中東情勢悪化で、世界最大の産油国でもある米国が強いことを再認識させられた。問題はどれだけ長期化するか
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
MC叶内 西原さん、先週(3月2日~)は中東情勢悪化の報道ばかりでしたね。
トレーダー西原 もともと「地政学ショックは、時間が経つと株価は回復しがち」という経験則があります。そのため、マーケットは早期解決という事態にも備えていました。
ところが、今回は想定以上に長期化する可能性が高まってきたため、マーケットがかなり神経質になり、本稿執筆時点の日経平均は一時4000円超急落しています。日経平均のボラティリティがすさまじいですね。

(出所:TradingView(トレーディングビュー))
それでは叶内さん、まず先週の株の振り返りからお願いします。
MC叶内 はい、月曜(3月9日)早朝から動きが出ていますが、まず先週末までの段階で見ていきます。
米国株は週後半に売りが強まり、主要3指数はそろって下落しました。S&P500は1週間前比2.02%安で、5か月ぶりの大幅な下落。NYダウは約-3.0%と下げが目立ちました。ナスダック総合指数は約-1.2%と続落しています。
中東地政学リスクが高まり、実質的にホルムズ海峡が封鎖される事態となったことで原油価格が急騰。原油WTIは先週35%上昇、1983年に先物統計が始まって以来、最大の週間上昇だそうです。これによってインフレ再燃への警戒が強まりました。
週末には雇用統計が弱く、景気の見方にも黄色信号がともり「スタグフレーション懸念」が市場心理を悪化させました。
オープンAIとオラクルによるデータセンター拡張計画の一部が中止されたことで、AI投資懸念も再び意識されました。
さらに3月6日(金)、米資産運用最大手ブラックロック傘下のプライベートクレジット(ノンバンク融資)ファンドで投資家の解約請求が急増し、ファンド側が解約を制限したことがわかりました。プライベートクレジットへの不安も金融株への売りにつながっています。
一方で「SaaS(※)の死」といわれて売り込まれていたソフトウェア関連などには買いが入りました。
(※SaaS(Software as a Service)とは、クラウド上でソフトウェアやアプリケーションをインターネット経由で提供する企業のこと)
日経平均は前週末比3229円(5.5%)安の5万5620円と、2週ぶりに下落しました。一時は前週末比で5000円以上値下がりする場面も。韓国株やアジア株も一時急落しました。原油調達の多くを中東に頼る日本では、原油価格の高騰、ナフサなどの中間製品の調達難は国内企業業績への影響が気になります。
木曜日(3月5日)は大きく自律反発、金曜日は朝安後切り返すなど、底堅さを評価する声が聞かれていましたが、これも中東情勢、金融環境次第のようです。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 為替市場も中東の地政学リスクの高まりに即座に反応しました。先週の主要通貨の対米ドル騰落率を見てみましょう。

