2014年の為替相場って何だか今までと様子が違う。去年までの猛烈な株高・円安は一服、方向感なくフラフラとしていて、「イマイチ儲からない……」なんて人も多そう。今年の為替相場はどこへ向かうのか。日本銀行やバークレイズ銀行で活躍した名うてのストラテジスト・山本雅文さんに聞いてみよう。
■円安の記憶はいったん消去! 今年は「円高の1年」に
「昨年までの『株高・円安』に引きずられていると、今年の相場は難しいかもしれません。今年は1ドル100円割れの可能性も濃厚で、来年から始まる円安第二幕に向けた『最後の仕込みどき』になるのではと見ています」
山本さんの予測では2014年は「円高の1年」。2013年の強烈な円安の記憶に引きずられていると、損切りを繰り返すハメになるかも。円高警戒モードに頭を切り替えておこう。
「これまでの円安でたまっていた円売りポジションが巻き戻される動きもあり、円安にはなりにくそうです。さらに4月以降は消費増税で景気の減速は避けられないでしょうし、アメリカの景気も大寒波の影響で芳しくない状況が続いていてドル高にもなりにくい」
ファンダメンタルズ的には円安にもドル高にもなりにくい。そうなると、米ドル/円は円高ドル安の動きが強まりそう。でも、円高が進めば、あの人が黙っちゃいないはず。
「日銀の黒田総裁が追加緩和を行なうのは既定路線ですが、物価上昇率などを見通す『展望レポート』が発表される4月末の日銀会合で行なうのか、あるいは増税の影響を見てから行なうのか、いずれにせよ春から夏場にかけてになるでしょう。ただ、これまでのような先手を打つ形ではなく、白川前総裁時代のような『円高になってから対策する』という形に逆戻りすることになり、市場へのインパクトは薄そうです」
白川総裁時代を思い返すと、何をやっても為替市場への効果は激薄だった。「黒から白へ」と逆戻りしちゃうと、せっかくの追加緩和も「バズーカ」どころか、小銃くらいのインパクトになってしまう。
■円安一服で2%ターゲットの達成も遠のく
「今のところ物価上昇率はターゲットである2%へ向けて順調に上昇してきましたが、これには円安による輸入物価上昇の影響も大きかった。為替が昨年並の水準に落ち着いてしまうと、物価上昇率の上昇にも歯止めがかかってしまいます」
2%目標に向けて順調に進んでいた黒田日銀だが、「思ったほど物価上昇率は上がってないね」となれば、円売りの気運も減退してしまう。
「2015年10月の消費税再増税に向けた議論も夏場には始まり、これも円高材料となります。いったん円高への動きが始まれば、100円割れは簡単でしょう。年末に向けて95円程度もあるのではと見ています」
今年、短期的な取引で利益を狙うなら円売りよりも円買いがよさそう。では、これで円安が終わってしまうかというと、そんなことはなさそうだ。焦点となるのはアメリカの動向だ。
■アメリカは量的緩和終了から待望の利上げへ
「円安が本格的に進むのは、金利差が拡大する局面です。日本は当面ゼロ金利を続けるでしょうから、アメリカの金利が上昇してくれば、米ドル/円の上昇が再始動する、ということになります」
では、アメリカの金利上昇はいつなのか。
「現在、FOMCは量的緩和の規模縮小(テーパリング)を粛々と毎月100億ドルずつ進めています。このペースでいけば年末に向けて『FOMCの利上げ開始』がマーケットのテーマとなり、2015年には実際に利上げが始まるでしょう」
マーケットはいつもせっかち。先々を織り込んでいこうとするから利上げ開始が来年ならば年末あたりからドル買いの動きが強まって、米ドル/円は底打ち、来年の利上げに向かって上昇していくというイメージが描ける。
「ですから数年先を見込んで取引するのなら今年は買い場。金利差が拡大して円安が進むであろう来年以降、『90円台で買っておけばよかった……』と後悔することになるかもしれません」
中長期的に見れば米ドル買いの最後のチャンスになるかもしれないのが今年後半。チャンスを逃さぬよう、お気をつけあれ。
■米国景気は一服、ユーロの動向は?
今年の動きは円高が濃厚、アメリカの景気回復も一段落で強烈なドル高ではなさそう。となると、残る有力通貨、ユーロの動向も気になるところだが。
「ユーロは下がりそうで、なかなか下がらない。ユーロ圏の経済指標が思ったより強い数字が続いていましたし、政局が混乱していたイタリアでは39才とボクよりも若く、カリスマ性もある首相が登場。国債利回りも低下しており落ち着き始めています」
となると、今年はユーロ高が濃厚か。
■ユーロの動向を占う大注目の経済指標「HICP」
「かといってユーロが急騰するイメージもありません。当面は1.38台を挟んで底堅い展開が続くのではないでしょうか。気になるのは『HICP』です」
ユーロの金融政策を見る上で欠かせないと山本さんが強調するのは、「HICP」と呼ばれるインフレ率だ。
「ユーロは2%前後のインフレ率を基準にしていますが、最近は1%割れが続いており、デフレとまではいかないがインフレでもない『ディスインフレ』の状態が続いています。この一因がユーロ高です」
円安が日本の物価上昇率を押し上げていたのと反対のことがユーロで起きているのだ。
「ユーロが高止まりするようだと口先介入があるかもしれません。ユーログループの議長はすでにユーロ高をけん制する発言をしていますし、ECBのドラギ総裁が口先介入してくる可能性もあります。HICPが0.6%くらいまで下がると要注意でしょう」
最近だとオーストラリアの中央銀行が「豪ドルは不快なほどに高い!」と口先介入を繰り返して豪ドルが急落した。ECBは「口先介入上手」の評もあるから、気をつけておこう。
■ユーロ/米ドルは年末に向けて1.30台を目指す
「ほかにもECBでは政策金利をゼロ以下に引き下げる『マイナス金利』の導入など、金融緩和がささやかれていますし、ユーロ圏の銀行の資産内容を精査する『AQR』も予定されています。どちらもユーロ安の材料となりうるものなので、ユーロ/米ドルは春以降、1.30へ向けて下落するのではと見ています」
さて、ここまで米ドルとユーロを見てきたが、いまいち「すごく強い!」という感じはしない。では、2014年に強い通貨って何だろう……? この続きは近日公開予定!
【2014年3月19日】
(「2014年は「円高の1年」。意外な「最強通貨」にも注目!」へつづく)
(取材・文/高城泰)
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