■ユーロ/円10連陽、「8月の円高」終焉を裏付け
本日(8月31日)は8月の最終日となるが、前回のコラムにおいて主張していた「『8月の円高』はすでにピークを過ぎた」という見方も、今週(8月27日~)の値動きによって強化されたと思う。
【参考記事】
●米国株の強気相場史上最長がリスクオンを裏付け! 「8月の円高」はもう終わったか(2018年8月24日、陳満咲杜)
既述のように、一番重要なのは米国株の動向だ。米国株が堅調なうちはリスクオンの環境が続き、円の大幅上昇もあり得ない。
「8月の円高」の正体は、アノマリーのほか、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)に主導された側面が大きいが、クロス円下落の本質は外貨安であり、円高ではなかった。
ゆえに、ドルインデックスの反落があれば、クロス円は総じて反騰しやすく、また円高の圧力も弱まってくるだろうという推測であった。
クロス円の代表格であるユーロ/円をみるとわかるように、8月16日(木)から一昨日(8月29日)まで「10連陽」を達成し、前回の推測を証左してくれたと言える。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
肝心なのは、クロス円の下落は、円全面高ではなく、外貨安に起因したということで、これがわかれば、「8月の円高」も8月が過ぎるのとともに去っていくことを理解しやすいかと思う。
■ユーロや英ポンドの切り返しで、クロス円も反騰
一般論として、米ドル/円と米ドル全体(ドルインデックス)の連動性が往々にしてあまり鮮明ではなく、誤解されやすいところも多い。

(出所:Bloomberg)
基本的には、円は「翻弄される通貨」の側面が大きいから、自らのファンダメンタルズではなく、米ドルやユーロといったメイン通貨の状況次第で動く、というポイントを押さえておきたい。
こういった理屈はシンプルだが、結構重要なので、しっかり押さえないと相場の構造をわからなくなるリスクが大きいから、注意が必要だ。
このポイントを押さえれば、8月半ばまで進行した「8月の円高」の正体も一目瞭然だ。
8月15日(水)までドルインデックスが大きく上昇、また高値更新していたから、ドルインデックスと連動性(逆相関)の高いユーロ/米ドルや英ポンド/米ドルなどメイン通貨ペアの下落や安値更新と共に、ユーロ/円や英ポンド/円も大きく下落し、また安値更新していた。

(出所:IG証券)

(出所:IG証券)

(出所:IG証券)

(出所:IG証券)
ユーロ安や英ポンド安に起因する円高であったから、ユーロや英ポンドの切り返しがあれば、クロス円も切り返してくるはずだ、という推測も当然成り立つわけだ。
ドルインデックスの急伸は、本来なら米ドル全体の強さを表すが、前述のように、米ドル/円との連動性は総じて大きくない。そのため、米ドル/円は200日移動平均線(200日線)を割り込まないで一応基調を維持していたものの、8月21日(火)まで反落していた。
クロス円における外貨安に起因した円高の圧力が米ドル/円にも波及、という視点からみることも可能だが、円全面高ではなく、また「主動的」な円高でないことは明らかであった。
換言すれば、リスクオフの環境ではないから、受動的な円高があっても限界あり、早晩円安の方向へ戻ってくることが推測されやすかった。
■トランプ氏の利上げ牽制は押し目の機会を提供した形に
もっとも、米ドル/円の反落自体、トランプ米大統領がFRBの利上げに文句を言ったこともあって、やや深くなっていた。
しかし、それは結果的に出遅れた米ドルのロング筋に押し目のチャンスを提供したことになった。そのロジックを8月21日(火)のレポートにまとめていたので、以下のように開示したい。
(出所:FXブロードネット)
トランプ氏は米利上げをけん制、「トランプショック」の再来が懸念されている。ドル/円も110関門を割り込み、一段と下値トライする勢いを示す。
一方、トランプ米大統領の人柄からみれば、このような発言が出ても「おかしくない」とされ、またマーケットも「慣れている」から、本格的なショックになるとは思わない。何しろ、米政府・中銀が一体で利上げを抑制する仕組みがなく、また米FRBの独立性が損なわれるという思惑もあるから、米FRBは却って利上げ停止を選択肢に入れにくいと思われる。詰まる所、トランプ氏の言動、トルコのエルドアン氏と大した変わらないかもしれないが、米ドルはトルコリラではないから、余計な心配はいらない、ということだ。テクニカルの視点では、幾分弱気のサインが点灯されているものの、本格化される前提条件としてやはり200日線を割り込むかどうかにあるでしょう。もっとも、目先200日線のサポートがなお確認され、また3月安値を起点とした全上昇幅の38.2%押しに合致しているだけに、ここにて支持が確認できれば、ドル/円のブル基調がなお継続されるとみる。弱気サインの本格化(一目均衡の「雲」割れ、GMMAの「キャシャロット」やMACDのゼロライン割れなど)が200日線で測るのが必ずしも最適ではないが、前記の整合性からみれば、目先有効であろう。7月高値からの反落を通常のジグザグ変動と見なした場合も、これから下げ一服の有無が重要なってくる。プライスアクションの視点では、13日安値の割り込みが大きい。この前の「Ioi」のサイン(矢印・注)もあって、同下放れを果たした以上、更なる下値余地を拓いてもおかしくないが、それでも200日線前後にてサポートを確認できれば、逆説的に「トランプショック」が言われるほどではないことを示唆。
(執筆者注:「Ioi」はプライスアクションの用語で、詳細は8月31日発売の筆者の新刊『パターンを覚えるだけで勝率7割超! FXチャートの読み方~欧米投資家が好んで使うプライスアクションの教科書』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))をご参照)
その後、米ドル/円は200日線のサポートを得られ、緩やかであったが反騰してきたので、前述のレポートのロジックを証左していると思う。
■米政府による為替介入!? あれば買いの好機に!?
しかし、昨日(8月30日)、また軟調となった。日経平均の一進一退と共に、リスクオンの環境にまた懐疑的な見方が浮上してきた模様だ。
こういった弱気な見方の浮上は、対米貿易交渉懸念のほか、最近のウォール街のウワサが懸念を深めたことによる。
そのウワサとはなんと、「米政府による市場介入もあり得る」という衝撃的な内容だった。「米ドル高の進行に大きな不満を抱くトランプ氏は、為替市場への介入も辞さないだろう」といったレポートがいくつかの投資銀行でまとめられ、市場関係者の間で閲覧され、また、じわじわ影響力が浸透してきたようだ。
トランプ氏の性格ややり方からすれば、米国の為替市場介入(要するに米ドル売り)自体があり得ないとは言いきれないと思う。
ただし、結論から申し上げると、仮に米政府が米ドル売りを仕掛けてきても、その影響は一時的で、米ドル高トレンド自体は阻止できないと思う。そればかりか、米介入があったからこそ、米ドル高が一段と鮮明になる可能性さえあるとみる。
詳細はまた別の機会に譲るが、米国が為替市場に介入する大義名分がないことを指摘しておきたい。
そもそも米ドル高はトランプ政権の政策がもたらしたもの、強いアメリカを取り戻すと言いながら、弱い米ドルもほしいということ自体が矛盾であり、トランプ氏の「虫のよいお考え」なので、市場には通用しないだろう。
米介入があれば、むしろ逆張り、つまり米ドル買いの好機とみる。もちろん市場がいったん落ち着いてからの話だが…。
最後に、実は筆者自身、米政府の為替介入の構想があっても、すぐに行動できるとはあまり思わない。だから、米ドル/円にしても、日経平均にしても、今でも押し目買いの好機とみている。
市況はいかに。
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