■2016年前半、世界的な通貨安戦争の敗者は日本…
みなんさん、こんにちは。
為替市場では、よく通貨安戦争という言葉が使われます。
通貨安戦争とは、失業率低下や資源稼働率上昇を図るため、自国通貨安に誘導することを指します。
この通貨安戦争という文脈においての円という通貨は、2012年まで負けっぱなしの状態であったと言えます(通貨安誘導が必ずしも、経済活動における勝者になるというわけではありませんが…)。
そして、2013年からアベノミクスが始まると、黒田日銀の大胆な金融政策もあり、米ドル/円は短期間に75円から125円まであっという間に上昇し、敗者から勝者に変貌。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 月足)
この円安につれて、日経平均も2万円台を回復。

(出所:株マップ.com)
ところが、そのアベノミクスに陰りが出てきたのが2016年初頭。
【参考記事】
●行き詰まったアベノミクス。ヘッド&ショルダー完成のドル/円は105円台へ下落の公算(2月12日、西原宏一)
もともと、グローバルマーケットに強い負荷がかかると、避難通貨としての「円」はあっという間に強くなります。
前回のコラムでもご紹介しましたが、本来はスイスフランという通貨も、円と同様に避難通貨であり、株価急落時にはスイスフランは急騰していました。
【参考記事】
●英中銀が利下げ予告! 英不動産ファンドの解約増でポンド/円は120円への下落過程(7月7日、西原宏一)
旧来、欧州圏でのリスクオフ要因、つまり、ギリシャ危機などの局面では円よりも、欧州での「避難通貨」としてスイスフランが上昇。
ところがSNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])の介入により、スイスフランは避難通貨の座から一歩後退。
結果、アジア圏のみならず、欧州、米国、つまり、世界中のいかなる地域においても、リーマンショックやギリシャ危機といったマーケットに強い負荷がかかると円は急騰します。

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■2016年前半、最大の不透明材料だった「Brexit」
そして今年(2016年)前半、マーケット最大の不透明材料は「Brexit」(英国のEU離脱)。
Brexitへの懸念により、昨年(2015年)末から英ポンド/円は続落を演じていました。
【参考記事】
●2カ月で16円暴落! ポンド/円は想定どおり急落! 株安・円高のカギはNYダウが握る(1月7日、西原宏一)
そして迎えた、6月23日(木)の英国国民投票の結果では、懸念されていたBrexitが現実のものとなります。
【参考記事】
●EU離脱ショックで英ポンド暴落! 米7月利下げ観測も浮上! ドル/円、次は95円へ(6月24日、西原宏一)
呼応して、英ポンド/円は1日で27円も暴落し、128円まで急落しました。
昨年(2015年)末の英ポンド/円は188円でしたから、半年強で約60円もの大暴落。

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この英ポンド/円の暴落が米ドル/円に影響を及ぼさないわけがなく、米ドル/円も一時99円台まで急落しています。

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BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])のカーニー総裁は、日本の通貨安誘導を批判するコメントもしていましたが、イギリスは意図せずに(?)通貨安戦争の勝利者に。
結果として、今年(2016年)前半の日本はあっという間に通貨安戦争の負け組に転落。
多くのメディアでは、アベノミクスの終焉といった報道が目立つようになりました。
そして先週、7月10日(日)の参議院選挙を終えたと同時に、2016年後半に向けた、アベノミクス反撃の兆しが見えてきています。
■ウワサのヘリコプターマネーは実現するのか?
先週末、7月10日(日)の参議院選挙の与党大勝を受け、日本の当局はすばやく動きます。
選挙明けの11日(月)に、FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ前議長が来日し、黒田日銀総裁と会談。そして、バーナンキ氏は7月12日(火)に安倍首相とも会談しています。
【参考記事】
●参院選後のアノマリー崩れ円安・株高に! バーナンキ来日でヘリコプターマネー予測も(7月12日、西原宏一&大橋ひろこ)
会談冒頭で安倍首相は「デフレからの脱出速度を加速したい」とコメント。
このコメントが「ヘリコプターマネー」(※)実施の憶測を呼び、米ドル/円は一気に反転。
(※執筆者&編集部注:「ヘリコプターマネー」とは、中央銀行や政府が大量の貨幣を供給する政策のこと。「ヘリマネ」と略されることもある)
Brexitのあと、一時、99.00円まで急落していた米ドル/円はあっという間に105.00円レベルまで、6円急騰。

