言い換えれば、スワップ金利を目当てにする「放置プレー」が「死語」になりつつある今日では、外貨安による円高圧力があったとしても08年のような激しさにはならないのだ。
このような視点は金融市場全体についても言えるだろう。
株式市場の急落と比べ、米ドル全体の反騰が鈍いように見えるのは、そもそも位置するレベルが違うからだ。
前記のように、米量的緩和策があったからこそ、米ドル安は引き起こされ、欧米株は「バブル」化した。
今回の「米格下げショック」前に、ドイツDAX指数が史上最高レベルに達し、NYダウ指数に至っては史上最高レベルにわずか10%の差まで届いていた。
EUのソブリン危機や米景気回復の遅れを考えると、そもそも欧米株が買われすぎていたことは一目瞭然だ。言い換えれば、買われすぎたものは落ちるのも早い。物理的理屈から言っても十分説明できるわけだ。
■株安、米ドル高、債券高の大きな流れが続く
となると、筆者は今回のショックを経て、大きな流れとして、株安、米ドル高と債券高が続くとみる。
ドルインデックスの本格的な反発には米国の3回目の量的緩和(QE3)観測の払拭が前提条件となるだけに、これには時間がかかりそうだが、仮にQE3があっても、米ドルの大幅安は必ずしも確実なものではないと思う。
その根拠はまた次回にて詳説したい。
(出所:米国FXCM)
■米格下げショックをキッカケに来年さらに大きな危機が来る
筆者の著作『相場の宿命~2012年まで株を買ってはいけない』のタイトルのように、筆者はこれからの株式市場のパフォーマンスに悲観的だ。
それは先進国ではなく、新興国においても同じだ。実際、BRICS諸国のうち、インドが16%安、ブラジルが26%安を超える年初来の下げ幅を示し、中国株の不振とともに世界経済の先行きを予告しているように見える。
そして、2007年のサブプライム問題がのちのリーマンショックを引き起したように、今回の「米格下げショック」が来年もっと大きな危機に繋がる蓋然性が高いとみる。
もっとも恐ろしいシナリオは、来年のショックが中国絡みのものとなることで、これは2008年の危機を上回る破壊力を持ったクラッシュとなるだろう。
今こそ中国株から手を引く時期であろう。
■中国の農民が米国格下げについて熱い議論をしていた!
蛇足となるが、株式の暗い見通しを述べる筆者だが、実は帰国前の上海ホテルで日経225のETFを押し目買いし、昨日も買い増した。
その行動を取った理由は言うまでもなく短期的に株式市場の下げが行き過ぎて、反騰があるとみた上の短期投機だが、見方を固めた根拠はテクニカル的な分析よりもある中国の都市に訪れたことにあった。
その都市は人口100万人前後に過ぎなかった。これぐらいの人口なら、中国ではかなりの田舎と言える。
そして、その都市中心部から離れた郊外で農民たちといっしょに食事する機会があった。
彼らの話は、当然農業やインフレの話題になるのではないかと勝手に思い込んでいたが、まったく外れていた。彼らは米国格下げの影響と米財政赤字の規模について熱い論議を交わしていた。
その時、ふと思い出したのは、あのバフェット氏の言葉だ。氏に言わせると、庶民がマクロ経済に深刻な心配をした時は株の買い時とのことだ。
バフェット氏の教えに忠実な筆者の行動が果たして報われるかどうかはこれからの楽しみだが、中国の農民の名誉のためにも言っておきたいことがある。
中国のテレビは質・量ともに優れた番組を放送しており、地方に行っても、テレビは普通に30以上のチャンネルがあって、国際情勢に関する細かい分析を行うなど、硬派な番組が多いのだ。
そして、こうしたテレビ番組のおかげで、彼ら中国の農民は普通の日本人サラリーマンより持っている情報が多い気がするのである。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)