■海外FXでは一般的な「ゼロカット」、日本で導入の可能性は?
こうした未収金の問題が持ち上がるたびに言われるのが「日本も『ゼロカット』にすればいいじゃん」という議論。
「ゼロカット」とは、海外FX会社の一部が取り入れている制度で、預けた証拠金以上の損失が発生しても追加入金は求めない、「預けた資金以上の損失は発生しない」しくみのこと。
個人投資家にとってはありがたいゼロカットだが、FX会社側のリスクは高まる。2015年のスイスショックでは、ゼロカットを採用していたアルパリUKが経営破綻した。
【参考記事】
●スイスショックでアルパリUKが破綻! スイスフラン大暴騰で損失をカバーできず
●最大損失、約126億円!? 約定状況公開! スイスショック絡みのFX会社情報総まとめ
●ついに破綻も! スイス中銀の爆弾発言は欧米のFX会社にどう影響したのか?
こうしたゼロカットだが、日本では法律で金融商品取引業者等による損失補てんが禁止されている。ゼロカットも実質的な損失補てんとなるため、現行の法制度のもとでの導入は難しいだろう。
ただ、ゼロカットとは異なるが、IG証券には、約定したときに一定の保証料を少し支払えば、顧客があらかじめ入れたストップ注文が絶対すべらないで約定する「ノースリッページ注文」という注文方法はある。
【参考記事】
●ストップ注文が絶対にスベらない新機能! 月曜早朝に為替レートがぶっ飛んでも安心
■レバレッジ10倍になれば、FX取引高の減少は避けられないか
相場急変時の強制ロスカットで発生することのある「不測の損害」や「想定を超える損失」から個人投資家を守ってくれるためのレバレッジ規制だが、その一方でFX取引高への影響はありそうだ。
下の図は店頭FXの取引高推移だ。レバレッジ上限が50倍へと引き下げられたタイミングでは取引高が大きく減少した。その1年後のレバレッジ25倍への引き下げ時には、個人投資家の準備が進んでいたのか、減少幅は小さなものだった。
その後、2012年末からはアベノミクス相場に伴う円安とともに取引高も大きく回復し、レバレッジ50倍規制導入前の水準をおおむね上回っているが、仮に最大レバレッジが10倍となれば、取引高の減少は避けられないのではないだろうか。

(出所:金融先物取引業協会)
取引高の減少でFX会社の収益が悪化すれば、FX会社の買収や合併といった動きも活発になるかもしれないし、各社のキャンペーンやキャッシュバックなどの条件が厳しくなるかも……。
■レバ規制強化は約半数の個人投資家に影響が及ぶかも
レバレッジ規制が強化されれば、一番大きな影響を被るのは、もちろん個人投資家だ。
みんながどのくらいのレバレッジでトレードしているのか、外為どっとコム総研が行なった調査結果が以下のグラフだ。

(出所:外為どっとコム総研「外為白書2015-16」)
これを見ると、約25%の人がレバレッジ15倍以上、約半数の人がレバレッジ10倍以上で取引しているから、規制強化があれば、やっぱり影響は大きそうだ。
【参考記事】
●外為どっとコム総研がトレーダーの実態を独自調査。そのやや意外な調査結果とは?
■10万円じゃ米ドル/円1万通貨の取引もできない!?
具体的な数字で「レバレッジ10倍」を見ると、1ドル=112円で計算すれば、米ドル/円1万ドルの取引に必要な証拠金は、現行の最大レバレッジ25倍なら4万円台。これがレバレッジ10倍なら11万円程度になる。
資金効率の大幅な悪化は避けられず、特に超短期のスキャルピング勢の中には死活問題となる人もいるだろうし、50倍前後のレバレッジで取引できる法人口座の活用を検討する人も増えそうだ。
最近ではFX業界で、DDOS攻撃によりアクセスやログインに障害が発生する事態が相次いでいた。
【参考記事】
●FX会社へのサイバー攻撃が頻発!(1) 「DDOS攻撃」でサービス停止状態に…!?
日頃から2つ以上のFX口座に入金しておけば、障害リスク対策になるのだが、レバレッジ規制の強化で必要証拠金が大きくなれば、複数口座分の資金を用意するのが大変な人もいるだろう。
何かと影響が出てきそうなレバレッジ規制強化の進展、今後も注意深く見守っていく必要がありそうだ。
(ミドルマン・高城泰)
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