為替市場は円の独歩安、米ドル/円は114円の節目を突破
リスクオンでもリスクオフでも円安であり、円の独歩安――今週(10月11日~)に入ってからの市況は、このような表現の方が適切ではないかと思う。
米ドル/円は114円の節目をクリアし、前回のコラムで指摘した「2021年年内115円の大台」のターゲットは、もはや短期スパンの目標と化した。
【参考記事】
●岸田ショックで日経平均が3100円超暴落してもなぜ米ドル/円は1円26銭しか反落しなかった?(2021年10月8日(金)、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
カナダドル/円やニュージーランドドル/円は2021年年初来高値を更新し、豪ドル/円などはこれから追随してくると推測され、円売りの加速が多くの市場関係者の意表を突く形となったのは間違いない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 週足)
もっとも、筆者が繰り返し指摘してきたように、主要外貨のうち、円は最弱と位置付けられ、円安のトレンドが本流として当然なので、まったくサプライズではない。
円安のスピードの速さは逆張り派が踏み上げられた結果
それにしても、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円安の進行スピードは、「円安原理派」の筆者の想定さえ超えたものとなり、まったく付いて来られなかった市場参加者が多いのではないかと推測される。
さらに、そもそもトレンドの加速、すなわち急伸あるいは急落は、為替市場におけるバランスの調整として、トレンド推進派より逆張り派の存在や行動の結果とみる方がよりわかりやすい。
よって、円売りのトレンドがここまでくると、やはり逆張り派として円買いした筋の損切りも大きな役割を果たしたのではないかと推測される。
要するに、円買いポジションが踏み上げられ、損失確定に伴う買い戻しが一層、円安トレンドを促進、またさらなる円安トレンドの推進につながったわけだ。
円買い筋の多くがここまでの円安トレンドを想定できなかった大きな背景として、やはり、まだレンジ相場が続く、といった「経験側」に基づくところが大きかったのではないかと思う。
特にミセス・ワタナベと呼ばれる日本の個人投資家は、レンジ内の逆張りを得意とし、また、昨年(2020年)年末まではその戦略の方がうまくいったから、今年(2021年)も従来の戦略をもって参戦してきた可能性が大きい。
実際、一部業者さんが公開しているポジションの比率をみると、このような推測が裏付けられており、これからも新規円買いの参入があると思われる。
要するに、これまでの逆張り、すなわち円買い筋の動機は円安トレンドの進行自体を疑っていたことにあった。しかし、これから円買いで仕掛けてくる筋の多くは、円安トレンド自体よりも、円安のスピードが速すぎて円が売られすぎている、といった考えに基づく行動になりがちだろうと思う。
しかし、その両者は本質的には同じことなので、円買いの仕掛けは報われない可能性が大きいとみる。
換言すれば、円安のトレンドが本物だからこそ、円は売られすぎたように見えるのだ。
逆に言えば、「売られすぎ」でなければ、本格的な円安のトレンドにならず、2、3年前のレンジ相場に逆戻りするリスクがある。今は円の「売られすぎ感」が目立つからこそ、円安は本物で、これからも続くわけだ。
現在の円相場は「戻り待ちに戻りなし」のリスクが高い
すでに2021年年初来高値更新を果たしたカナダドルとニュージーランドドルは商品通貨(コモディティ通貨)と称され、前回のコラムで指摘したように、商品相場の高騰で豪ドルと同様、もっとも弱い円に対して買われる可能性が大きかった。
【参考記事】
●岸田ショックで日経平均が3100円超暴落してもなぜ米ドル/円は1円26銭しか反落しなかった?(2021年10月8日(金)、陳満咲杜)
ゆえに、2021年年初来高値更新は当然の成り行きで、豪ドル/円も追随して高値更新を果たす公算が高い。したがって、まともなトレーダーなら、現時点では戦略的にも戦術的にも、円売りしか考えていないはずだ。
もちろん、このまま一直線で上昇し、途中まったく調整なしとは言っていない。スピード調整が何らかの形で行われることも十分想定される。
しかし、円安は本流であり、また、円が売られすぎという一般人の「勘違い」が生じやすい今だからこそ、調整があっても円は総じて安値圏での保ち合いに留まり、大きな反落にはならないだろう。
円の戻り売りを考えても、少なくとも目下においては、本格的な戻りを期待しない方が現実的だ。戻り待ちに戻りなし、というリスクの方が高い。
大型「トライアングル」型で5年間溜まったマグマは相当なもの。行けるところまで相場についていけ!
ここでまた注意していただきたいのは、そもそも昨年(2020年)年末どころか、今年(2021年)前半まで本格的な円安相場の到来を市場関係者の多くが覚悟していなかったことだ。だから、市場のコンセンサスを超えた円安の値幅や速度がみられると、彼らは多くの理屈をもって円安の「行きすぎ」を解釈してくるとも推測される。
しかし、今の相場は理屈をもって解釈できるものではないから、そういった解釈とは距離を置いた方が良い。
つまるところ、米ドル/円は2015年~昨年(2020年)年末まで5年以上も大型「トライアングル」型調整をしてきたから、昨年(2020年)高値の112.22円のブレイクをもって新たな上昇段階に入ったばかりであり、円安の加速はむしろこれからだ。
(出所:TradingView)
5年間溜まったマグマは相当なものなので、最近2、3年の経験則や感覚にとらわれると火傷しやすい。円安が本流である以上、徹底的にそれに便乗し、行けるところまで相場についていくのがもっとも賢明なスタンスだ。
ちなみに、今年(2021年)の米ドル/円の安値は102.58円、米ドル/円の平均年間値幅は約15円なので、2021年年内に117円の大台乗せがあっても別に「行きすぎ」ではない。
米ドル/円が動く年なら、平均20円ほどの値幅が出るから、2021年年内に120円の打診があっても、別に大きなサプライズではなかろう。
(出所:TradingView)
もちろん、「いくらなんでも年内120円は無理だ」と反論する声も容易に推測される。
筆者としては、単に考え方の1つとして値幅を提示しているだけで、前回のコラムで示したように、当面、米ドル/円のレート予測は115~117円(2020年年末提示したポジティブシナリオのまま)に据え置き、上方修正するまでには至っていない。
【参考記事】
●2021年こそ「新たな円安時代」の幕開けか。米ドル/円をめぐる2つのシナリオとは?(2020年12月25日、陳満咲杜)
とはいえ、120円の年内打診の可能性を否定しているわけでもないから、ご注意を。
修正する必要があるなら、米ドル/円よりクロス円の方だろう。そのあたりの話はまた次回、市況はいかに。
(14:30執筆)
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