FRBのタカ派スタンスは本物、米インフレと金利上昇は避けられない
「オミクロン脅威」と「FRB(米連邦準備制度理事会)タカ派スタンス」は間違いなく最近の市場を左右する二大テーマである。
時間が経つにつれ、オミクロンの脅威が低下しているようにみえるが、FRBのタカ派スタンスはどうやら本物で、これからも米インフレと金利の上昇は避けられない、という見方が市場に浸透しつつある。
今晩(12月10日)、米CPI(消費者物価指数)の高まりがあれば、一段と緊張感がもたらされるだろう。
ゆえに、米ドル全体は高値圏での保ち合いを続けているものの、総じて強含みで、米ドル/円も112円台半ばのサポートをキープ。前回のコラムで想定したほどは調整波動を深めなかった。
【参考記事】
●米ドル/円は、112円台前半のサポート水準を維持できるかに注目。割り込めば、一時的に110円台への下落があってもおかしくない(2021年12月3日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
短期債での日米金利差が拡大してきたことから考えると、112円台半ば以下には押さず、このまま再度高値更新を果たしていく、という可能性が再浮上してきた。
時間が経過していくほど、米ドル/円における深押しのリスクは低下していくだろう。
早期に112円台半ばのサポートを割り込まない限り、金利差が下支えとなり、米ドル買いが再度選好されやすい。
仮に何らかの材料が出て、112円台半ばを割り込む事態があっても、111円台後半~112円の節目前後といった次のサポートゾーンを大きく割り込むという事態は避けられる見通しだ。
つまるところ、早く調整してくるか、そうでなければ、深押しせずに中段保ち合いの形でスピード調整となる可能性が大きい。
もっとも、筆者は米ドルの押し目買いをずっと主張しており、調整波の一時的な拡大があれば、むしろ拾う好機と見なしてきたから、実は密かに深い押し目を期待していた。
しかし、米ドル/円の高値圏での保ち合いの維持から考えると、従来の想定より安いコストでは拾えない可能性が強まるから、仮にこれから再度押しがあっても、まず打診買いをしておくのも一手かと思う。
英ポンド→ユーロ→豪ドルの順に、米ドルの受け皿となっている
とはいえ、2021年年内に高値を更新できるかどうかは、なお流動的だ。なにしろ、米ドル全体の強さが確認されており、米ドル全体が強ければ強いほど、米ドル/円は頭が押さえられ、上昇傾向は維持できても値幅が限定されるはずだ。
理屈は繰り返し指摘してきたとおり、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における外貨安で間接的な円高がみられやすいからだ。
目先で言えば、主要外貨のうち、英ポンドの方が米ドル買いの主な受け皿になっている模様。
続いてユーロ、そして、豪ドルといった順番になるが、リスクオフの一服で豪ドルは切り返しが目立つほどだ。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
しかし、豪ドル/米ドルは2021年年初来安値更新があっただけに、切り返しの先行があってもスピード調整の範疇に留まり、ブル(上昇)基調へ復帰できる状況にはほど遠い。
米ドル/円の横ばいもあって、結局、豪ドル/円は豪ドル/米ドル次第となり、日足を見ればわかるように、直近3日間において約280pipsの切り返しを達成した。
しかし、11月からの全下落幅に対して、急速な切り返しがあっても38.2%程度にしかなっておらず、一気にブル基調へは復帰できない公算が高い。
(出所:TradingView)
82円の節目~82円台前半においてメインレジスタンスゾーンがあることを考えると、豪ドル/円は早期にレジスタンスゾーンを上回らない限り、再度頭打ちになると予想されやすい。
豪ドル/円は主要クロス円において強く切り返しを果たした方なので、それと比べるとユーロ/円や英ポンド/円は明らかに見劣りする。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
換言すれば、主要クロス円の状況から考えて、円売り局面に戻る可能性があっても後ずれの公算が高く、11月からの変動を1つの波動と数える場合、むしろなお下落の途中といったリスクが燻る。
特に英ポンド/円の方は、英ポンド/米ドルの下落モメンタムの増大につれ、これから再度安値更新があってもサプライズではなかろう。
当然のように、この場合は米ドル/円の早期高値更新は想定しにくいから、2021年年内における米ドル/円の上値ターゲット(117~118円)の達成は、年越しになる可能性を無視できないだろう。
(出所:TradingView)
米ドル/円の2021年内高値が115円止まりでも、十分、米ドル高の土台となる
それにしても、今年(2021年)の米ドル/円が健闘していたことは間違いない。年初来の上昇は、途中紆余曲折があったものの、総じて強い傾向を保ち、米ドル全体(ドルインデックス)をリードしてきたことは、特筆されるべきだ。
(出所:TradingView)
昨年(2020年)のコロナ・ショック直後の安値を割り込まずに、2021年年初から上昇を果たした分、長期スパンにおける米ドル高の可能性を強く示唆していたから、今年(2021年)の高値が115円台に制限されても十分、米ドル高の土台となり、来年(2022年)の米ドル高の機運を高める存在となるだろう。
米ドル高・円安というマーケットの本流は、来年(2022年)、一段と加速する公算が高い。
米ドル/円は来年(2022年)のために今仕込んでおくのも手
この意味合いにおいて、中長期スパンにおける円売りなら、クロス円より米ドル/円を選んだ方が安心だろう。
基本的に米ドル全面高の流れが来年(2022年)も続くから、外貨安の流れが間接的な円高圧力を高める局面が警戒されるが、米ドル/円における米ドル高・円安の内部構造が修正される心配はほとんどない。
米ドル/円の上値が2021年年初来の高値115円台に制限されるなら、高値圏での保ち合い継続を意味するから、スピード調整の一種として、むしろこれからの米ドル高・円安の流れをより健在化させる役割がある。
もちろん、117~118円といった上値ターゲットの達成があっても通過点にすぎず、来年(2022年)早期に120円の心理的大台の打診が覚悟される。
(出所:TradingView)
したがって、短期スパンではともかく、中長期スパンにおける円売りの水準は、米ドル/円についてはあまりこだわりすぎると、よいチャンスを逃してしまう可能性もある。
想定される2021年年内の保ち合いを安値拾いの好機と見なした場合、ポジションサイズを抑えた上の打診買いは今でも実行可能だと思う。
来週(12月13日~)はFRB、ECB(欧州中央銀行)、そしてBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])やBOJ(日本銀行)の金融政策決定会合が相次ぐが、従来のスタンスが繰り返されると予想される以上、2021年内に波乱があっても「コップの中の嵐」にすぎないのではないかと推測される。
ゆえに、来年(2022年)のために今仕込むのも一手だ。もちろん、少し長めのスイングトレードとなるから、すべての個人投資家に適用できるとは限らないが、大幅に「割安」の水準で米ドルを買いたいといった願望が実らない可能性に注意してもらいたい。
オミクロン・ショックでも米ドル/円は深押しできなかった分、米ドル/円の内部構造が市場参加者の大半の想定より強い、ということに尽きる。市況はいかに。
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