ウクライナ情勢で乱高下する市況の中、米ドル/円は蚊帳の外
ウクライナ情勢に左右され、マーケットのセンチメントが激しく揺れる。
ウクライナ最大の原子力発電所がロシアの砲撃を受けたと報道されると、ドイツ株や英国株をはじめ、世界株式市場が急落。ロシアとウクライナの話し合いが行われたと伝わると、今度は一転して大きく切り返し、波乱の市況が続いている。
当然のように、為替市場においてユーロなど主要外貨の乱高下も見られてきた。
一方、蚊帳の外に置かれるように、米ドル/円は驚くほど底固く推移、地政学リスクがまったくなかったようなパフォーマンスを演じている。
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とはいえ、それはあくまで米ドル/円の話で、ユーロ/円はユーロ/米ドルと同様の波乱が見られてきたから、円は外貨次第で「翻弄」される通貨という性質が一層露呈した。
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コロナショックまで、米ドル全面高の流れにおいて、米ドル/円は株安の局面で往々にして下落する傾向を示してきた。
コロナショック後、米ドル/円はいわゆるリスクオン・オフに左右されなくなり、今年(2022年)に入ってから米株の大調整があっても113円台後半を維持。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月下旬以降も、114円台半ばのサポートゾーンを守った。
円は地政学リスクを無視するほど主体性がなくなったと言える。
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となると、米ドル/円の内部構造は、しっかり米ドル高・円安の方向を示しており、これから2022年年初来高値更新をもって117円~118円といった上値ターゲットを狙うだろう。
言ってみれば、米ドル/円の強さが今回の地政学リスクで検証され、また証左されたから、米ドル/円の買い安心感につながり、高値再更新も、もはや自然な成り行きだ。ゆえに、その流れに便乗するのが得策だと思われる。
ユーロ/円はあくまでユーロ/米ドル次第、目先の急騰はリバウンドにすぎない
半面、ユーロ/円の話になると一変して複雑になる。確かに米ドル/円の続伸が続くなら、ユーロ/円にも下支えの効果をもたらすが、あくまでユーロ/米ドル次第の側面を無視できない。
3月9日(水)の値動きでは、ユーロ/米ドルの大幅切り返しに連動する形でユーロ/円も同日2.5円ほどの値幅をもって急騰してきたが、ユーロ/米ドルと同様、あくまで2月高値からの大型下落波に対するリバウンドにすぎず、弱気基調自体が修正されずにいる。
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要するに、現時点で円高や円安といった円の立場でパフォーマンスを論じること自体、たいした意味合いを持たない。外貨次第のパフォーマンスなので、はっきりした明暗に追随するしかない。
ユーロ/円と英ポンド/円は弱気変動を継続、米ドル/円と豪ドル/円は上昇が続く、といった市況がすでに見られてきたが、しばらく継続される公算が高い。
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根本的には、米ドル/円の強気構造が変わらないこと、また外貨同士の強弱がはっきりしていることがもっとも重要な認識だと思う。
豪ドルの強さは対ユーロや対英ポンドを見ると一目瞭然
豪ドルの強さはユーロ/豪ドル、また英ポンド/豪ドルといった外貨同士のクロス相場でしっかり確認できる。
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豪ドルの強さは、急騰している商品の市況から考えると、資源国通貨として評価された側面が大きい。さらに、地理的にロシアと一番遠いところに位置し、NATOにも入っていないから安全資産と見なせるという声も多い。
原因はともあれ、豪ドルの強気変動がしっかり確認されている以上、豪ドル/円の上昇トレンドに便乗するのも当然良い選択肢と思われる。
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つまるところ、円の立場で考えるとややこしくなるが、あえて円売りと言うなら、米ドル/円と豪ドル/円において順張りの戦略となるから、行われやすい上、円の下落余地も拡大しやすい。
米ドル/円も豪ドル/円も高値更新を果たしやすいから、短期スパンに限定する話だが、ブル(上昇)トレンドへ便乗するなら今でも遅くないとみる。
ユーロが底打ち、米ドルが頭打ちというのは時期尚早
先週(3月4日)のコラムにて、ユーロ全面安の可能性を指摘したが、そのとおりユーロの急落が見られた。
【参考記事】
●ユーロ/米ドルは1.10ドルの節目を下回れば、1.08ドル前後のトライが有力に。米ドルは、しばらく上値をトライしやすい展開か(陳満咲杜)
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目先までいくぶん繰り返しを果たしているものの、非常に限定的だった上、下落幅に対する比例から見ると、まだまだスピード調整の領域に留まる。
ユーロが底を打ったと言うのは性急で、仮にそうであってもしばらく安値圏での保ちあいに留まる公算が高いから、ユーロの逆張りはなお禁物だと思う。
もっとも、ユーロの切り返し自体がロシアとウクライナの合意に対する期待感を牽引したところが大きかった。
しかし、冷静に考えてみれば、ウクライナの領土を放棄しろと迫るロシアの理不尽な要求を、ウクライナ側が呑むわけはないから、停戦までの道のりはかなり厳しいと推測できる。
ゆえに、ユーロ売りがこれからも続く可能性が大きい。ロシアと対抗する最前線にあるEU(欧州連合)や英国は、ロシアとの利権関係も複雑で絡み合ってきた分、ロシア制裁で「返り血」を浴びされやすいことは明らかだ。
ユーロの一段安が進んでも、全然、違和感のない話で、戻り売りの戦略が引き続き有効であろう。
そうなると、米ドル独歩高とまでは言わなくても、主要外貨のユーロが売られる分、米ドルが買われることになるから、米ドル高基調の維持や延長も確実視される。
ドルインデックスは99の大台にいったん乗せたが、これから100の節目乗せも射程圏内に収めている。
(出所:TradingView)
米ドルの頭打ちを認定することはユーロの底打ちの認定と同様、目先、性急かつ稚拙な判断だと思う。
いずれにせよ、今週(3月7日~)の話は先週(2月27日~)とほとんど変わらない。ユーロ安継続の中で米ドル高が継続され、外貨のうち豪ドルは特別な存在であるから、ユーロ売りなら豪ドル買いも選択肢に加えたい、ということぐらいで新鮮味がないかもしれない。
新鮮味のない話で申し訳ないが、市況のフォローに役に立つことがあれば、無常の喜びである。市況はいかに。
9:15執筆
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