2016年も残すところ、あとわずか。年末恒例となった、ザイFX!ならではの視点から振り返る2016年ということで、まず最初は【相場編】をお届け。数回に分けて、2016年のマーケットを振り返りたい。
■2016年は「サプライズ」の1年だった
2016年の米ドル/円相場を振り返ると、ものすごく上下に動いたイメージを持っている人もいるのでは?
それもそのはず、2016年年初に121円台後半まで上昇した米ドル/円は、2016年6月24日(金)に99円近辺まで反落。この時点でザックリ22円以上も下落したのだ。
ちなみに、昨年(2015年)1年間の米ドル/円の変動幅が10円程度だったことを考えると、わずか半年でその倍以上動いたことになる。
さらに、米ドル/円は年後半にかけて今度は上昇基調を強めると、およそ1カ月で10円以上も急騰するという、ちょっと想像できないような動きとなったのだ。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
では、これだけ相場を動かした背景にはいったい何があったのだろうか? これには「3つのサプライズ」が絡んでくる。ここからは、そうした観点で2016年の相場を振り返りたい。
■EU残留に英国国民は「ノー」! Brexitが決定!
1つ目は、英国国民投票での「Brexit(英国のEU離脱)」決定。
6月23日(木)に実施された英国国民投票。EU(欧州連合)残留か離脱かを問うこの投票に英国国民は「Brexit」という判断を下した。
【参考記事】
●緊急特集:EU離脱・英国国民投票まとめ。まさかのEU離脱で世界に激震

そもそも、今回の英国国民投票が市場の注目を集めたのは、投票日の1カ月ほど前、世論調査でEU離脱派が残留派を上回ったことがきっかけだった。
とはいっても、そのままEU離脱で決定という感じではなく、その後、EU離脱派が優勢になったり、残留派が優勢になったりと大変な接戦となっていった。
こうした流れを受け、FX各社では緊急セミナーが開催されたほか、特別レポートが発行されるなど、かなりの盛り上がりを見せた。一種のお祭り状態となっていったのだった。
【参考記事】
●朝まで生ライブってFX界の田原総一朗か!? 6月24日午前0時から朝までずっと生放送!
●英国国民投票前後でFXセミナー祭り!? 投票真っ最中のロンドンから生情報も!
●最悪のシナリオを織り込み警戒する動き。 英国国民投票を前にFX会社が注意喚起!
そんな中、EU残留を支持していたジョー・コックス議員が銃撃されたうえに刃物で刺され、殺されるという痛ましい事件まで起きてしまった。その結果、世論調査の結果などは最終的には、残留派がやや優勢という形に…。
【参考記事】
●議員殺人事件の衝撃が流れを変えた!英国民投票で核兵器並みの為替介入も!?
このように、世論調査ではEU離脱派と残留派ががっぷり四つ、残留派がやや優勢程度だったわけだが、市場関係者の予想はEU残留に偏っていた。
たとえば、テレビ東京で放送されている早朝の経済番組「ニュースモーニングサテライト」(通称:モーサテ)では、出演している市場関係者に行ったアンケートで、回答した33人すべて、つまり100%がEU残留を予想するという、かなり衝撃的な結果が出ていたのだ。
【参考記事】
●EU残留予想はモーサテ100%、ザイFX83%。驚きの英国国民投票・緊急アンケート結果
こうした中で迎えた6月23日(木)の英国国民投票。投票締切り直後は調査会社の結果がわずかながらEU残留が優勢だったことから英ポンドも上昇していたが、その後は反落した。

(出所:Bloomberg)
その後、投開票が進み、EU離脱派が勝利する地域が出始め、優勢になり始めると、英ポンドは下落から暴落へ…。
「これからEU残留派が多い地域の開票が進むので逆転できる」なんて楽観的な見方から、ギリギリまでEU残留との声もあったが、結局、Brexitが決定してしまったというわけだ。
【参考記事】
●英国国民投票締切り直後の調査会社発表でEU残留が52%と僅差優勢。ポンド急騰!
●英ポンドは一気に10円急落後は8円反発! サンダーランドでEU離脱支持派が勝利!
●ついに英国のEU離脱が確定的な状況に!! 英ポンド暴落、米ドル/円も100円割れ!
市場参加者の間で、EU残留優勢との見方が多すぎたので、記者もちょっと不気味な感じはしていたのだが、その予感がまさに的中することになってしまった。
■Brexitを受けて英ポンドは大暴落
このBrexitを受けて、英ポンドはものすごい動きに。
【参考記事】
●英国はEU離脱により、国家崩壊の道へ!? ポンド下落はまだ不十分でさらなる暴落も
●英国はEU離脱で国家崩壊へ踏み出した! セリングクライマックはまだこれからか?(6月28日、西原宏一&松崎美子)
英ポンド/円は、6月24日(金)だけで、なんと30円近くも暴落。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 4時間足)
そして、英国の代表的な株価指数FTSE100は暴落し、英国債は買われ、利回りは急低下した。

