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西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

なぜ、米10年債利回りは上昇しないのか?
米金利低下時の、米ドル/円上昇は難しい

2021年07月08日(木)16:00公開 (2021年07月08日(木)16:00更新)
西原宏一

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■米10年債利回りは、節目の1.3000%を割り込む

 みなさん、こんにちは。

 7月に入り、早いもので今年も後半戦に入ります。

 月が変わると相場が大きく変わることも珍しくないため、今週(7月5日~)の為替相場の動向は重要だと思っています。

 そして、今週(7月5日~)のマーケットの注目は、米10年債利回りの急低下。

 先月(6月)のFOMC(米連邦公開市場委員会)でも、パウエル議長が「物価上昇、予想より大きく」とコメント。

 6月の米雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)と失業率は、まちまちの結果でしたが、雇用者数は上振れました。

 加えて、米国の新型コロナウイルスのワクチン接種率も向上しているという環境下、米10年債利回りは軟調に推移。

 ついに節目の1.3000%を割り込み、一時1.2946%まで下落しています。

米長期金利 1時間足
米長期金利 1時間足

(出所:TradingView

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■米10年債利回り急低下がマーケットの焦点に

 なぜ、このように米10年債利回りが急低下しているのかが、マーケットの焦点となっています。

 この米10年債利回りの低下は、米国債のショートポジションが溜まっているとか、いろいろと解説されていましたが、7月に入っても軟調に推移しているため、今週(7月5日~)数名のファンドマネジャーやトレーダーにヒアリングしてみました。

 その内容は以下の2点。

(1)米国のインフレはコントローラブルである

 米国では、オセアニアや欧州と比較しても極めて明確にインフレが進行していますが、それに対して適切に(早期に)FRB(米連邦準備制度理事会)がテーパリング(※)を行い対処するので、長い方の金利、つまり米10年債などの金利は上がらない。

(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

 つまり、FRBがインフレをうまくコントロールしているため、パウエル議長がよくコメントしているように、「インフレは一時的であるため、長い金利は上がらない」ということになります。

(2)金利を潰しにいく

 昨年(2020年)から世界的にカネ余りの状況が続いており、少しでも金利が取れるところがあれば、そこに資金が急速に流れる。それを指して、友人のトレーダーの1人は「金利を潰しにいく」という言い方をしていました。

 つまり、今年(2021年)3月、米10年債利回りが1.77%まで急騰したとき、日本からもかなり、米10年債に資金が流れたといわれています。世界的にカネ余りの状況だと、(リスクのある)株にも資金が流れますが、安全な米国債で1.77%の利回りがあれば、そちらに資金が急激に向かうため、利回りが低下するようです。

 こうしたことを何度も繰り返しながら、当面は、米10年債利回りの軟調な展開は続く。そして、FRBのコントロールがうまくいかなくなってきてから、米10年債利回りは米国のインフレの進行を反映して、最後には急騰することにはなるとの意見。

 ただ、それはまだ時期尚早ではないかとのことでした。

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■米10年債利回りと米ドル/円の相関をチェック

 米10年債利回りの見方はわかれていますが、債券相場にずっと強気であるHSBCのスティーブン・メージャー氏によれば「2021年末および2022年の10年債利回りは1.00%という予測に変わりはない」とのこと。

 私の米国の友人は、米国ではインフレが急激に進行しているが、前述のような観点から米国の長い方が売られるのは、来年(2022年)になるのではないか、というスタンスを崩さず。

 この状況下で、個人的に違和感があるのが米ドル/円相場

 今年(2021年)3月31日(水)に、米ドル/円が110.97円の高値に到達した時点の米10年債利回りは、1.7742%まで急騰していました。

 どちらかといえば、米10年債利回りが急騰したことが米ドル/円の上昇を誘引した展開。

 そして、現在の米10年債利回りは、1.3000%割れまで急低下しています。以下は、米10年債利回りと米ドル/円の相関を示したチャートです。

米10年債利回り&米ドル円 日足
米10年債利回り&米ドル円 日足

(出所:TradingView

 今年(2021年)2月に、米10年債利回りが1.30%レベルで推移してきた時の米ドル/円は106.80円前後でした。本稿執筆時点での米ドル/円は、110.55円レベル。

 先月(6月)まで、筆者は米金利の低下にも関わらず、米ドル/円が堅調なことは、それだけ円が弱いのだと認識していました。

【参考記事】
米ドル/円は米長期金利の低下に追随せず、下値は限定的。上昇トレンドは継続か(6月10日、西原宏一)

■米10年債利回り低下時に、米ドル/円上昇は難しい

 しかし、米10年債利回りが、いよいよ1.3000%を割り込んできた局面で、米ドル/円に対しての認識を変更しています。

 その理由はシンプル。今年(2021年)春、米ドル/円が上昇している局面での米ドル上昇の大きな要因は、米金利の上昇とマーケットは認識していました。

 そして、米金利が軟調に推移している現在の局面では、米ドル/円との相関性が薄れたという説明でもよかったのですが、1.3000%を割り込んで、仮に1.00%に向かったとしても、米ドル/円は上昇を続けられるのかといえば、それは難しいのではないかと想定しています。

米10年債利回り&米ドル円 日足
米10年債利回り&米ドル円 日足

(出所:TradingView

 多くのマーケット参加者の予想と相違し、1.3000%割れまで反落してきた米10年債利回り。米ドル/円は、この米金利の反落を無視して続伸していましたが、米10年債利回りが1.3000%を割り込んでくると、米ドル/円の上値も急速に重くなってきています

 一時1.3000%を割り込んできた米10年債利回りと米ドル/円の行方に注目です。


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