(「ザイFX!で2017年を振り返ろう!(1)為替相場よ、トランプ・ラリーは何処へ?」からつづく)
■メイ首相、前倒し選挙で手痛い失敗!
続いては、ヨーロッパで起きたイベントや、欧州通貨の動きを中心に振り返っていきましょう。
まずは英国ですが、2016年の英国民投票で決まったEU(欧州連合)からの離脱(Brexit)を巡って右往左往する展開が、ほぼ1年中、続いたといえるような動きでした。
【参考記事】
●ザイFX!で2016年を振り返ろう!(1) 英国がEU離脱! 英ポンドは二度死ぬ!?
メイ英首相は3月に、EUからの離脱を定めたEU基本条約(リスボン条約)第50条を発動して、正式に離脱交渉開始を宣言。その後、2020年に予定されていた下院総選挙を前倒しすると発表し、6月8日(木)に投開票を実施しました。
メイ首相が前倒し選挙に踏み切ったのは、自らの基盤を盤石なものにして、安定した政権運営を進めながら、離脱交渉に臨みたいという思いがあったからです。
しかし、目論見は外れ、与党・保守党は単独過半数を獲得できない手痛い失敗を喫し、メイ首相は閣外協力という形で民主統一党の支持を受けながら、国内政治と離脱交渉に臨まなければならなくなりました。
その結果、保守党の圧勝を見込んで上昇していた英ポンドは急落。
【参考記事】
●圧勝するつもりの選挙で過半数割れ!? 英総選挙で保守党敗北、英ポンドは急落!

(出所:Bloomberg)
与党内からも辞任を求める声が挙がり、メイ首相の著しい求心力の低下が話題になりました。

下院総選挙で過半数の議席を獲得できず窮地に陥ったメイ英首相。与党内からも辞任を求める声が聞かれるように… (C)Matt Cardy/Getty Images News
保守党内部は一枚岩ではなく、メイ首相はレームダック(死に体・役立たず)状態……。EUとの交渉で、なかなか折り合いがつかない状態が続いていました。
ただ、年末には離脱に伴って支払う清算金で、EU側と大筋合意に至っています。今後も個別の通商協議など、まだ超えるべきハードルがいくつも控えていますが、今後の進展に一定の道が開けたような感じとなりました。
英ポンドは、英総選挙の結果が伝わった直後こそ急落しましたが、市場のハードBrexitに対する警戒感は、それほど高くないようです。今年の英ポンド相場には大きく崩れるような動きは見られず、結構、底堅い推移が続きました(※)。
(※本記事公開時点で、まだ2017年は終わっていないため、記事中の通貨ペアの高値・安値を含む2017年の値動きは、12月14日(木)までの値動きを基に執筆。以下同。)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 週足)
■景気は絶好調じゃないけれど、BOEは利上げを敢行。なぜ?
こうした状況の中で、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は11月に、約10年ぶりとなる利上げを敢行しました。

※BOEのデータを基にザイFX!が作成
英国のインフレ(消費者物価指数)が、想定以上に上昇したためです。
BOEのインフレ目標は2%に設定されていて、そこから上下に1%かい離すると、BOE総裁が英財務相宛てに、インフレ目標を達成できなかった理由を説明する書簡を提出しなければいけないしくみになっています。
その英国のインフレ率は、2月に目標とする2%を上回り、9月にはついに3%まで上昇。その後、11月には3.1%まで上振れました。景気自体は絶好調ではないものの、Brexit決定後の英ポンド安と石油価格の値上がりによってインフレ率が上昇したため、BOEは利上げに動かざるを得なかったという理由があったのです。
【参考記事】
●教えて、美子さん! 英ポンドはどう動くの? 1992年の屈辱を避ける利上げやるやる詐欺(11月15日、松崎美子)

