米国を取り巻く環境は悪化。ゴールドの史上最高値更新で通常、米ドルは下げやすい傾向も、ドルインデックスは下げ渋り
みなさん、こんにちは。
8月は、ジャクソンホール会議でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長による利下げ示唆や、トランプ大統領がクックFRB理事を解任する発言をしたことなどにより、米国を取り巻く環境は悪化しています。
こうした環境下、ゴールド(Gold、金)が続伸しており、連日史上最高値を更新しています。

(出所:TradingView)
通常、米ドルとゴールドは逆相関の関係にあり、ゴールドの続伸に伴って米ドルは値を下げやすい傾向があります。
ただし今回、ゴールドが史上最高値を更新する中でも、米ドルは大きく値を下げていません。
ドルインデックスの週足を見てみると、7月1日(火)に96.377という安値をつけた後、下げ渋っています。

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その背景には、米国の利下げ予測に変化があったのでしょうか?
金利先物市場での9月利下げの織り込み度を確認すると、本稿執筆時点で97.6%と、ほぼ100%利下げを織り込んでいます。
それでは、ゴールドが続伸しているのに、なぜドルインデックスは下げ渋っているのか?
次に、ドルインデックスの構成の中で57.6%を占めるユーロの動向をチェックしてみましょう。
米ドルが重い環境下、欧州通貨は引き続き対米ドルで高い水準を維持
今年(2025年)、ユーロ/米ドルが1.1829ドルという高値に到達したのが7月1日(火)。これはドルインデックスが安値をつけた日と同じです。
しかし、本稿執筆時点でのユーロ/米ドルは1.1660ドルで推移しており、大きく値を下げたわけではありません(米ドル高が進んだわけではない)。

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同じ欧州通貨であるスイスフランも、米ドル/スイスフランが0.7872スイスフランの安値から大きく反発したわけではありません(米ドル高が進んだわけではない)。

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一方、7月1日(火)から米ドルが大きく値を上げた通貨ペアがあります。それは米ドル/円です。
米ドルが重い環境下でも円安は続く。日銀追加利上げ期待の後退、会計の円売り、デジタル赤字などが要因か
米ドル/円の日足を見ると、7月1日(火)の142.68円の安値から一時150.92円まで上昇。欧州通貨と比較すると、日本円は米ドルに対して大きく値を下げて(米ドル高が進んで)います。

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米国を取り巻く環境が悪化し、ゴールドが続伸して、米ドル安が重い状況下でも、なぜ日本円は弱いのでしょうか?
まず、日銀の追加利上げ期待が後退していることが挙げられます。8月の日銀会合(日銀金融政策決定会合)後の総裁発言などから、マーケット関係者の間で、日銀の次の一手に慎重な見方が増えています。
次に、いわゆる「家計の円売り」と称される、国内投資家による円売り需要が依然として強いこと。
トランプ関税の影響もあり、日本以外の国から米国資本への人気は後退しています。これだけ一方的に相互関税をかけられると、米国への投資が減るのは仕方のないところです。
しかし、日本は違います。かつてほどの勢いはないものの、日本の個人投資家による米国資産への投資意欲は衰えず、円売りが続いているようです。
加えて、以前から指摘しているデジタル赤字の存在もあります。
こうした円売りのフローが米ドル/円の下値を支え、ドルインデックスを底堅くしている要因のひとつともいえます。
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ユーロ/円は昨年高値175.43円を明確に上抜けると、大きく値を上げる可能性が高い! スイスフラン/円の急騰に追随
例年、レイバーデー明けの9月相場は流動性が戻り、相場が本格化すると見られています。
今年のレイバーデーは9月1日(月)で、米国市場は休場。そして、レイバーデー明けの9月2日(火)からマーケットが本格化する傾向があります。
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⇒米ドル安は、対ユーロやスイスフランで狙い目! 米利下げ示唆やFRB独立への攻撃は米ドル安要因。自民党総裁選で日本株高なら円売りも。9月2日から市場は本格化の傾向(9月1日、西原宏一&叶内文子)
本稿執筆時点で目立つのが米ドル/円の反発であり、その結果としてユーロ/円やスイスフラン/円が反発しています。
日本円に関しては、今後自民党総裁選が前倒しになる可能性も高く、円高余地はあまり大きくないと見ています。
欧米市場では米ドル/円のショートの人気が高く、以前ご紹介したゴールドマン・サックスに加え、モルガンスタンレーも米ドル/円のショートを推奨しているようです。
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もっとも現状、彼らの思惑どおりに米ドル/円は下落していません。
彼らのストップロスの水準は151〜152円付近なので、まだゲームオーバーというわけではありませんが、中期化するとスワップコストも痛いところです。
短期的な動きは別として、ゴールドが史上最高値を更新している環境下で、対ユーロやスイスフランで米ドル高が進むと想定するのは難しいところです。
一方で、前述のように米ドル/円だけが底堅いとなると、引き続きユーロ/円やスイスフラン/円が上昇すると考えています。
注目はユーロ/円です。昨年高値の175.43円を明確にブレイクすると、大きく値を上げる可能性が高いと見ます。

(出所:TradingView)
同じ欧州通貨であるスイスフラン/円は、すでに昨年(2024年)高値の180.07円を上抜け、一時186円台まで急騰しているため、ユーロ/円も追随すると想定しています。

(出所:TradingView)
史上最高値を更新するゴールドを横目に、ユーロ/円の上昇に注目です。
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