米ドル/円は「日本売り」と「政府による火消し」に振り回された1週間だった
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 それでは叶内さん、さっそく先週(7月6日〜)の株の振り返りからお願いします。
MC叶内 指数はまちまちでした。
日経平均は前週末比1186円(1.7%)安の6万8557円と、2週ぶりに下落しました。週前半は韓国株の動きを横目に見ながら、AI・半導体関連が売られ、日経平均は約1か月ぶりの安値をつけましたが、後半はAI・半導体関連が持ち直しました。ただ、日経平均は6万8700円どころの25日移動平均線を回復できずに終えています。
TOPIXは月曜(7月6日)に最高値を更新したものの、週間では0.70%安と反落しました。
米国市場はS&P500が前週末比1.23%高で続伸。6月2日の最高値(7609.78)まであと0.45%となりました。メタが週間で14.81%高となるなどマグニフィセントセブン(※)のうち5社が上昇しました。
(※マグニフィセントセブンとは、米株式市場を代表するテクノロジー企業であるアルファベット、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト、テスラ、エヌビディアの7社を指す)
エヌビディアなど半導体の一角もしっかりで、ナスダック総合指数も1.74%高で2週連続上昇。7月10日(金)に韓国のSKハイニックスのADRがナスダックに上場、堅調な滑り出しとなりました。半導体関連の一定の安心感になりました。一方、NYダウは0.49%安で5週ぶり小反落です。
中東情勢の不透明感はマーケットの関心の中心ではなさそうですが、引き続き頭を抑えそうです。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 先週の米ドル/円は結局、「日本売り」と「政府による火消し」に振り回された1週間でした。
週末のNY市場は161.68円でクローズ(始値161.26円、高値162.71円 安値161.20円)。
先週のテーマは、日本国債(JGB)市場で利回り急騰が続くなか、グローバルマクロ系ヘッジファンドの間で「日本売り」が注目されていること。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は165円を試し中期は170円に! 日本10年債利回りが急騰、3%の節目に接近。ヘッジファンドは「日本売り」をトレードの軸に。政府・日銀の再介入にも注目!(7月9日、西原宏一)
7月9日(木)の債券市場で日本10年債利回りは一時2.902%まで上昇し、29年ぶりの高水準となりました。
中東情勢の緊迫化による原油高でインフレ懸念が再燃したことに加え、高市政権の積極財政路線への財政悪化懸念も影響しています。
市場関係者の間では、日本10年債利回りの「3%」が1つの節目として意識されています。
ソシエテジェネラルの金利ストラテジスト、スティーブン・スプラット氏は「転換点は10年債利回りが3%をやや超えたあたりにあるとみているが、3%に達した時点で市場は疑問を持ち始めるだろう」と指摘しています。
エイゴン・アセット・マネジメントのスティーブン・ジョーンズ氏も「日本は『カネは永遠にタダ』という前提の上に世界最大の政府債務を築いてきたが、市場は今その前提を急速に覆しつつある。東京は過去の借り換えと将来の資金調達を、一世代ぶりの高い金利で行わなければならない」と警鐘を鳴らしています。
(出所:FT(フィナンシャル・タイムズ))
また、ゴールドマン・サックスは、財政懸念が利払い費を押し上げ、それがさらに財政を圧迫するという「悪循環」に陥るリスクを警告しています。
つまり、グローバルマクロ系ファンドの一部は、この悪循環そのものをトレードの軸に据えているとみられます。すなわち、
(1)日銀の利上げが後手に回る
(2)歳出拡大で国債増発が続く
(3)海外投資家が円ヘッジ付き「国債投資の妙味(※)」の縮小を嫌気して資金を引き揚げる
(※筆者注:円ヘッジ付き国債投資はかつて7%前後の実質リターンがあった。具体的には、日本国債の利回り(たとえば1%)+ヘッジで得られる上乗せ(金利差分、たとえば6%)=合計で7%くらいになっていた)
という三段構えのシナリオです。
海外勢の「日本国債離れ」を示唆する報道も相次いでおり、ファンド勢はこれを「財政ドミナンス」、すなわち日銀が金利を人為的に抑え込み、インフレで債務を目減りさせる戦略の予兆と捉えているとみられます。
しかし、先週金曜(7月10日)に片山財務相が「積極財政の下では巡行的に金利上がることを想定」とコメント。
加えて「金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられるべきだ」ともしており、米ドル円が一時161.20円まで反落。骨太ショック(※)の悪影響を火消ししている展開です。