※英国家統計局のデータを基にザイFX!が作成
すでに、利上げは市場に織り込まれていたため、英ポンド相場が大きく影響を受けることはありませんでしたが、英国のインフレ率が今後も高い水準を維持するようなら、BOEは追加利上げの決断を迫られることになるかもしれません。
■政治イベント相次いだユーロ圏。口火は仏大統領選
英国に離脱される側のユーロ圏でも、今年は政治イベントがいくつかあり、ECB(欧州中央銀行)の金融政策にも変化がありました。
政治イベントで口火を切ったのは、フランスの大統領選挙でした。
4月23日(日)の第1回投票では、支持率の拮抗する「国民戦線」のルペン氏、「左翼党」のメランション氏、「共和党」のフィヨン氏、「前進!」のマクロン氏の4名が、四つ巴の戦いを繰り広げました。
【参考記事】
●極右と極左が人気!? 恐怖指数は急上昇! 混沌の仏大統領選とユーロ相場を徹底解説(4月19日、松崎美子)
結果、EUからの離脱や移民の制限を公約に掲げた極右のルペン氏と、政治改革を進めてEUとの統合を深化させると訴えたマクロン氏が決選投票に進出。
5月7日(日)の決選投票では、フィヨン氏の支持も取り付けたマクロン氏が勝利し、39歳という若さで第25代フランス大統領に就任することとなりました。
【参考記事】
●仏決選投票はマクロン氏が大差で勝利へ! ECBは年内にテーパリング開始を発表!?(4月25日、松崎美子)
為替市場では、4月の第1回投票でマクロン氏とルペン氏が決選投票に進むことが判明すると、すぐに大統領はマクロン氏に決まり!といったムードが高まり、ユーロは上昇を開始。
実際にマクロン氏が勝利したあとも、ユーロは「セル・ザ・ファクト」で売られることなく、政局への警戒感が後退したことを背景に一段高となりました。
【参考記事】
●窓埋めトレードの絶好のチャンスだった仏大統領選後のユーロ相場でひと儲け!

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
政治リスクが杞憂に終わり、ECBによる超緩和政策の終了時期が早まるかもしれない……と思われたことも、ユーロが上昇する要因でした。
ちなみに、ユーロ/米ドルが今年の安値をつけたのは1月3日(火)。そう、前回の記事の冒頭で触れましたが、米ドル/円が今年の高値をつけたのとまったく同じ日です。
【参考記事】
●ザイFX!で2017年を振り返ろう!(1) 為替相場よ、トランプ・ラリーは何処へ?
ここからも、2017年は年初から米ドル安に傾いたことがわかりますね。
■メルケル政権に暗雲。ドイツで再選挙の可能性!?
そして、9月24日(日)には、ドイツで連邦議会選挙がありました。
メルケル首相率いる「キリスト教民主・社会同盟(CDU)」は第1党の座を維持したものの、議席数が大きく減少。
一方、フランスと同じようにドイツでも極右政党が大躍進し、難民の受け入れに反対する「ドイツのための選択肢」が大きく勢力を伸ばしたことから、4期目を迎えるメルケル首相は、連立政権樹立に向けた取り組みを行わなくてはいけなくなりました。
しかし、約1カ月におよぶ少数野党との連立協議は失敗に終わり、今度は大統領の仲介のもとで、大連立政権の継続に向けた話し合いを始めています。
現在進行中のこの協議がうまくいかなければ、ドイツでは再選挙が実施される可能性も出てきます。
今のところ、ユーロ圏ナンバーワンの経済大国、ドイツの政局不安が、ユーロ相場を大きく揺さぶる展開にはなっていません。ただ、もし再選挙が実施されて、そこでメルケル首相が敗北して退陣…なんて展開になったら、ユーロ相場に激震が走るかもしれません……。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
■スペインで独立運動が過熱。他国への飛び火が心配…
それから、10月にスペインでは、カタルーニャ自治州で独立を問う住民投票が行われ、独立賛成派が圧倒的多数となったことから、独立を認めないスペイン政府と独立を支持する住民との間で衝突が起こる事件もありました。

カタルーニャ州では、これまでも独立の可能性がさんざん話題になってきたが、10月の住民投票では独立賛成票が9割を超え、独立を認めないスペイン政府との間で衝突が相次いだ。写真はカタルーニャの独立を求めて実施されたデモの様子 (C)David Ramos/Getty Images
そもそも、投票率4割、独立賛成票が約9割と、独立反対派はほとんど投票していないような状況だったワケですが、すったもんだの末、カタルーニャ自治州議会は独立宣言を賛成多数で可決。中央政府は州政府幹部を更迭して、カタルーニャ州の直接統治に乗り出すなど、混迷を極めています。
独立の旗振り役となっていたプチデモン前カタルーニャ州首相は、その後、ベルギーに避難(亡命?)。ユーロ圏のあちこちで、独立機運が高まる可能性が、現在も警戒されています。
【参考記事】
●欧州で懸念される「2つのドミノ」に警戒! 美子さんが注目している意外な通貨って…!?(11月23日、松崎美子)
もし、ユーロ圏の各地で独立運動が盛んになってくれば、来年(2018年)のマーケットを賑わすテーマになるかもしれませんね。
■ECBが動いた! それってテーパリングでしょ?
こんな感じで、ユーロ圏では今年(2017年)、政治的なイベントが相次ぎました。そのユーロ圏の金融政策を担当するECBは、何か行動を起こしたのでしょうか?
結論から言えば、主要政策金利は1年を通じてゼロ%で変わらず、金融機関がECBに資金を預ける時に適用される中銀預金金利もマイナス0.40%のままということで、金利面での変更はありませんでした。

