■コロナ禍の深刻化に伴い、各国経済対策も未曾有の規模に
コロナ禍が一段と深刻化してきた。全世界で160万人が感染、米国でも死者が1.6万人を超え、日本では緊急事態宣言が出されたほど情勢が緊迫している。
コロナショックは間違いなく歴史に刻まれる戦後最大の大惨事となりつつあり、IMF(国際通貨基金)が警告したように、1929年~30年代の世界大恐慌以来の最大の景気後退をもたらす可能性は高い。
一方、それと比例するように、世界の中央銀行や政府の危機意識も戦後最大レベルまで膨らんでいる。安倍政権は108兆円規模の緊急経済対策を打ち出し、そのうち真水の部分、すなわち本当の財政支出は38兆円で、2008年、リーマンショック時の2.5倍相当と言われている。
EU(欧州連合)諸国も相次いで戦後最大規模の支援策を打ち出し、あのお堅いドイツでさえ、憲法で定められた債務上限規定をいったん停止して大規模景気刺激策を可決するという、戦後初の試みを果たした。
英国に至ってはBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])が政府の財政支出を支えるため、一時的ではあるが、「禁じ手」とされる国債の直接引き受けを行って、市場関係者を仰天させた。
■米国では平時ならご法度の経済対策も
とはいえ、諸国の前代未聞の対応があっても、米国に比べると、なお見劣りしてしまうかもしれない。FRB(米連邦準備制度理事会)は、ゼロ金利はもちろん、無制限QE(量的緩和策)を打ち出した上、なんと4月9日(木)に、新たに最大2兆3000億ドルの中小企業支援策を決定した。
その中身は州・地方政府の債券や一部のジャンク債の直接購入であるから、これこそ未踏の領域へ踏み込んでおり、モラル崩壊だとか、パンドラの箱を開けた、といった懸念の声が多数上がっている。
確かにそうである。中銀が直接国債を引き受けることにしろ、ジャンク債を直接購入することにしろ、平時ならご法度であることは間違いない。
しかし、このような思い切った政策が打ち出されたこと自体、今は平時ではなく、「戦時」であることを意識させるものだ。これらの政策を懸念する方々はそれがまだわかっていないと思う。
状況は、通常時のルールが適用されなくなるほど悪化しているから、FRBをはじめ、主要中銀は「戦時政策」に踏み切るしかない。コロナウイルスとの戦いは、戦争そのものであることを強く意識しなければならない。
■戦後最大の「危」は戦後最大の「機」でもある
しかし、金融相場の現状は違う様子を見せている。執筆中の現時点で、日経平均先物は1万9500円に近いレベルにあり、NYダウは昨日(4月9日)、一時2万4000ドルにトライした。

(出所:TradingView)

(出所:TradingView)
実際、米三大指数と日経平均はそろって3月安値から20%以上の上昇幅を達成、テクニカル上の視点では、すでに底打ちを果たした可能性もある、と見なされている(ちなみに、高値から20%下落すればベア(下落)トレンドへの転換、逆に安値から20%の上昇があれば、ブル(上昇)トレンドへの転換とみなすルールがテクニカルの世界において存在するが、厳密なものではないことに注意)。
さらに、ドイツ、フランスなどEU諸国やアジアその他の国々の株価を見るとわかるように、世界の株式相場を平均すれば、それはすでに3月安値から離れた位置にある。防疫事情の深刻化と比例した値動きとなっておらず、むしろ「ダイバージェンス」のような傾向を示している。これこそ重要なサインであることは見逃せない。
言ってみれば、現実における最悪な状況はこれからかもしれないが、金融相場における最悪な状況はすでに過ぎたかもしれない。その可能性があるとしたら、他でもない、FRBを始め、世界の中央銀行や政府が打ち出した一連の政策が好感され、また、実際に市場を支えることができていることを示す。
戦後最大の「危」は戦後最大の「機」でもあることを、今こそ認識しなければならないかと思う。
■悲観的な見方の多くは経済政策の効果を過小評価している
今回のコロナショックは、経済や金融の問題ではなかったから、防疫に成功しない限り相場の底入れなしといった考えも根強く、また間違いとはいえない。また、今回の事態が深刻だから、大恐慌以来の景気後退をもたらす可能性が高く、とても相場が底入れするとは言えない、いった見方が多いことも承知している。
しかし、悲観的な見方の多くは、戦後最大規模の景気刺激策の効き目、また、前人未踏の領域に踏み込んだ主要中銀の政策効果を見逃している。その上、相場は常に現実より先に行き、また、将来のことを考え、いろいろな予測や思惑を織り込む習性を持っているものだ。悲観的な見方をする向きはこのことを過小評価しているリスクも大きい。
確かに「防疫の成功なしでは、金融、財政政策が効かない」といったリスクも大きい。反面、人類の歴史をもう1回勉強すればわかるように、ウイルスや病気との戦いで最終的に勝利したのは常に我々人類であることも歴とした事実である。今は中世の時代ではなく、2020年なので、徹底的な封じ込めさえ行われれば、必ず今回の危機を乗り越えられることも確かだ。
中国(よい見本ではないかもしれないが)、韓国など成功した実例に照らして考えると、夏場までにはなんとか危機の収束を図れるのではないかと筆者は思う。
筆者は感染症の専門家ではないから、もちろん、これは「独断と偏見」の見方ではあるが、その現実性は低くないとも思う。
あのSARSの時も、結局、特効薬や退治方法がないまま、自然に収束したから、今回もそのような行方になることが期待できる。
■経済対策が効きすぎて「コロナバブル」の可能性さえある
ウイルスの蔓延はいずれ収まるが、深刻な景気後退の懸念は根強い。だからこそ、各国中銀や政府の景気刺激案は簡単に撤回されない。
前述のように、そもそも経済や金融の問題ではなかったから、戦後どころか、人類史上最大の景気対策案が防疫成功後も残るわけで、原子爆弾級の景気浮揚力をもたらすことは間違いないだろう。
実際、米大統領は2兆ドル規模のインフラ投資構想を打ち出しており、防疫成功後のさらなる景気浮揚策も準備中と伝わっている。今回のコロナショックはこれからの「コロナバブル」につながる可能性さえあるかとみる。

(出所:TradingView)
「コロナバブル」という言葉は一部の方から反感を買うかもしれないが、前述のように、深刻になりすぎた「コロナショック」を退治する戦後最大規模の対策が効きすぎて、一転してバブルをもたらす可能性があるということのたとえであり、可能性は十分あるかと思う。
このあたりの話はまた次回にでも展開したいが、目先、株式市場の切り返しはまだ序の口であることを強調しておきたい。そして、株式市場の底入れにつれ、為替市場ではクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の浮上が鮮明になってくることに注意しておきたい。市況はいかに。
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