高市政権の「骨太の方針」が示すインフレ志向
「骨太の方針」が正式に閣議決定されました。
原案発表直後から円安・長期金利急騰が進み、「骨太ショック」と言われました。高市政権からの圧力に日銀が制約を受け、必要な引き締め政策を行うことができないだろうと見られたからだ。
高市首相は「閣議決定もしていない原案がショックの原因だと思っていない」と否定しましたが、少しは対応しようと思ったのでしょう、日銀法第3条を注釈に入れ、本文を少し修正しました。しかし、それでも円安は続いている。
なぜ、市場は「骨太の方針」の修正を評価しなかったのか。
それは「骨太の方針」全体が示す、拭いきれないインフレ志向が明らかだからだ。高市内閣による「インフレ宣言」とも言える内容だ。
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文言修正はなぜ無視されたか
「骨太の方針」では、2ページ目の文章が問題になりました。
「強い経済」の実現に向けては、「安定的な物価上昇」の実現に資する適切な金融政策運営が行われることが非常に重要である。政府は、引き続き、日本銀行と緊密に連携し、デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく。
青字の部分が原案から加えられた部分だが、なぜ加える必要があったのか、よくわからない文章だ。普通「物価安定」と書くところであり、実際、その文章の下の部分では「物価安定」を使っている。敢えて「安定的な物価上昇」という言葉を入れたのは、物価「上昇」にこだわりがあるからだろう。
そして日銀法第3条、日銀の自主性に関する条項も加えられたが、それは本文の修正ではなく、脚注に付け加えられただけだ。脚注では弱いと市場は見たのだろう。
しかし、この日銀法第3条は通常日銀の独立性を示す文章とされているが、「独立」ではなく「自主性」という言葉が使われていること自体、中央銀行の独立は日本では真の意味で実現していない証左ともいえる。
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なぜ名目成長率が目標なのか
「骨太の方針」では、名目成長3%以上、実質成長1%以上、2040年名目GDP1100兆円を掲げます。しかし、なぜ名目成長率が目標なのか。名目成長率がいくら高くても、実質成長率がゼロやマイナスであれば、まったく意味はありません。実際、日本以外に名目GDPを目標に掲げる国は調べたところありません。
実質成長1%以上との目標も掲げますが、日本の潜在成長率は、内閣府も日銀も0%台半ばと推計しています。実質成長率と潜在成長率は中長期的にはほぼ収斂すると想定され、「骨太の方針」が掲げる1%以上という実質成長率の目標は実現可能性に疑問符がつきます。
高市政権では「日本成長戦略の下での中長期的な経済・財政の姿に関する試算」として、成長戦略実現で、潜在成長率が上昇すると試算します。
(1)成長戦略実現ケース①では潜在成長率が5年程度で1.6%、その後の5年で1.8%まで上昇と高い目標を掲げます。(2)成長戦略実現ケース②でも、潜在成長率が5年で1.5%、その後の5年で1.4%程度と試算しますが、果たして実現可能なのでしょうか。

(出所:日本成長戦略の下での中長期的な 経済・財政の姿に関する試算)
過去の実質成長率を見ても、過去30年で平均0.7%程度、2020年以降は0.5%前後です。過去の政権が成長戦略をサボっていたから成長が低かった、高市政権は違うと言いたいかもしれませんが、過去30年実現しなかったことが、人口減少が加速する今後実現するとは、にわかには信じ難い。それでも、高成長を目指して財政支出を増やすのでしょう。
高市政権ではプライマリーバランス管理をやめ、ドーマー条件、すなわち、名目成長率が国債金利を上回っていれば政府債務残高の対GDP比率が悪化せず、財政は持続可能という考え方です。よって、名目成長率は高くなければならない。
名目成長率3%以上としますが、2040年度の名目GDP目標が1100兆円、現時点の名目GDPが669兆円なので、年間約3.4%の名目成長率が目標となります。実質成長率は現実的には今後も0.5%程度なので、政府が(暗に)目標とするインフレ率は2.9%と言って良いでしょう。
名目成長率が低下すると、政府債務の対GDP比率が悪化します。高市政権は、名目成長率を高く維持しようとするでしょう。JGB(日本国債)金利も同時に抑えなければならないのですが、まずはインフレ率2.9%が隠れた政府のインフレ目標です。
インフレ率が2.9%となると、米国や多くの国よりも日本のインフレ率は高くなるということになります。かつてはいくら金融緩和してもインフレ率を上昇させることができませんでしたが、2022年以降の経験から、円安にすればインフレ率を高くすることができるとわかりました。インフレ率を低下させない「安定した物価上昇」を実現するためにも、円安は実は必要なのです。
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1ドル=200円を超えることも想定すべき
ウォーシュ新FRB議長の下で米国が2%のインフレ目標を実現すると仮定、日本が隠れインフレ目標2.9%を実現するならば、インフレ率の差だけを考えると15年後の米ドル/円レートは今より14.3%円安となり、現在の為替レートを163円とすれば、2040年は186.44円と予測されます。

(※筆者提供)
高市首相いわく「為替相場は多様な要因を背景に市場において決まる」ということなので、この政府の隠れたインフレ目標だけで決まるわけではないですが、財政を拡大しても債務比率を安定化させるには、ドーマー条件達成を実現せねばならず、そのためには高い名目成長率、つまり、高い実質成長率が期待できない日本においては、高いインフレ率を実現しなければならないということになります。
それが政権の意図だとマーケットが判断すれば、米ドル/円は186.44円にとどまらず、もっともっと円安が進むでしょう。
少なくとも、円高は難しい。1ドル=200円を超えることも考えていた方が良いでしょう。

(出所:TradingView)
ドーマー条件を考えると、高い名目成長率と同時にJGB金利も抑えなければなりません。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)等が今後JGBを購入拡大に向かうのかもしれません。しかし、政府が目指すインフレ率が2.9%ならば、JGBが3%を超えて金利が上昇しても不思議ではないでしょう。

(出所:TradingView)
仮に高い名目成長が実現できたとしても、JGB金利がそれを上回ったら債務は拡大することになり、政権はそれを抑えにかかるでしょう。
最悪なのは、日銀がJGB購入に向かうことです。金利を抑えるために政権は要請する可能性があると思いますが、そうなると、円安は歯止めがかからないことになります。高市政権下の円相場はかなり不安定化しそうです。
高市政権の「骨太の方針」はインフレ・円安宣言のようなもの。財務省の為替介入がストップしているのも、理解できる気がします。
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