■仏大統領選を控えているのに市場の反応が薄いのはなぜ?
地政学リスクにトランプ米大統領の米ドル高牽制発言が米ドルの圧迫材料として引き続き意識され、ドルインデックスは再度99半ばまで続落している。

(出所:Bloomberg)
フランス大統領選を控えているにもかかわらず、ユーロはやや強含みの展開を見せ、米ドル全体の軟調が一段と目立つ。
もっとも、混迷を深めているフランス大統領選の行方は、油断できない。ユーロがどう反応してくるかは選挙結果次第だが、肝心の世論調査や事前予測を、もはや信じるべきではないというセンチメントがマーケットを支配し、ユーロの行方が一段と不透明になったと思う。
【参考記事】
●極右と極左が人気!? 恐怖指数は急上昇! 混沌の仏大統領選とユーロ相場を徹底解説(松崎美子)
●波乱含みになってきたフランス大統領選! 結果次第でEUの存続も危うくなるかも!?
なにしろ、昨年(2016年)の二大イベント、すなわち、英EU(欧州連合)離脱にしても、米大統領選にしても、事前の世論調査や選挙情勢に関する統計あるいは予測が、見事と言っていいほど外れていた。
ゆえに、足元のフランス大統領選に関する事前調査やアンケートの数字をマーケット全体が冷めた視線で見詰め、あまり反応しなくなっているのが事実であり、また、そのような反応になるのも納得できる。
■為替市場のカギを握るのはルペン候補の支持率!
とはいえ、4月23日(日)には第1回の投票が行われるわけで、来週(4月24日~)からの為替市場はマリーヌ・ルペン候補の支持率に左右される形で波乱になってくる可能性を無視できない。

来週(4月24日~)からは、仏大統領選のルペン候補の支持率が、為替市場を左右するだろう 。(C)Anadolu Agency/Getty Images
米ドルの対極にあるユーロ。その離脱を明確に打ち出したルペン女史の姿勢は、ユーロ崩壊につながりかねないだけに、同氏の支持率の変化にマーケットは神経を尖らせている。
ゴールドマン・サックスの分析によると、ルペン候補の支持率が10%増えるたびに、ユーロ/米ドルは2%下落し、同氏の勝利が確定した場合、ユーロ/米ドルのパリティ(1ユーロ=1米ドル)を覚悟すべきということだ。
■ルペン氏敗北ならユーロ/米ドルは1.13ドルの節目打診!?
反対に、第1回投票でルペン氏が敗北した場合、ユーロ/米ドルは5%上昇することもあり得るため、1.13ドルの節目打診につながるだろうと推測される。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
さらに、穏健派のマクロン氏やフィヨン氏が第2回投票に無事進んだとしても、ユーロ圏分裂の可能性がゼロにはならないので、ユーロの上昇余地は限定されると思われる。
ただし、最悪の場合(ル・ペン氏優勢の場合)、ECB(欧州中央銀行)が選挙の間でも通貨政策を打ち出す可能性があるという。
したがって、来週(4月24日~)から市場の基調を決定する要素は、地政学リスクからフランス大統領選にシフトしていくことだけは確かだ。
■朝鮮有事が“今そこにある危機”にならない理由とは?
もっとも、前回のコラムで指摘させていただいたように、いわゆる朝鮮有事は、“今そこにある危機”にならない可能性が高いから、地政学リスクがもたらすリスクオフの動きがあっても、限定的なものに留まるだろう。
【参考記事】
●トランプ氏の米ドル高牽制発言で、米ドル安終焉!? 米ドル/円は200日線の攻防に注目!(2017年4月14日、陳満咲杜)
北朝鮮がならず者国家であること自体に異議はないが、米国が北朝鮮に安易な軍事行動を取れないことも確かだ。
中、露の利益に絡むだけでなく、核武装している北朝鮮を先制攻撃する場合、その代償を払わなければならないから、同盟国の韓国や日本を含め、米国はその準備と覚悟を完全にはできていないと思う。
一方、いくら狂ったとはいえ、独裁者は最後は自身の安全を第一に考えるから、北朝鮮は度を越した挑発を控え、ある程度の妥協の余地を残しておくことも推測される。
実際、金正恩は外交委員会を復活させたり、先日の軍事パレードにスーツ姿で現れたりするなど、いくつかのメッセージを出していると思われる。朝鮮有事の危機は、煽られているほどは現実味が強くないかもしれない。
だから、これから市場の基調を決定する要素は、
フランス選挙の行方>米国経済政策>地政学リスク
といった順番で考えても問題ないのではないだろうか。
■米経済政策に少しでも具体的な中身があれば米ドル高に
そして、トランプ大統領の米ドル高牽制発言だが、その影響は徐々に消えるだろう。
なにしろ、トランプ氏自身が言ったように、米ドル高をもたらした張本人は氏自身の政策だから、まだ何も実っていない税制改革や財政出動といった経済政策が少しでも具体的な中身を伴って推進されれば、たちまち市場を米ドル高の方向に推し進めるだろう。
米ドル高が嫌いと言いながら、事実上、米ドル高政策を推進するトランプ氏の矛盾は今に始まったことではないから、そのうちマーケットもすっかり慣れてしまうだろう。
■米ドル/円の200日線回復→維持が早期底打ちのカギに
トランプ政権は米国の国内政策推進に挫折したから、地政学問題に先手を打って、米世論の焦点をそらす目的もあったといわれる。
しかし、シリアにしても北朝鮮にしても、すぐ解決できる性質の問題ではないから、これから米国の国内政策で何らかの成果を挙げなければならない。
ヘルスケア問題の先送り(事実上失敗)で失点となった実行力を取り戻すため、トランプ政権は内政において、早期の打開策を探らなければならないだろう。
従来の主張に沿った形なら、政策の推進自体が米ドル高を支援する要素と化し、「トランプ・ラリー」の再来までは望めなくても、米ドルの底割れを回避させる材料としては十分意識される。
だからこそ、米ドル/円はいったん200日移動平均線(200日線)を割り込んでいたものの、足元でまたこれを上回ってきた。

(出所:Bloomberg)
これからのフランス大統領選に絡むリスクオフの圧力(この場合、ユーロ/円の下落がもたらす円高圧力として想定)は無視できないものの、来週(4月24日~)も200日線を維持できるなら、前回のコラムにて指摘した米ドル/円の早期底打ち、といったシナリオがなお残存するだろう。
【参考記事】
●トランプ氏の米ドル高牽制発言で、米ドル安終焉!? 米ドル/円は200日線の攻防に注目!(2017年4月14日、陳満咲杜)
■いち早く変化の兆しを示している英ポンド/円
もちろん、円高圧力がいくぶん減少したとはいえ、足元ではなお円高傾向が続いており、円高のリスクになお警戒しておきたいところである。が、いち早く変化の兆しを示してくれた通貨ペアもあった。それは4月18日(火)から大きく上昇してきた英ポンド/円である。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 4時間足)
英ポンド/円の上昇は、円安ではなく、英ポンド高であり、英ポンド/米ドルの上昇は英早期総選挙が決定したことからもたらされた現状だから、英ポンド/円の上昇も短命に終わってしまうと思われる節もある。
しかし、テクニカルの視点を優先した形で言うなら、英ポンド/円の上昇が一時な値動きではなく、これからも継続されれば、それは円高の一服または終焉を示唆する重要なサインと化す。
このあたりの詳細は、また次回に譲るが、ずっと待っていた英ポンド/円のサインがやっと点灯してくれた、ということだけは記しておきたい。市況はいかに。
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