■ドルインデックスは保ち合いを上抜けするだろう
同じ視点で言えば、米ドルの高安も、米ドル/円ではなく、ドルインデックスをもって測れば、より正確に、かつ全体的に状況をつかみやすい。
筆者が6月15日(金)のコラムでも指摘していたように、6月14日(木)のドルインデックスの日足自体が強烈な強気リバーサルのサインを点灯し、これはトランプ氏当選日の2016年11月9日(水)のチャートに匹敵するほどのインパクトがあったから、同日安値を下回らない限り、米ドル高の終焉云々は性急で、また客観性に欠ける。
【参考記事】
●ショック以外の形容詞がないほど強烈なユーロ下落はなぜ起こったのか?(2018年6月15日、陳満咲杜)
(出所:Bloomberg)
その後、米ドル全体はおおよそ保ち合いの市況を形成してきたが、日足ではアセンディング・トライアングル(上昇三角形)のフォーメーションを形成していく可能性が高く、ここから上限のブレイクをめざし、また、果たすだろう。
米ドル全体は底堅く推移し、当然のように、ユーロなど外貨は弱含みで推移、昨日(8月2日)などは英利上げにもかかわらず英ポンドが売られたことが物語っているように、市場センチメントも米ドル高の方に傾いている。
■主要クロス円の多くが7月安値を割り込むかどうかで…
一方、前述のアセンディング・トライアングルの上放れは、目先なお確認されていないから、米ドル高のモメンタムが強まってきたとはいえ、本格的な上昇はむしろこれからであると暗示される。
(出所:Bloomberg)
この意味では、主要クロス円の多くが7月安値を大きく割り込むかどうかが、これからの市況を測るバロメーターとなろう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨vs円 日足)
米ドル全体の上昇が本格化していくのがこれからであれば、外貨安がもたらすクロス円における円高の進行も避けられないだろう。
それを阻止する随一の市況とは、米ドル/円の上昇がドルインデックスと同様であるか、ドルインデックスを凌ぐモメンタムが出現するかだ。
要するに、これからクロス円が下げ一服し、また反騰してくれば、それは外貨安局面の修正ではなく、米ドル/円の上昇加速に頼る側面が大きい。結論から申し上げると、目下、同シナリオの確率が一番大きいと思う。
■日銀政策より米サイドのファンダメンタルズが重要
冒頭に記したように、日銀政策の中身の分析をもって、これから円高か円安かと結論をつける方は多い。しかし、筆者からみれば、日銀政策自体は無視できないが、どうしてもファンダメンタルズで判断しなければならない場合、米サイドのファンメンタルズの方が、より重要で決定的な要素だと思う。マーケットの焦点は日本ではなく、アメリカに集中しているからだ。
トランプ氏が米大統領に選ばれる前から、氏の理念や手法、特に経済面の構想はバカにされ、強く批判されてきた。トランプ氏の当選で世界株暴落と警告したジョージ・ソロス氏は有言実行で大損し、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授をはじめ、高名な学者たちは散々トランプの政策と手腕を酷評し、対中貿易戦争を含め、トランプ氏の「蛮行」が深刻なリセッションをもたらすと警鐘を鳴らしてきた。
しかし、最新の米GDPの数字は実質成長4.1%、名目では5.4%と示されている。これで経済学者らのメンツが丸潰れとなったことは言うまでもないが、一番重要なのは経済学者が口を揃えて「実現不可能」と言っていた4%超えの米経済成長が何を意味するかを今一度しっかり認識しないといけない、ということだ。
■米国株さえ堅調なら本格的なリスクオフはない!
トランプ氏が言う「偉大なアメリカ」の再来かどうかを目先のGDPの数字のみで判断するのは時期尚早かもしれないが、米経済成長が極めて強く、また市場センチメントを超えるスピードで達成されているから、米利上げ継続、また、利上げサイクルがさらに伸びていく確率も極めて高いということが、筆者からみれば最も重要なことだ。
トランプ氏はFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げや米ドル高を牽制していたが、彼の功績かどうかは別にして、足元の米経済成長の強さに照らして考えると、皮肉にもFRBはさらなる利上げを継続しなければならず、米ドル高も継続される公算だ。だから、トランプ氏が何と言おうと関係なく、米利上げは継続される。このことの重要性は、いくら強調しても大袈裟ではないと思う。
肝心なのは、米利上げサイクルにおいて米国株の総崩れはないということにある。そして、米国株さえ堅調に推移すれば、本格的なリスクオフの流れも出てこないということだ。
ゆえに、本格的な円高は当面ないとみるべきで、クロス円における円高の余地は限定されるだろう。
となると、前述のように、仮に米ドル全体が急伸しても、クロス円の下値余地が限られるなら、それはほかでもなく米ドル/円の強い上昇が共にある結果だ。そして、そのようになる可能性は高い。
■日銀政策の影響は「コップの中の嵐」にすぎない
セカンドシナリオは、米ドル/円の上昇モメンタムが抑制されるが、米ドル全体の急伸はみられず、それによってクロス円も保ち合いの状況を保ち、「底割れ」を回避、というところではないだろうか。
今回の日銀の政策を「ステルス利上げ」と主張する方も多いが、それが事実かどうかは別にして、これをもって円高余地云々といった論調にはいずれにしても同意できないところが多い。
なぜなら、「偉大なアメリカ」の利上げがマーケットを左右するもっとも大きな要素である以上、日銀政策に関する解釈はあくまで「コップ中の嵐」にすぎないであろうからだ。森を見るためにも葉の模様は忘れよう。
米ドル/円も日本株もまだまだ上昇余地があり、また、米国株に追随していくという見方は不変。市況はいかに。
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