米ドルの信頼性が低下。トランプ政権がFRBの独立性を揺るがしている
みなさん、こんにちは。
現在の金融市場は2つの重要な政治的混乱、フランスの政権不安と米国のトランプ政権によるFRB(米連邦準備制度理事会)への介入に直面しています。
それでは、ジャクソンホール会議後の今週(8月25日~)、何が起こっているのかを確認してみましょう。
米国では、トランプ政権がFRBのリサ・クック理事を解任しようとする前例のない動きが、中央銀行の独立性に対する重大な脅威となっています。
この動きは単なる人事問題ではなく、1913年のFRB設立以来維持されてきた、政治からの独立性という根本原則を揺るがすものです。
FRBの独立性が損なわれることによる市場への影響は、多岐にわたります。
第一に、金融政策の信頼性と予測可能性が著しく低下します。中央銀行の意思決定が政治的圧力に基づくものと市場が認識すれば、インフレ期待が急上昇し、長期金利の上昇を招く恐れがあります。
過去の事例として、1970年代のニクソン政権時代にFRBへの政治介入が行われた際、その後のインフレ急騰と経済的混乱が記憶に新しいところです。
第二に、国際金融市場における米ドルの基軸通貨としての地位を脅かす可能性があります。政治的影響を受けやすい中央銀行が管理する通貨に対して、国際的信頼は低下し、外国投資家による米国債保有の減少や、米ドル建て資産からの資金流出につながる恐れがあります。
第三に、金融市場のボラティリティを大幅に増加させます。政策金利の決定が経済データではなく政治的考慮に基づくと認識されれば、市場は政治イベントごとに過剰反応するようになり、資産価格の不安定性が高まります。
後述しますが、こうした状況下では、スイスフランのような伝統的安全資産への資金流入が加速する可能性が高く、スイスフラン高要因となることが予想されます。
特に懸念されるのは、トランプ政権が提唱する「米国第一」の経済政策とFRBの政治化が組み合わさることで、グローバルな通貨戦争に発展するリスクです。
政治的に従属したFRBが意図的な通貨安政策を実施すれば、主要国による報復的な通貨切り下げ競争を誘発し、世界経済の不安定化を招く恐れがあります。
FT(フィナンシャルタイムズ)のクリス・ジャイルズ(Chris Giles)氏も下記のように警告しています。
トランプ大統領はこれまでFRBに対しては不愉快な罵倒を繰り返していたが、中銀の独立性に対して全面的な攻撃に乗り出した。米国と世界経済の安定を支える柱が存続できるのか、恐れるに足るあらゆる理由がある。
(出所:FT)
「米国と世界経済の安定を支える柱が存続できるのか、恐れるに足るあらゆる理由がある」とまで言われると、かなり警戒しますよね。
この意味においてはまず、「king of currency(通貨の王様)」である米ドルが、ユーロに対して急落する可能性があると考えますが、今週のユーロ/米ドルは反落しています。
その要因はフランスの政治の混乱です。
ユーロ/米ドルの上値を重くするフランスの政治混乱
フランスでは、バイル首相が9月8日(月)に内閣信任投票を実施すると発表しました。
しかし、野党が信任反対を表明しているため、政府が倒れる公算が高まっています。
これによるフランス経済への影響ですが、フランス国債の金利が上昇し、主要企業の株価が反落しています。
本稿執筆時点で、マーケット参加者はフランス政局の混乱がフランスだけの問題で終わるのか、ユーロ圏全体に波及するのかということをはかりかねています。
ただ、この報道は当然ユーロ/米ドルの上値を重くしています。
その結果、トランプ政権がFRBの独立性を揺るがしていることが、米ドルの弱気材料となりますが、フランスの政局の混乱はユーロ安要因。
どちらにせよ、今週は先が読みづらい不透明な展開となっており、こうした状況では避難通貨に資金が集まりがちになります。
そこで注目したいのが、唯一の避難通貨であるスイスフランです。
スイスフランが突如39%の高関税でも下げず、唯一の避難通貨として再評価される
フランスと米国における政治的混乱の中、じわじわと値をあげている通貨がスイスフランです。
このコラムでは基本ずっと、スイスフランに対して強気なスタンスを維持してきました。
しかし、8月1日(金)、トランプ政権がスイスに突如として39%というとんでもない関税をかけ、最強通貨スイスフランもいったん値を下げると想定しました。下記は8月7日のコラムより抜粋したものです。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は当面145~151円で方向感のないレンジか。最強通貨スイスフランに暗雲。39%関税に加え、医薬品への衝撃的な関税の可能性、SNBによる利下げの公算が高まる(8月7日、西原宏一)
先週金曜日(8月1日)はスイスの建国記念日でした。
スイスはすでに工業製品の関税を廃止し、米国に数十億ドルの投資を約束していたため、米国との関税交渉は友好的なものになると期待されていました。
しかし、建国記念日の祝賀ムードの最中、突如として39%という高率の関税が発表され、スイス国内では責任のなすり合いが激化しています。
この混乱の中、9月のSNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])会合でのマイナス圏内への利下げ予測も台頭し、さすがの最強通貨であるスイスフラン/円も一時181.48円まで値を下げ、調整局面入したように見えました。

(出所:TradingView)
ところが、9月25日(木)のSNB会合での利下げ織り込み度はほとんど上がってこず、金利先物市場での利下げ織り込み度は本稿執筆時点でわずか14.4%と、マイナス圏内への利下げは行われなさそうです。
加えて、前述のように米国とフランスの政治的混乱という環境下では、米ドルもユーロも買えません。
この意味においては、米ドル/円での米ドルショートも候補にあがりますが、政治的混乱を横目に、本稿執筆時点の日経平均は4万2750円と再び史上最高値をうかがう展開であるため、米ドル/円の下落余地も限定的。
その結果、スイスフラン/円が再び184円付近まで踏み上がってきました。
今週に入り、トランプ政権によるFRB独立に対する攻撃とフランス政治の混乱の中、
避難通貨であるスイスフランが再評価されています。
再び上昇トレンドに戻ったスイスフラン/円に注目です。

(出所:TradingView)
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