日本円もエネルギー相場に弱いのですが、石油と天然ガスが同時に急騰する局面で、ユーロも上値が重い展開になっています。
注目すべきは、カナダドル以外の主要通貨に対して米ドル高になっていること。これは先月(2月)までの展開とは全く違う動きです。
米国債市場を中心に一時米ドル売りの兆しがあり、FT(フィナンシャル・タイムズ)やゴールドマン・サックスなども頻繁に指摘していた「米ドル離れ」ですが、先週はすっかり忘れられた展開。
今回の中東情勢の悪化は、世界最大の産油国でもある米国が強いということを再認識させられた展開に。
ただ、問題はこの戦争がどの程度長期化するかです。逆にいえば、この戦争が早期に終結すれば、相場は一気に戻ってしまいます。
つまり、相場は戦争の行方に左右されるといった展開であるため、やりにくい。このあたりのことは展望で触れますね。
それでは叶内さん、今週(3月9日~)のイベントと株の注目点をお願いします。
米ドル/円は日銀の介入が入れば米ドル買いの好機に。今週は短期売買に徹したほうがよさそう
MC叶内 今週も引き続き、中東情勢が最大の焦点となるでしょう。この戦闘が泥沼化してしまうのか、原油価格がどこまで上がるのか、いつ収束するのか注目したいです。日本株のボラティリティが高い状況が続くのかも要注意です。
経済指標は、国内では10~12月期GDP(2次速報)が3月10日(火)に公表されます。GDPは1次速報の前期比年率+0.2%から同+1.2%への上方修正が予想されています。設備投資が主因です。
3月9日(月)に発表される1月毎月勤労統計では、実質賃金が13カ月ぶりにプラスになりました。ほか、同日に景気動向指数、3月10日(火)に全世帯家計調査、3月12日(木)に1~3月期法人企業景気予測調査が発表されます。また、3月13日(金)はメジャーSQ(特別清算指数)算出です。
海外では中国で3月9日(月)に2月のCPI(消費者物価指数)、PPI(卸売物価指数)、3月10日(火)に2月貿易収支が発表されます。
米国では3月11日(水)に発表される米国2月CPIが注目されます。市場予想はおおむね前年比約2.4%、コアで約2.4%程度です。原油高の影響が出始めているのかがチェックポイント。中古車は先行指標(マンハイム中古車価格指数)から見てプラス寄与の見込み。コアのなかでウェートの大きい帰属家賃は、先行指標から見て鈍化傾向が続いている見込みです。もしCPIが上振れするとスタグフレーション懸念が強まって、株価下押し要因になるかもしれません。
3月13日(金)発表のPCEデフレータも同様です。アナリストの予想は総合が前月比+0.3%、前年比+2.8%、コアは前月比+0.4%、前年比+3.0%程度です。
同時に発表される1月の個人所得と個人消費支出も注視が必要ですが、1月下旬に東部・南部を襲った寒波の影響で、実質個人消費はふるわなかったかもしれません。
3月13日(金)にはミシガン大学消費者信頼感指数も出てきますが、中東情勢で消費者のマインドなどがどう変化しているのか気になります。前回2月は1年先が+3.4%、10 年先が+3.3%と落ち着いていた家計のインフレ予想が再度高まっていないか、大統領の支持率と相関の高い信頼感指数が一気に急落していないかを見ておきたいです。
そのほか、3月12日(木)に米国1月の貿易収支と住宅着工件数、3月13日(金)にJOLTS(雇用動向調査)が発表される予定です。
為替市場の見通しはいかがですか?
トレーダー西原 現状をまとめると、開戦から1週間余りで原油価格は35%超急騰。ホルムズ海峡では輸送する船舶が事実上立ち往生しており、影響は全通貨市場に波及しています。
ここで通貨の強弱をまとめると、下記のようになります。
●強くなる通貨とその理由
USD(米ドル)…原油が米ドル建て取引、地政学リスク時の安全資産需要、米ドルは今回の原油ショックで為替市場のおもな受益者
CAD(カナダドル)…主要産油国通貨。中東供給途絶でカナダ産原油の代替需要が急増、輸出収入拡大
CHF(スイスフラン)…地政学リスク時の伝統的安全資産。リスク回避フローが集中しやすい
●弱くなる通貨とその理由
JPY(円)…石油をほぼ100%輸入依存。原油高→輸入コスト増→貿易赤字拡大→円安圧力に。日経平均急落も重なり円売りに
EUR(ユーロ)…欧州はエネルギー高騰が続けば、リセッションの瀬戸際に追い込まれるリスク
こうして整理すると投資すべき通貨はシンプルで、米ドル、カナダドル、スイスフランをロング、円やユーロをショートにするということになります。
ただ、相場のかく乱要因となっているのが中央銀行の介入懸念です。
リスクオフ相場であり、もともと強気スタンスのスイスフランをロングにしたいところですが、SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])の総裁、副総裁のいずれも先週前半、スイスフラン売り為替介入を示唆しています。そのため、ユーロ/スイスフランは一気に0.91スイスフラン台前半まで踏み上がりました。
【※関連記事はこちら!】
⇒スイスフラン/円急反落の懸念高まる! イラン紛争で初動は安全通貨として買われたが、SNBのスイスフラン売り介入の可能性がかなり高まり、日銀の円買い介入への懸念も(3月5日、西原宏一)
ただ介入予告とは裏腹に、SNBは本稿執筆時点までは実弾介入を実施しておらず、
週明けには一時0.9000スイスフランを割り込んでいます。
もう1つの要因が、日銀の介入示唆です。マーケットは一気に米ドル高にシフトしているため、米ドル/円のロングが一番理にかなうのですが、こちらも気になるのが日銀の動きです。
中東情勢の悪化から考えれば、米ドル/円を丁寧に押し目買いというのが基本ですが
仮に日銀の介入が入れば一気に値を崩すリスクがあるため、スイングトレードは神経を使うところ。
結果、日銀、SNBのリスクに配慮し、短期売買でストップロスを狭くし、米ドル/円やカナダドル/円のロングを取るのがよさそう。
仮に日銀やSNBの介入が入れば値が飛ぶため、今週は短期売買に徹したほうがいいのかもしれません。
仮に日銀の介入があれば、それは米ドル買いの好機となるため、中期の米ドル買いを進めたいところ。

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株と為替のトレードを楽しんでいきましょう!
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