■炭鉱のカナリアの警告どおり米国株暴落
みなさん、こんにちは。
前回のコラムで、多くの金融関係者がラッセル2000の急落に注目していることをご紹介させていただきました。
【参考記事】
●炭鉱のカナリアが米国株急落を再度警告! 2019年の米ドル/円は105円台に下落か(12月20日、西原宏一)
その理由は、ラッセル2000の急落が「炭鉱のカナリア」として、再び米国株の急落を警告しているのではないか?という見方が台頭してきたためです。
以前、公開したコラムでも、このラッセル2000の急落が米国株急落を警告していることを紹介し、実際、10月に米国株が急落したことから、個人的にも通常以上に緊張感をもって、先週(12月17日~)の米国株の動向に留意していました。
【参考記事】
●「炭鉱のカナリア」が米国株急落を警告!? 米ドル/円、クロス円の続落に警戒必要!(10月11日、西原宏一)
結果は、今回もラッセル2000が炭鉱のカナリアとしてワークしており、今週(12月24日~)の米国株は大暴落しました。

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)
■米国株急落のきっかけはパウエル議長のタカ派発言
この「米国株急落」のきっかけとなったのは、もちろん先週(12月17日~)開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)です。
【参考記事】
●炭鉱のカナリアが米国株急落を再度警告! 2019年の米ドル/円は105円台に下落か(12月20日、西原宏一)
●もし、パウエルFRB議長解任なら株高に!? 2019年のテーマは米国経済失速でドル安(12月24日、西原宏一&大橋ひろこ)
前回のコラムでピックアップしたとおり、FOMCでのパウエル議長の声明は、ややタカ派的な内容でした。
【参考記事】
●炭鉱のカナリアが米国株急落を再度警告! 2019年の米ドル/円は105円台に下落か(12月20日、西原宏一)
彼は、トランプ大統領の度重なる圧力に対し、屈することなく利上げを決行。
声明においては、金融政策に政治は「一切影響しない」とし、「我々が正しいと考える行動を止めるものは何もない」と言い放ちました。
マーケットがある程度、利上げを織り込んでいたため、12月の利上げ自体は大きな問題ではありませんが、声明においての彼の極めてタカ派的なスタンスは、マーケットとの対話に失敗した結果となり、米国株の下落を加速させました。

FOMCでの利上げは大きな問題ではなかったが、声明でのパウエル議長のタカ派的なスタンスが、結果として米国株の下落を加速させた (C)Bloomberg/Getty Images News
■トランプ大統領のコメントで米国株の下落幅拡大
加えて、米国株の下落幅を大きくしたのがトランプ大統領のコメント。
トランプ大統領は、「米国経済が抱える唯一の問題はFRBだ。相場感覚がなく、必要不可欠な貿易戦争のほか、米ドル高、国境問題により民主党が政府機関を閉鎖したことすら理解していない」とツイート。
加えて、ムニューシン財務長官が、市場急落を阻止するチーム(プランジ・プロテクション・チーム)の電話会合を招集したことが、逆に相場の重しとなった可能性も。
さらには、つなぎ予算法案が成立せず、一部政府機関の閉鎖が長期化の様相を呈してきたことが、マーケット参加者を神経質にしました。
このように、米国株にとってネガティブな材料が立て続けに飛び出し、特に、12月24日(月)の米国株は急落。
NYダウは2.9%、S&P500は2.7%、ナスダック総合指数は2.2%急落しました。S&P500は、2017年4月以来の安値まで反落し、弱気相場入り寸前です。