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)
■そもそもなぜ、英国国民投票は実施されたのか?
Brexitという結果に世界中が驚いた英国の国民投票。でも、そもそも、なぜ、英国は国民投票を実施することになったのだろうか? 少し振り返ってみたい。
これは、2013年1月にキャメロン首相(当時)が宣言したことに始まる。その内容は、2015年1月の議会選挙で与党・保守党が勝利し、政権続投が決まった場合、EU離脱の是非を問う国民投票を実施するというものだった。
そして、2015年1月に実施された議会選挙で保守党は圧勝し、公約どおり国民投票実施という流れになったわけだ。
では、キャメロン首相がこのような公約を掲げた背景には何があったのだろう。
その大きな理由として、英国に流入してくる東欧からの移民増加が挙げられる。
EUに加盟している国は法律により移民を拒否することができない。そして、多くの移民が英国に流入することで仕事を奪われると感じる英国国民が増えていき、「EUに加盟していてもメリットよりデメリットが多いのでは?」という声が英国国民の間で高まっていった。
結果、EU離脱を訴えた野党・UKIP(イギリス独立党)が支持を伸ばしていったのだ。
保守党としては、このUKIPの勢いに歯止めをかける狙いがあったほか、同じ保守党内のEU離脱派を押さえ込みたいとの思惑もあって、EU離脱の是非を問う国民投票実施ということになったようだ。
【参考記事】
●英国がEU離脱なら英ポンドは20%暴落か。7500万円払えば、いち早く結果がわかる!?
実際、英議会選挙は保守党の圧勝だったわけで、キャメロン首相が掲げた国民投票実施の公約は見事にハマったことになる。
でも結局、国民投票ではEU離脱が決定。キャメロン首相は辞任に追い込まれたわけだから、もしEU離脱の可能性はないと踏んで、国民投票実施を選挙対策だけで公約に盛り込んだとしたら、これは完全に裏目に出た格好だ。
■EU離脱派を勝利に導いた2人のキーマン
今回の国民投票でEU離脱派を勝利に導いた人物が2人いる。
そのひとりが、EU離脱を訴え続け、国民投票の際、UKIP党首だったファラージュ氏。

EU離脱を訴え続け、国民投票の際、UKIP党首だったファラージュ氏 (C)Leon Neal/Getty Images
ファラージュ氏は、英国がEUに支払ってきた拠出金を離脱後に国民医療制度の充実に充てる公約を掲げて、EU離脱派を勝利に導いた。
でもこれには後日談がある。ファラージュ氏はEU離脱が決定したあと、「EUへの拠出金を財源にできるかどうかは保障できない」とし、公約を撤回したのだ。
この公約はEU離脱派を勝利させる目玉でもあっただけに、まさかのちゃぶ台返しに批判が強まった。
その後、ファラージュ氏は「目的は達成された」としてUKIP党首を辞任。EU離脱派を勝利に導いた人物でありながら、なんとも決まりの悪い引き際となった。なお現在、ファラージュ氏はUKIP党首代行の立場にある。
そして、もうひとり、今回のEU離脱決定に大きく影響を与えた人物として忘れてならないのが、前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏。

今回のEU離脱決定に大きく影響を与えた人物として忘れてならないのが、前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏 (C)Justin Sullivan/Getty Images
ジョンソン氏は次期首相候補との呼び声も高かった政治家で、保守党に所属しながら、真っ先にEU離脱に賛成を表明したことで、保守党内でEU離脱派のリーダー的存在となっていた。
しかし、英国のEU離脱決定後、ジョンソン氏は保守党の党首選への立候補を目指したが、結局、不出馬を表明。
現在は、キャメロン首相のあとを継いだメイ首相から外務大臣に指名され、その任についているが、次期首相候補筆頭とも言われていただけに、まさかの党首選不出馬を市場はサプライズと受け止めた。
■不可解な「事件」で英ポンド暴落騒ぎが起きていた
Brexitが英ポンドにとって今年(2016年)のハイライトとなる出来事だったのは間違いない。
でも、以下の日足チャートをご覧いただきたい。英ポンドが対米ドルや対円で今年(2016年)の安値をつけたのは、Brexitが起きた6月ではなく、10月に入ってからなのだ…。

(出所:Bloomberg)
2016年10月7日(金)、日本時間8時すぎ、英ポンドが大暴落するというショッキングな「事件」が発生した。
以下のチャートで、その時の英ポンドの暴落っぷりがご覧いただけるだろう。

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)
このようにかなりの勢いで暴落した英ポンドだが、6月のBrexitのように明確な材料があったわけではない。何の前触れもなく、突然、大暴落したのだ。
当時、「ファット・フィンガー」(誤発注)という説や、シティバンクのトレーダーが取引量の薄い時間にパニックになって巨額の売りを仕掛けた説など、さまざまな説が流れていたが、結局、真相は闇の中…。
この「英ポンド暴落事件」については、以下の記事でその経過などを詳しく解説しているので、こちらをぜひご覧いただきたい。
【参考記事】
●ポンド殺人事件の謎を追う! 暴落の真相は? スプレッドが狭いままだったFX会社発見!
ここまで2016年の相場の中でBrexit(英国のEU離脱)を中心に振り返ってきた。
メイ首相は2017年第1四半期中にも、EUからの正式な離脱交渉を開始するため、EU基本条約(リスボン条約)第50条を発動させるという方針を明らかにしている。
ただ、それはスタート地点にすぎない。実際に英国がEUを離脱するまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。そして、EU離脱への動きが進展するにつれて、2017年相場でも英ポンドが大きく動くことになってくるかもしれない。
(「ザイFX!で2016年を振り返ろう!(2)トランプ氏当選でまさかのリスクオン到来!」へつづく)
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