■米国は9年半ぶりに利上げ、実質ゼロ金利政策を解除
一方、欧州が積極的な金融緩和に動いたのに対して、米国は利上げを模索する動きを続け、2015年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、2006年6月以来、9年半ぶりに利上げを実施。7年間続いた実質ゼロ金利政策に終止符を打った。
今回、FRBは米国の政策金利となっているFF金利(※)を0.25%引き上げ、誘導目標レンジを0.25-0.50%とした。
(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)
(詳しくはこちら → 経済指標/金利: 各国政策金利の推移)
その一方、声明文やイエレン議長の会見では、今後の利上げのペースについて、緩やかなものになることが示されたことで、市場はハト派的な利上げと受け取った面もあったようだ…。
【参考記事】
●米国が約9年半ぶりに利上げを実施!でも、なぜ米ドルは急騰しなかったのか?(12月17日、西原宏一)
●ドル/円120円~121円台はなぜ買いなの?安易な新興国通貨への投資は止めよう!(12月17日、今井雅人)
■米利上げ時期はズルズルと後ろ倒しになっていった…
こうして、ついに利上げに踏み切ったFRBだが、ここまでの過程を少し振り返ってみると、イエレン議長は、2014年3月のFOMCにて、2014年中にQE3を終了させ、その6カ月後に利上げ開始の可能性を示していた。このことから、市場関係者の間では、2015年半ばでの利上げ観測が高まっていた。
ところが、2015年に入ってから、イエレン議長のタカ派発言はトーンダウン…。市場では、米利上げは6月との見方が9月に…というように、ズルズルと利上げ見通しが後ろ倒しされていくこととなった。
【参考記事】
●イエレン議長の会見は想定以上にハト派!されど6月か9月の米利上げは既定路線!(3月19日、西原宏一)
このように米国の利上げ時期がずれ込んでしまった背景には、2015年1-3月期の米GDPが弱い数字になるなど、米国経済の先行きに懸念が感じられる面があったこと、また、年央にかけては、上海株の暴落で、中国経済に対する不安が増大し、その影響が世界的に拡大するのではないかとの見方が広まったことなどがあった。
あとで詳しく触れるが、特に、8月に起こった「チャイナショック」は、世界同時株安を引き起こし、米国の利上げ観測を大きく後退させた。
【参考記事】
・中国ショックはまだ序の口で来年が本番!?米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も!(8月28日、陳満咲杜)
ところが、転換点となった感があったのが11月6日(金)に発表された10月米雇用統計。このとき、非農業部門雇用者数がプラス27.1万人という、ものすごく良い数字となり、一気に利上げムードが高まっていった。
それ以降、イエレン議長が12月の利上げを示唆したり、さらにFRB要人からもタカ派的な発言が次々飛び出すこととなっていき、ついにFRBは12月に利上げに踏み切ったというわけだった。
■米利上げでも米ドル/円はレンジ相場を継続
こうした米利上げに向けた動きの中で、米ドル/円の推移を見てみると、6月にかけて、一時、125.87円まで上昇し、これが2015年の最高値となった(本記事公開後、年末まではあと2週間ほどあり、厳密には最高値は確定していないが)。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
この背景については、米国の利上げ方向への期待が根強くあったことを基本に、日本の公的機関が「円売り・株買い」をしているとウワサされていたこと、6月5日(金)に発表された5月分の米雇用統計が好調だったことなどが後押ししていたと推察できる。
【参考記事】
●「子くじら」の出現で、米ドル/円は122.50円への上昇濃厚! 上抜ければ125円も視野に(5月21日、西原宏一)
●125円に急接近のドル/円は128円も視野に! なぜ、ドル高・円安は突然加速したのか?(5月28日、西原宏一)
●本音ポロリ!? 黒田総裁発言の真意とは? 一時的な影響で再びドル高・円安に戻るか(6月11日、今井雅人)
その後、「チャイナショック」により、リスクオフ相場となったことで、円高主導で116円台前半まで急落した米ドル/円だったが、その後は反発。しかし、FRBの利上げなどもあったものの影響は限定的で、結局はレンジ相場を続けることとなり、米利上げ後も6月につけた125.87円の高値は上抜けていない。
【参考記事】
●チャイナショックで狂ったFRBのシナリオ、雇用統計強くても米ドル高は続かない!?(9月4日、陳満咲杜)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
■2015年のオセアニア・新興国も金融緩和方向
ここで欧州と米国以外の金融政策についてもちょっと振り返っておくと、2015年に金融緩和を進めたのはECBだけではなかった。以下の表は、主要各国の政策金利の推移を示したものだ。
こちらを見ていただくとわかるように、豪州やニュージーランドといったオセアニアの国々をはじめ、インドやトルコ、さらに中国まで、2015年は多くの国で金融緩和を進めていた。
【参考記事】
●金融緩和競争を米国が静観する理由は? ドル/円は底固めから122円へ向け上昇か(2月5日、西原宏一)
一方、2015年終盤まで利上げ観測が高まったものの、その後、失速したのが英国だった。
米国の次に利上げされる国として有力視されてきた英国だが、11月5日(木)にBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])から公表された四半期インフレレポートがかなりハト派的な内容だったことで、結局、利上げの可能性が大きく後退することとなった。
【参考記事】
●世界的な緩和合戦、利下げ合戦が復活!? 買える通貨は米ドルと英ポンドぐらいか…(11月3日、西原宏一&松崎美子)
●ドラギ講演は追加緩和の核心に迫るか?今週の大穴はハト派講演のある英ポンド!(11月10日、西原宏一&松崎美子)
次に、ここからは2015年の金融市場を襲った2つの「ショック」について…
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