(出所:Bloomberg)
原油は、1年半ぶりの42ドル台に急落。

(出所:Bloomberg)
米10年国債利回りは、2.74%近辺に低下。

(出所:Bloomberg)
金価格は、半年ぶりの高値に反発。

(出所:Bloomberg)
■2019年のテーマ「米ドル安・円高」はすでに始まっている
米ドルは、円とスイスフランに対して下落。
米ドル/円は、サポートであった111.80円を割り込むと下落が加速し、一時110.00円まで下落しました。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
米ドル/スイスフランも、0.98フラン台ミドルまで下落。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/スイスフラン 日足)
つまり、「株安・円高・スイスフラン高」となって、急速にリスクオフ相場が展開されたわけです。
この一連の米ドル安は、多くの米系銀行の2019年のテーマである「米ドル安・円高」相場が、年が明ける前から始まっているとも言えます。
ただ、この米国株の急落に動揺しているのは、マーケット関係者だけではなく、トランプ大統領も同じ。
■トランプ大統領の戦略変更により米国株が急反発
トランプ大統領は、就任以降の米国株の急騰を自身の政策の成果として喧伝してきました。
逆の見方をすれば、今回のように米国株が急落すると、大統領再選も危ういものとなります。
前述のように、トランプ大統領は米国株の急落は「FRBの責任」というスタンスをとってきましたが、それだけでは、実際に急落した米国株が元の上昇トレンドに戻るわけではありません。
そこで、トランプ大統領は戦略を変更したようで、一転してパウエル議長への信頼を表明。
「当局の利上げペースは速すぎる。それが私の意見だ。ただ信頼しているのは確かだ。状況は是正されると思う」とコメント。
そして、ムニューシン財務長官についても、「とても才能のある男、とても賢い人物だ」と評します。

写真はムニューシン財務長官。トランプ大統領はムニューシン財務長官について「とても才能のある男、とても賢い人物」と評している (C)Bloomberg/Getty Images
さらに、今回の米国株の暴落について、「最近の米国株の大幅下落は投資家にとって買いの好機」とコメント。加えて、「米国には世界でも有数の優れた企業があり、こうした企業は非常によくやっている、今はとてつもない買いの好機」だと表明。
こうした彼のコメントがマーケットに一定の安心感を与え、株式市場の動揺は沈静化。
ハセットCEA(米大統領経済諮問委員会)委員長が、「パウエル氏の議長ポストは100%安全だ」と述べたことも、マーケットに安心感を与え、12月26日(水)の米国株は一転して急騰しました。
S&P500は5%上昇、ナスダック総合指数は5.8%急騰、NYダウは1000ドル超(5%)もの暴騰を見せました。

(出所:Bloomberg)
原油も、8%急騰。
リスクオンで、米ドル/円も111円台を回復しています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
クリスマス前後に米国株は急落と暴騰を演じ、マーケットのボラティリティは急騰しています。
■リスクオフマーケットの中、日経平均も荒い値動き
ここまで、米国株についてご紹介させていただきましたが、リスクオフマーケットの中、日経平均も荒い値動きが続いています。
日経平均はマーケットの強気なセンチメントの中、10月2日(火)に2万4488円の高値に到達後は、一転して暴落。12月26日(水)には1万8948円の安値に到達しました。
2カ月弱で、5540円もの暴落劇を演じています。

(出所:Bloomberg)
その後、日経平均は米国株同様、12月26日(水)には急反発。本稿執筆時点では、2万円台を回復しています。
米ドル/円も、同様です。
10月4日(木)に114.55円の高値つけた後、急反落。
12月25日(火)には、110.00円の安値に到達したあと(高値から4.55円下落)、日経平均と同様に急反発し、本稿執筆時点では、111.00円レベルで推移しています。
米ドル/円は、米国株や日経平均同様に過去2カ月弱で大きく値を下げ、12月26日(水)はその反動で値を戻しています(ただし、米ドル/円は、米国株や日経平均と比較すると、まだまだボラティリティは戻ってきていませんが…)。
■2019年のドル/円は105円台を想定。リスクオフなら100円も
12月の米国株は、「炭鉱のカナリア」が示唆したとおり暴落を演じましたが、トランプ大統領のコメントがマーケットを沈静化させたことなどから、年末年始には、大きく値を戻す局面があるかもしれません。
日経平均、米ドル/円も同様の値動きを想定しています。
ただ、以前コラムでご紹介させていただいたように、BIS(国際決済銀行)の実効為替レートが示すとおり、米ドルは大幅に買われすぎていること、そして、来年(2019年)はFRB(米連邦準備制度理事会)の政策がハト派に変わり、米ドル金利が低下する可能性が高まっていることから、2019年の米ドル/円は105円に向けて下落すると想定しています。
【参考記事】
●米ドルは早晩ピークアウトする!? 2019年にかけて、米ドル弱気派が急増するワケは?(11月22日、西原宏一)

(出所:Bloomberg)
今月(12月)のように米国株が急落して、リスクオフ相場となれば、米ドル/円の下値はさらに深くなり、100円近くまで下落する局面もあるかもしれません。

(出所:Bloomberg)
2017年、2018年と2年間にわたる「調整相場・膠着相場」を終え、大きな変動が期待できる2019年の米ドル/円相場に注目です。
今回のコラムで「ヘッジファンドの思惑」は、2018年最後の投稿となります。
本年もご愛読ありがとうございました。
2019年もどうぞよろしくお願いします。
良い年をお迎えください。
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