないのですが…。
すると、「いいえ、全然解決はしてません!」と山岡さんはきっぱりおっしゃいました。
欧州債務問題が再燃する可能性は?
「はい、もちろんあります。ギリシャもそうですが、イタリアやスペインもまだ危ういです。もともと南欧諸国は他のドイツなどと比べて産業が強くないため、昔から景気が悪いんです。
1つの同じ通貨を使う国々の国力や経済体制があまりにも違うという点が、ユーロの構造的な弱点なのです。
ギリシャはオリーブが有名ですが、農業では先進国は支えられません。イタリアやスペインも、昔から人口の割に国力が強いわけではないのです」
イタリアやスペインと言えば高級ブランドというイメージがありますが、やはり繊維産業でも先進国を支えるのは難しいようです。
日本も繊維産業が盛んだったのは戦前の話で、今、繊維産業が強い国というのはトルコ、ベトナム、中国といった発展途上国です。
やはり先進国では、いわゆる付加価値の高い精密機械産業を持っているところが強いようです。
「それで言うと自動車産業や化学産業が盛んなドイツが一番強いですよね。あとはオランダとかもそうです。
そうした国力の差という構造的な問題を抱えたまま、ユーロはずっと突っ走ってきてしまったわけです。
ただ、何でもそうですが、少々、不具合があったところで好調だったら誰も何も言わないものです。ドイツが中心となって欧州全体の景気が良かった2005年頃までは、特に問題視されることはありませんでした。
ところが景気が悪化してくると、結局いろんなところで不満が出てきて、その中でも規定をごまかしてユーロ加盟国となったギリシャがまずやり玉に上がったわけです」
なんとも調子のいいお話ですよね。
「ギリシャのようにごまかしていたわけではないのですが、元々、国力が弱かったスペイン、ポルトガル、アイルランドといった国々はさらに財政赤字を増やし、公共投資でなんとか国を回そうとしたわけです」
「とりあえず公共投資を増やして国を回そう」という考えは日本もいっしょ。
その効果は明らかにあると山岡さんはおっしゃいます。
「要は国が借金してでも仕事のない人たちに無理やりでも仕事を作ってしまう、これが一番効くんです。ただし、それが永続的にいくわけではなく、どんどん借金が膨らむわけですから、どこかで歯止めをしなければいけません。
それがうまくいかないまま、借金だけ膨れ上がったのがギリシャ、イタリア、スペインといった国々です」
財政赤字があること自体が悪いわけではなく、限度を越してしまうことが問題のようです。
財政赤字はほどほどなら問題ない!
「よく国債は国の借金と言いますが、借金は返さなくてもいいんです。なぜなら一部の小さい産油国は別として、借金がない国はほとんどありません。どんな先進国も基本的には財政赤字を抱えているものです。
問題はそれが回るか。
たとえば、10年前にした借金を今年返さなければいけないとします。そうしたら新しく国債を発行して回してしまえばいいのです。
企業もそうです。どんなに大きな企業も銀行から借り入れをして、その借金は売上げで返すという繰り返しなのですから。
信用があれば、売上げがあれば借金は回ります。国も国債を発行してそれが回ればいいのです。
ただし、回らなくなるほど財政赤字が膨らみ過ぎた時が問題です。
その国の信用がなくなってしまうと、一気に崩壊してしまいます。お金も国債も全部信用で成り立っているわけですから。極端な例としては、1万円は1万円の物と交換できるから価値があるのであって、1万円札も価値がなくなれば単なる紙なのです」
とにかく重要なのが国の信用力、というわけです。
借りたお金は返すもの、という普通の感覚とは少し違うようですね。もちろん、個人的に借りたお金はきちんと返すべきですが(笑)。
では、同じ財政赤字を抱える日本とギリシャではどこに違いがあるのでしょうか?
「日本の場合、国の借金は多いけれど、お金を持っているんです。特にご老人たちが。
そういうお金は銀行へ行き、銀行は国債を買い、あとは生命保険に支払われるお金でも国債は買われています。
家計のお金が金融機関に流れ、金融機関のお金が国債に流れ、といったように、国債を買う需要がまだ残っているので特に今のところ問題はないのです。
一方、ギリシャやスペインの場合、そもそも民間にお金がなく、国債を買う人が少ないというのが問題です。
さらに、そういった国々が破綻してしまうと、ドイツなど他のユーロ紙幣を使っている国々、みんなが影響を受けてしまうわけです。
同じ財政赤字と言っても、1つの紙幣を複数の国が使っているという状況がアメリカや日本とは決定的に違うのです」
1つの通貨を複数の国が使っている状況
ユーロが発足した時点から抱えていた根本的な問題がある限り、欧州債務問題はなかなか根深い問題かもしれないですね。
そして、根本が解決していない欧州債務危機は、2013年中に再燃する可能性も十分にあり得ると山岡さんはおっしゃっていました。
「一番可能性が高いのは、結局、ギリシャが財政赤字を削減できませんでした、という状況です。そうなりかねないですから彼らは。
すぐにそうなるわけではないと思いますが、目先で言うと、欧州のイベントとしては、2月のイタリア選挙が重要となります。
2月24、25日のイタリア総選挙に注目!
イタリアも依然として財政赤字を削減しなければいけない状況が続いています。ただし、それには税金を上げる必要があり、そうなると国民受けはどうしても悪くなってしまいます。
そこへ、調子のいいベルルスコーニ氏がそんなことをしないと言って選挙に勝ってしまうと、さらなる混乱を招く原因となってしまうのです」
とにかくユーロに関しては、まずは2月24日(日)、25日(月)に行われるイタリアの総選挙に注目ですね。
今は日本のニュースに関心が傾いていますが、引き続きユーロの情勢にも気をつける必要がありそうです。
(「ファンダメンタルズの賢者・山岡和雅さん(3) 今年は円安継続も英ポンドだけは『売り』!」へつづく)
【葉那子のトレード報告 2012年2月4日(月)~2月8日(金】
0勝1敗1分
負けトレード:ユーロ/円 -28.4pips(-1420円)
引き分けトレード:ユーロ/米ドル +0.1pips(+4円)
合計収支:-1416円
口座残高:9万1806円
どちらもユーロはショート目線だったのですが、2月5日(火)のユーロ/円ショートは見事なまでに踏み上げられました。
2月6日(水)のユーロ/米ドルは約30pips巡行したのですが、建値付近まで戻ってきたところで決済。
最近じわじわ負けが続き、ついにあと少しで元本の1割減というところまできてしまいました。
(取材・文/葉那子 撮影/和田佳久)
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