(※編集部注:「骨太ショック」とは、政府が7月に策定を目指す「骨太の方針2026」原案の一部を、市場が「日銀に対して追加利上げを牽制する明確なシグナルを送った」と解釈し、日本の長期金利が急上昇した現象のこと)
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円の年内170円はあり得る! 165円はバリアが厚く介入警戒ゾーンで攻防に注目。明確に上抜ければ、介入待ちだった事業法人の米ドル買いが一気に噴き出す可能性(7月2日、西原宏一)

(出所:TradingView(トレーディングビュー))
この片山財務相のコメントでどこまで調整があるのか? 展望は後ほど。
それでは叶内さん、今週(7月13日~)のイベントと株の注目点をお願いします。
米ドル高・円安は変わらず。骨太ショックの火消しをしても、インフレは収まるわけではない
MC叶内 いよいよ決算の幕が開きます。日本の3月期企業の決算本格化は今月下旬ですが、米国は7月14日(火)のJPモルガンなど金融がスタートの合図です。
なかでも注目されるのが、7月15日(水)の最先端半導体製造装置(露光装置)トップである蘭ASMLホールディング、7月16日(木)のTSMCの決算内容とその後の反応です。決算発表前の7月13日(月)に発表されたTSMCの6月月次売上高は、前年比67.9%増、前月比6.2%増でした(台風で7月10日から延期)
その他では、7月16日(木)にネットフリックス、GE、ユナイテッドヘルスなども決算発表を行います。
また、経済指標も重要なものがあります。まず物価指標。7月14日(火)に米6月CPI(消費者物価指数)が発表されます。市場予想は、総合が前年比+3.8%、コアCPIは+2.8%と鈍化を見込んでいます。2年前の2024年7月11日(木)、米6月CPIが市場予想を下回ったタイミングで、政府・日銀による為替介入が行われ、円を急騰させたこともありました。
翌7月15日(水)には米6月PPI(卸売物価指数)もあります。原油価格が一服した影響がどの程度出るでしょうか。
ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が7月14日(火)に下院金融サービス委員会、7月15日(水)に上院銀行住宅都市委員会で証言を行う予定です。ほかの高官発言も多いです。
7月16日(木)に米6月小売売上高が発表されます。市場予想は前月比0.3%の増で5月の+0.9% からは伸びが鈍化するとみられています。米国消費の底堅さを確認する指標です。
その他、米国では7月15日(水)に米7月ニューヨーク連銀製造業景気指数、ベージュブック、7月16日(木)に米7月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数、7月17日(金)に米7月ミシガン大学消費者マインド指数、6月鉱工業生産が発表されます。
中国では7月15日(水)に4~6月GDP、6月小売売上、工業生産などがまとめて発表されます。国内では7月14日(火)に20年債入札、7月15日(水)に5月機械受注が発表されます。
為替市場の見通しはいかがですか?
トレーダー西原 片山さつき財務相は先週金曜、国内の年金基金に対し、資産をより国内市場にシフトするよう呼びかける発言をしました。
このことを受け、日本株は一時約2%急伸、米ドル/円も約1円程度円高にふれました。
しかし、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、政府がすすめたからといって資産配分を円にシフトすることはできません。彼らは米国を中心とする海外のほうが魅力的だとして資産を配分しているはず。
政府の圧力により、いきなり日本市場へとリスク配分を増やすようなことは考えにくいというか、実質できません。
もう1つ、マーケットで話題になっているのが「骨太ショックが起きたことで政府が動揺」したこと。
政府が7月に策定を目指す「骨太の方針2026」の原案に、「『安定的な物価上昇』の実現に資する」との文言を追加し、市場に広がった「利上げけん制」のイメージを緩和しようとしています。
日本10年債利回りが危険水域とみなされている3.00%に限りなく近づいたため、仕方がないともいえるのですが、「原案発表から数日で慌てて修正」という前代未聞の行動が批判される事態に。つまり、市場では「即修正するくらいなら最初から入れるべきだったのでは。政府に信念が感じられない」との見方も出ているということです。
結果、文言を変えれば骨太ショックは沈静化するかもしれませんが、インフレが収まるわけでもないため、米ドル高・円安は変わらないと見ています。

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株と為替のトレードを楽しんでいきましょう!
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