■米国株の目先の調整も昨年末の急落に比べればかわいい方
もちろん、執筆中の現時点で、米ドル/円はすでに109円の節目割れを果たしたから、本稿が公開された時、下落幅がさらに拡大していても全然サプライズではないが、それでも下値余地限定の考えは変わらない。
なぜなら、ファーウェイ封鎖法案に署名したトランプ氏は、実質的な「対中宣戦」を布告したと言われ、本来はとんでもないリスクオフのきっかけになったはずであるからだ。株も為替も今のような「ゆるい」調整ですまなかったはずだ。
しかし、本格的なリスクオフの値動きは、それほどみられていなかったというのが実状だから、対メキシコの件が今さら本格的なリスクオフにつながるとは考えにくい。
米国株をはじめとして、確かに大きく調整してきたが、昨年(2018年)年末までの急落と比べれば、この程度なら「かわいい」方だ。為替市場においては、やはり2019年年初の急落と比べれば、おわかりいただけるだろう。
(出所:Bloomberg)
ちなみに、年末年始の時点においては、米中対立の度合いは今より小さかったように見え、また、両国の話し合いが継続されていた時期であった。
強調したいのは、相場における値動きは、短期スパンの材料やその影響は誰も事前に予測できないが、中長期スパンにおける値動きは、必ず何らかの「根拠」をもって形成されるということだ。材料が持つ意味合いやその影響は、値動き自体が示唆することに基づいて考えるべきだ。
換言すれば、米中対立の本格化や、目下の対メキシコの軋轢でもたらされたリスクオフの傾向自体を、単独ではなく、2018年年末や2019年年初の状況と見比べて判断すれば、より全体像が捉えられるかもしれない。
こういったロジックに基づき、短期間におけるリスクオフの流れが一段と強まる可能性は無視できないものの、相場の内部構造自体が本格的なリスクオフにほど遠い状況を暗示しているのではないかと読みとれる。
つまり、より長い周期でみれば、2019年年初の安値を起点とした上昇波は、株も為替も「ホンモノ」で、目先の反落は、あくまで途中の「調整」と見なすべきということだ。目先の材料が過ぎれば、むしろ従来の流れ、すなわち上昇波に復帰する公算が大きいかと思う。
■米ドル/円も主要クロス円も「売られすぎ」の状況
トランプ氏のツイートで本日(5月31日)相場の流れが大きく変わったが、米ドル/円にしても、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)にしても、オシレーター系指標の多くは2019年年初の急落時と同様な「オーバーシュート」、すなわち「売られすぎ」の状況を示している。
ゆえに、米ドル/円にしても、主要クロス円にしても、少なくとも目先の下値追いは避けるべきであろう。この見方は、主にRSIを表示したチャートを作ってみたので、ご参照いただければ幸いだが、前回も強調したように、米ドル/円もクロス円も年初来安値更新なし、というメインシナリオを維持しておきたい。
【参考記事】
●なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代は終わったのか? リーマンショックの再来は?(2019年5月24日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
この意味では、特に主要クロス円における目先の深押しは、深ければ深いほど中長期スパンにおいては「拾う好機」になるかもしれない。もちろん、底打ちのサインなしでは性急な行動も避けたいところ。市況はいかに。
(執筆時刻 14:10)
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