※ECBのデータを基にザイFX!が作成
その一方で、ECBは10月の理事会で、量的緩和策の縮小を決定しました。具体的には、現在、月額600億ユーロのペースで実施している資産の買い入れを、来年1月からは月額300億ユーロに減らすというものです。買い入れ期間は2018年9月まで延長されたものの、2015年1月に始まった異例の緩和政策を、徐々に解除していく決断を下したのです。
市場はこれをテーパリング(※)とみなしていますが、このときドラギECB総裁は、必要に応じて購入額を増やしたり、期間を再延長するかもしれないので、「政策の『再調整』であってテーパリングではない」と説明しました。
(※「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
ただ、どちらにしても、ECBの資産購入ペースが来年(2018年)から緩やかになるのは事実です。利上げはまだ先の話になりそうですが、ユーロ圏の金融政策にも変化が出てきたということですね。
■反発したけど勢い鈍いメキシコペソ。「壁」はどうなった?
最後は、新興国通貨の中から、動きのあったものを紹介したいと思います。
【参考記事】
●JPモルガン棚瀬氏に聞く新興国通貨(1) 「景気が良い=通貨上昇」とは限らない!
●JPモルガン棚瀬氏に聞く新興国通貨(2) 2017年のおすすめ新興国通貨はコレだ!
●2017年は新興国投資のチャンス到来!? 金利10%以上の通貨を取引できる会社は?
まず、トランプ大統領が昨年の大統領選の時から、メキシコとの国境に壁を作るとか、NAFTA(北米自由貿易協定)を見直すなんて発言をしていたため、大きく振り回されてきたメキシコペソです。
行き詰まっているNAFTA再交渉の行方は気がかりだし、さらにメキシコは金融引き締め局面が終わり、近い将来、利下げに転じる可能性が高いと言われていますが…。
メキシコペソ/円は米大統領選のあった2016年11月に過去最安値をつけると、2017年に入って上昇トレンドへ転換したような動きとなりましたが、後半はその勢いが失速してしまいました。

(出所:Bloomberg)
米ドル/メキシコペソもメキシコペソ/円と大体同じような動きで、今年の1月に米ドルに対する史上最安値をつけてから反転しましたが、半年ほどでメキシコペソ高は落ち着きました。

(出所:Bloomberg)
そういえば、つい最近、米国とメキシコの国境に建設する「壁」の試作品が発表されましたが、壁の建設予算はまだ確保できていません。どうなるんだろ…。
【参考記事】
●シティグループ証券・高島修さんに聞く(2) 利下げ濃厚なのになぜメキシコペソは買い?
■大暴落もあり、何かと注目されたトルコリラ/円
そして、忘れてはならないのが、高いスワップ金利(スワップポイント)で日本のFXユーザーからの人気も高い、トルコリラ/円です。
【参考記事】
●シティグループ証券・高島修さんに聞く(1) 高金利が魅力のトルコリラ、今は買い時?
トルコリラ/円は、1月にそれまでの史上最安値をつけたものの、週足チャート上で綺麗なダブルボトムを形成して、教科書的には相場が底を打ったような状態になりました。これで、長きにわたる下落局面が終わったと思ったのですが…。
教科書的に想定されたほどの反発は見られず、11月には再び、史上最安値を更新しました。
【参考記事】
●ダブルボトム下抜けで下落トレンド突入!? トルコリラ/円の売りスワップが低い口座は?

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 週足)
この間、10月には日本が祝日だった月曜早朝の時間を襲った大暴落もあり、何かと注目されたのがトルコリラ/円でしたね。
【参考記事】
●衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!?のかも…(1)
●衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!?のかも…(2)
ザイFX!で2017年を振り返ろう【相場編】として、ここまで2回にわたって2017年のマーケット動向を振り返ってきましたが、いかがだったでしょうか。
2015~2016年あたりは、「●●ショック」と呼ばれるような、市場の雰囲気が一瞬でガラリと変わる出来事が何かしらありましたが、2017年は振り返ってみると、主要通貨はそこそこ落ち着いた動きをしていたような印象もありました。
ただ、そんな中でも、北朝鮮の言動に振り回されたり、主要国でポピュリズムが台頭して既存の勢力が脅かされたりと、今後も気の抜けそうにないテーマが出現しました。
また、先進国の一部では、金融政策にも変化が見られるようになりました。これもまた、2018年の主要テーマの1つになりそうです。
次回からは、ザイFX!で2017年を振り返ろう【業界編】をお届けします。お楽しみに!
(「ザイFX!で2017年を振り返ろう!(3) トルコリラ/円スペック競争が激アツ!」へつづく)
(ザイFX!編集部・堀之内智)
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