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今年(2016年)前半、一方的に敗色濃厚だった米ドル/円相場を底入れさせることに成功しています。
しかし、金融政策を担う中央銀行と財政政策を担う政府が一体となって行なうヘリコプターマネーについては、「法的枠組みと矛盾する」と黒田さんは記者会見で毎回のようにきっぱり否定していますので、実現性は極めて低い状態。
■米ドル/円の本格反転は107円を超えるかがカギに
本稿執筆時点では、安倍政権の大規模経済対策への期待を背景に、米ドル/円は105円台を維持していますが、105円からは売り遅れていた本邦輸出企業の米ドル売りが並んでいます。

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多くの本邦企業の米ドル/円社内レートは110円(前回のコラム参照)。
【参考記事】
●英中銀が利下げ予告! 英不動産ファンドの解約増でポンド/円は120円への下落過程(7月7日、西原宏一)
それが、Brexit後の一時的な混乱の中とはいえ、ひさしぶりに米ドル/円が2桁台まで急落したことから、米ドル/円が反発する局面では彼らからの米ドル売りが米ドル/円の上値を抑える展開。
このような背景から、米ドル/円の戻しは107円までと、限定的となる公算が高いと言えます。
■円高トレンド反転を困難にさせている2つの要因とは?
今回の円高トレンドを反転させるのを困難にさせている要因のひとつが、他国の反応。
昨年(2015年)来から、英ポンドに対し約60円、米ドルに対し20円も円が急騰していることに対し、日本以外はこの円急騰を問題視していないことが、この円高トレンドを反転させることの難しさを物語っています。
米財務長官に至っては「為替介入、避けるべき」と、日本の為替介入を牽制するコメントを繰り返しています。
そして、もうひとつが英ポンドの行方。
既報のように、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は利下げを行うことを示唆しています(前回のコラム参照)。
【参考記事】
●英中銀が利下げ予告! 英不動産ファンドの解約増でポンド/円は120円への下落過程(7月7日、西原宏一)
また、本日(7月14日)のMPC(イングランド銀行金融政策委員会)では、0.25%の利下げがマーケットのコンセンサスとなっています。
【参考記事】
●参院選後のアノマリー崩れ円安・株高に! バーナンキ来日でヘリコプターマネー予測も(7月12日、西原宏一&大橋ひろこ)

英国政策金利は7月14日(木)20時の発表
(詳しくはこちら → 経済指標/金利: 各国政策金利の推移)
そして今年(2016年)中に、もう一段利下げする可能性が高まっており、英ポンドもゼロ金利への道を歩んでいます。
これは、英ポンド/円のさらなる下落を示唆しており、米ドル/円の上値を抑えることになります。
今回の局面では、アベノミクス相場の50%戻しである100.60円近辺でなんとか踏みとどまった米ドル/円相場。
ただ、売り遅れた本邦企業の米ドル売りにより、今回の米ドル/円の戻りが107円レベルで抑えられると仮定するなら、次の下落局面では100円を明確に割り込む可能性が濃厚。
安倍政権の大規模経済対策やヘリコプターマネーの議論まで飛び出し、反撃に出た「日本円」。
この動きが本格化するかどうかは、107円のレジスタンスを上抜けるかどうかにかかっています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
しかし、安倍政権の大規模経済対策への期待や、米国株の上昇を追い風にしても、この107円のレジスタンスを上抜けられなければ、次の米ドル/円の下落は、二桁が明確にイメージされてしまいます。
今年(2016年)に入って「通貨安戦争」で負け組に落ち込んでいた、日本円の反撃に注目です。
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