Xで出始めたこれまで見られなかったコメント
私はX(旧Twitter)からほとんどすべての情報を入手していますが、ここ1~2週間、これまで目にしなかったコメントを見かけるようになってきました。
それは日本の金利正常化が進めば進むほど、円キャリーの解消が進み、世界全体の流動性危機をはじめとする国際金融の新たな不確実性を指摘する内容です。
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日本は「世界のクレジットカード」だった
過去30年に渡り日本の金利はほぼゼロ%(あるいはマイナス)だったため、世界中の投資家は円をほぼタダで借りられました。その借りた円を米ドルや他の通貨に換えて、株やコモディティ、新興国市場など、利回りの高い資産へ投資されてきました。
FXを初めて間もない方のために過去の日銀の動きを簡単にまとめると、他の主要国中央銀行が金利を引き上げる中で、マイナス金利を維持した時期があります。
そして、日本にインフレが戻ってきた時もその兆候を無視して、YCC(イールドカーブ・コントロール)を死守していました。そして最近では、主要国中央銀行が流動性を吸収する中、日本だけが金融緩和を続けていたのです。
その弊害が、長期金利上昇という形で一気に表面化してきました。

2016年9月の日銀会合で決定された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつがイールドカーブ・コントロールだった。写真は記者会見に応じる黒田日銀総裁(当時) (C)Bloomberg/Getty Images
日本の長期金利上昇は何を示しているのか?
現在の日銀政策金利(短期金利)は0.5%で、ほぼゼロ%と言ってよいレベルです。しかし、長期金利は話しが違います。

(※筆者提供/TradingView)
これは、米英日それぞれの10年物国債利回りです。執筆時の日本の利回りは1.879%で、2008年以来の高さとなりましたが、それでも絶対的な水準は、米英の半分以下です。
次のチャートは、さらに期間の長い30年物国債の利回りですが、執筆時 日本は3.394%ですので、ほぼ4%に届いた感じです。米国は4.748%、英国は5.250%ですので、このままでいけば日本の30年物利回りは米国と肩を並べる水準まで上昇するリスクさえ、あり得そうな勢いです。

(※筆者提供/TradingView)
10年物も30年物も日本の国債利回り上昇のマグニチュードは、米英と比較しても、顕著となっています。
長期金利上昇に震える投資家たち
つい数年前までは政策金利だけでなく、長期金利も日銀のYCCで0%前後に設定されており、「無料のクレジットカード」のように海外勢は円を使って投資が出来たのです。
しかし、特に今年(2025年)に入ると上昇スピードが早くなり、投資家にとっては突然利息を取り立てられる形となりました。今後さらに「利息(利回り)」が上昇し円を借りるコストが高くなり続けるのであれば、当然 過去に積み立てたポジションの一部を閉める動きが出てもおかしくありません。
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グローバルなマージンコールとなるのか?
ゼロ金利で借りていた投資家にしてみれば、これ以上、日本の利回りが上昇する前に、投資している保有資産を売却する動きが出てくるでしょう。
円キャリーポジションは、日本のミセス・ワタナベ(※)で有名ですが、それの何倍も何十倍もの規模が世界中に残っています。
(※編集部注:「ミセス・ワタナベ」とは、外国為替証拠金取引(FX)を行う日本の個人投資家の総称のこと)
そして円キャリー取引の利食いが一斉に出てくると、円高という動きだけでなく、流動性が吸い取られ、株式市場を押し上げてきた「燃料」がなくなってくるので、他の資産からの益出し(利益を確定させる動き)が連鎖しておきます。
規模がわからない円キャリー取引残高
いろいろ調べてみたのですが、世界中の円キャリー取引の全体量がわかりません。デリバティブなどの派生商品にも残高があるようですので、誰にも把握出来ないのでしょう。
このようにデリバティブが絡む金融危機は、2007年から発覚した世界金融危機の時も同じで、当時も全体像が把握できる人は誰もいないと言われていました。なにかのきっかけで、今回も一歩間違えば長年ずっと抑え込まれてきたマーケットが、一気に動きだすかもしれません。そしてその手の危機は、忘れたころにやってくるのです。
利回り上昇は、金融環境をタイトにする
利回り上昇は金融環境のタイト化(金融政策などによって資金の供給が引き締まり、経済状況が厳しくなってくる状況のこと)を意味しますので、世界のリスク資産を揺さぶるきっかけになるかもしれません。
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■日本の国債利回りが急騰すると…
もう一度 簡単にまとめると、円キャリー取引が不安定になれば、
・過去何十年にも渡る円借入によるレバレッジ投資が揺らぐきっかけとなる
・有事の米国債買いではなく、円キャリー取引の解消の動きが優先されて、米国債への売り圧力が強まる可能性もない訳ではない
・流動性逼迫が世界中へ波及するかもしれない
・全市場、全資産でボラティリティ上昇リスク(世界規模のリスク・オフ)
・日銀の信認が薄れていくリスク
例えると、日本がくしゃみをすれば、世界が風邪をひく状態とも言えるでしょう。
12月日銀会合での利上げに向けて
今週(12月1日~)月曜日、植田日銀総裁が発言をしました。主な発言内容は、
・利上げの是非について、適切に判断したい
・利上げと言っても緩和の調整
・景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセス
・(利上げの遅れで過度に緩和的な状態が長引くと)たとえば米欧などで経験したように非常に高いインフレ率になって、政策金利が4~5%にならないといけないといった可能性が出てくる。それでは混乱を引き起こしてしまう
・過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている
・基調的な物価上昇率に影響する可能性があることに留意が必要
これらの発言が、次回12月18~19日に開催される日銀金融政策会合での利上げ示唆と受け取られ、政策金利動向を最も受けやすい2年物国債利回りは、2008年以来の1%越えを達成しています。

(※筆者提供/TradingView)
ここからの円の動きはどうなる?
このコラム記事を通して、私は決して世界金融危機が起きると煽るつもりは、まったくありません。しかし中央銀行がコントロールできない長期金利がこのようにアグレッシブな上昇をしている以上、無視するわけにはいかないのも事実です。
あくまでも私が持ったイメージですが、12月会合で日銀がまたしても「据え置き」を決定すれば、長期金利はさらに大きく上昇するでしょう。
長期金利がどのレベルにまで上昇すれば、投資家はさらに円キャリー取引のアンワインド(解消)に動くのかは誰にも判りませんが、私自身は「日本10年物国債利回りが2%台に乗った時」に、マーケットはどういう反応をするのか、見極めたいと思います。
その時にチェックすべき点は、
・円高に動くのか?円安になるのか?
・株価(特に米国)下落の有無
・他の主要国の長期金利(特に米国国債利回り)動向
・コモディティやビットコインなどの動き
まずこれらをチェックするつもりです。
最後になりますが、以下のチャートは米国と日本ぞれぞれの10年物国債利回りの差(イールド・スプレッド)です。今までずっと金利差が拡大すると米ドル高・円安に、金利差が縮小すると、米ドル安・円高の動きでした。

(※筆者提供/TradingView)
しかし赤い丸で囲んだ今年(2025年)の夏以降を見ると、日本の長期金利上昇が止まらなくなり、その結果 米国との金利差が縮小しました。本来であれば、米ドル安/円高になる動きでしたが、その間ずっと、円は売られ続けていたのです。
このように過去のパターンが崩れはじめていることも、円を取り巻く環境に不安要素が増した1つの根拠と言えるかもしれません。
ここからの円の動きには、今まで以上に注意していきましょう。
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