インフレに強い姿勢を示したケビン・ウォーシュ新FRB議長
ケビン・ウォーシュ新FRB議長が鮮烈なFOMC(米連邦公開市場委員会)デビューしました。
ウォーシュ氏は、金融緩和を切望するトランプ大統領に指名されました。その経緯からして、きっと金融緩和派だろうと思い込んでいました。
「利下げでトランプ大統領と裏約束がある」等々の市場のウワサにも、「さもありなん」と思っていました。
しかし、会見の冒頭からいきなりウォーシュ氏は「インフレ率が、FRBが長年掲げてきた2%のインフレ目標を大きく上回り、それが5年以上も続いていることは認識しています。 物価の高止まりは米国国民にとって重荷となっています」と、インフレ目標を達成していないFRB(米連邦準備制度理事会)批判から始まりした。
トランプ大統領の緩和圧力に抵抗してきたパウエル前FRB議長を、よくやったと褒め称えるのではなく、インフレに対して弱腰だったと批判しているわけです。
私は何がなんだかわからなくなりました。「かなりインフレタカ派だ」、そう思わざるを得ませんでした。
声明文も簡潔で、フォワードガイダンスはすっぱりと切り落とされ、最後に短い一文、“This Committee will Deliver Price Stability” (委員会は物価安定を実現する)とだけ書いてありました。これはインパクトがあります。
5年間実現しなかった2%の物価目標を実現すると言い切りました。ダブルマンデートのもう片方、雇用の方は心配ないと言っています。そうであれば、2%実現に何でもやってくるのではないか、そう思わせます。
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FRB全体もタカ派化が進行している
タカ派だったウォーシュ議長に驚かされましたが、それ以上に、FRB全体がタカ派化していることにも驚かされました。
ウォーシュ議長はSEP(Summary of Economic Projections 経済見通しの概要)、その中でも今では多くの人に親しまれているドットプロット(ドットチャート)には批判的でしたが、今回は委員の方々に提出を呼びかけたようでした。ただ、自身はドットチャートを提出していません。

(※筆者提供)
2026年3月には、1回の利下げが織り込まれていましたが、2026年6月には1回利上げが織り込まれています。利上げ1回が3人、2回が5人、そして3回利上げを主張する人が1人です。参加18人中9人が利上げ主張で明快です。PCE(個人消費支出)インフレ率予想も2.7%が3.6%となっています。
ただし、現時点では米国とイランは和平合意を進めることに同意しています。ホルムズ海峡がどうなるのか、いまだにわからないところはありますが、トランプ大統領の思惑どおりにいけば、原油価格は低下しインフレ率も劇的に低下するので、引き締め政策を継続する必要はなくなります。
おそらく、年末までに米国の政策金利は現状の「3.5~3.75%→4.0~4.25%程度」まで引き上げられるのではないでしょうか。そうなると米ドルは上昇します。
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フォワードガイダンス中止の意味することとは?
ウォーシュ議長は、これまで長年親しまれてきた「フォワードガイダンス」を中止しました。
今回、新たに5つのタスクフォースを設定し、その中の「コミュニケーションに関するタスクフォース」によって今後検討されるとしましたが、当面は「フォワードガイダンス」的なものは一切発信しないようです。
その点に関しては、賛否両論あります。バーナンキ氏以降、FRBはコミュニケーションの透明性を重視してきました。その点では大きく後退します。
不透明性の高まりは、市場のボラティリティを高め、投資家がより高い金利を要求することから、企業の借入コストを高めるという批判もあります。
しかしながら、当局者が過去の発言に縛られてしまうと、データが変化してそれに対応しようとすると信頼性の欠如とみなされ撤回しにくくなります。
ウォーシュ議長は上院銀行委員会で「FRBはドットチャートや見通しを公表するが、FRBのメンバーも人間なので、その予測に必要以上に固執してしまう」と発言しています。
実例として、固執しすぎたことで2021~2022年のインフレが急激に進んだ局面では、必要な対策を打てずにインフレを悪化させました。「インフレはトランジトリー(一時的)」というガイダンスに縛られてしまいました。
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ウォーシュ時代が始まり市場変動率も高まる
また、会見の中でこうも言っています。
“Financial market prices are probably the most important source of information to guide central bankers. But when all the financial markets are doing is reflecting back what we've said, then we're taking the most important source of information and we're being blind to it.”
(金融市場の価格は、中央銀行家が政策を決定する上で最も重要な情報源であると言えるでしょう。しかし、金融市場が私たちの発言をただ反映しているだけなら、私たちは最も重要な情報源を無視していることになります。)
世の中にはFed Watcher(フェドウォッチャー)という仕事があります。FRBの考えを解説する仕事ですが、投資家は本来、経済指標を見て、数字から経済状況を判断するべきところを、その数字をFRBがどう判断するか、そればかりを気にして判断するということが常態化しています。
事前に中央銀行の金融政策決定会合でどのような政策が決定されるのか、わかっているケースがあまりにも多くなっています。市場の織り込みと違うことをすると、マーケットは荒れ、株式市場が急落します。そして、その下落の責任を中央銀行に押し付けたりします。しかし、それは正しいことでしょうか。
FRBではなく、日銀の場合、金融政策決定会合の前に事前リークがあり、相場の変動性があらかじめ抑えられていますが、それでは市場の価格発見機能を見逃しているだけです。
今後、マーケットの変動率が高まることが予想されます。それは、我々マクロファンドマネージャーにとってはすばらしい環境です。
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FRBのタカ派化と市場変動率の高まりで米ドルは上昇する
年初来、トランプ政権の関税政策などから、米ドル一極集中投資からの分散をグローバルな投資家は模索してきました。
その結果、ユーロ/米ドルが1.20ドルを突破し上昇しました。しかし、今後は、ウォーシュ新体制を評価し、米ドルへの回帰がありそうです。
ドルインデックスは96-100のレンジを上方ブレイクして底入れしました。ターゲットとしては104~105でしょうか。

(※筆者提供)
ユーロ/米ドルではどうか、ドルインデックスのターゲットが104~105であれば、1.08~1.10ドル前後への動きになりそうです。

(※筆者提供)
日本円は、FRBのタカ派化に抗して円安を防ぐことができるでしょうか? これは、難しそうに見えます。米ドル/円は162円突破は時間の問題となりそうで、ドルインデックス同様、5%程度の米ドル高であれば、170円もありうるかもしれません。

(出所:TradingView)
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