米ドルは米金利上昇でも軟調! 「デベースメントトレード」に注目
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 それでは叶内さん、さっそく先週(8月17日〜)の株の振り返りからお願いします。
MC叶内 米・イラン和平への期待低下、世界的金利上昇、イベント待ちのなか、日米株は軟調な展開でした。
もっとも、これらの不安材料は前週から続いているもので、新たな悪材料が出てきたわけではありません。
新しいことと言えば、ベッセント米財務長官による米国債のバイバック(買い戻し)表明でしょう。
週前半は米金利が上昇したことで、成長株やビッグテック、半導体関連株の重しとなりました。
前週(8月10日~)に最高値をつけていたS&P500は前週末比1.43%安で、4週ぶりの下落となりました。ナスダック総合指数が2.1%安と大きめの下落、フィラデルフィア半導体指数SOXは5.4%安と大幅反落。エヌビディアは4年ぶりの6日続落でした。
NYダウは0.8%安と続落、ほかの主要株価指数と比べて小幅安にとどまっています。モデルナが急伸するなど個別の材料がありました。
日経平均は前週末比2697円(3.9%)安の6万6016円と、3週ぶりに下落しました。半導体関連が下げています。TOPIXも3.1%安と3週ぶりに下落しました。金融株もさえませんでした。
米小売売上高が昨年5月以来となる大幅な落ち込みをみせ、米ウォルマートの既存店売上高の伸びが約6年ぶりの低水準となっていました。底堅いと言われていた米個人消費の現状が少し気になります。
そんななか、ゴールドや暗号資産の上昇が目立ちました。
米財務省は19日、期間が長めの名目利付債を対象とした流動性支援の買い入れオペの規模を、1回当たり20億ドルから「少なくとも40億ドル」に倍増すると発表しました。
これを受けて、長期債を中心に利回りが低下したのは当日だけでした。
18日に30年債の利回りが5.3%を超え、2007年以来の水準をつけた直後のことで、ベッセント米財務長官が発した「この水準を米財務省が容認しない」というメッセージだと受け止められましたが、規模から考えて実際の効果は限定的ともいわれています。
異例の日米協調為替介入といい、今回のFRB(米連邦準備制度理事会)ではなく、米財務省によるバイバックといい、当局の対応がかなり積極的になっている印象を受けます。
市場がまだ十分に織り込んでいないリスクがあるのではないか、と少し心配にもなります。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 いま叶内さんが挙げてくださったバイバックは、為替のほうから見ても先週最大のポイントでした。
重要なのは規模ではなく、タイミングと「誰が動いたか」です。
30年債利回りが5.3%を超えた直後に、FRBではなく財務省が長期債の買い入れを拡大した。市場はこれを「米当局は長期金利のこれ以上の上昇を容認しない」というメッセージとして受け取りました。
ただ、ご指摘のとおり効果は一時的で、米金利はすぐに戻しています。金利上昇を止める決定打にはなりませんでした。
むしろ残ったのは、当局が長期金利にここまで神経質になっていると市場に知らせてしまった、という事実のほうです。
そして、ここからが為替の話です。
教科書どおりなら、長期金利の上昇は米ドル高要因です。ところが今回はそうなっていません。米ドル/円以外では、むしろ米ドルが軟調です。
その動きを考えるうえで注目したいのが、ゴールドと暗号資産の上昇です。ここれは単純なリスクオンというより、米ドルそのもの、あるいは米国債市場への信認低下に対するヘッジという色彩が濃いと見ています。
「金利が上がったから米ドルを買う」ではなく、「米国債市場が不安定で、当局が慌てて対応している。ならば米ドル以外の逃避先も持っておきたい」という発想です。
結果として、ゴールドや暗号資産は上昇。米ドル/円は膠着する一方で、ユーロや豪ドルに対しては米ドル安が進んでいます。
『米金利上昇=米ドル高』という従来の関係から外れたこの動きが、いまの為替市場を読むうえでの起点になります。
こうした流れで、最近よくメディアで使われるのが「デベースメントトレード(Debasement trade、法定通貨の価値低下に備える取引)」という言葉です。「通貨希薄化トレード」とも呼ばれます。
この言葉は、米国の財政赤字拡大や巨額債務の持続性、中央銀行の信認低下への懸念を背景に、ゴールドなどの実物資産やビットコインなどのオルタナティブ資産が買われる文脈で頻繁に取り上げられています。

(出所:TradingView(トレーディングビュー))
特に、米国の財政膨張に伴う「法定通貨の価値希薄化(Fiat debasement)」をヘッジする動きを表すキーワードとして、コラムや市場分析記事でも継続的に使われているので、今後も注目です。
それでは叶内さん、今週(8月24日~)のイベントと株の注目点をお願いします。
米ドル/円は膠着でトレード妙味低下、高金利の豪ドル/円に注目!
MC叶内 今週は前週から待っていた2大イベントがあります。
8月26日(水)にエヌビディアの決算発表、27日からジャクソンホール会議が開催され、ウォーシュFRB議長は28日に基調講演を行う予定です。これを通過するまでは様子見になりそうです。
エヌビディアの決算は26日の引け後、日本時間では27日早朝で、決算説明会は午前6時に予定されています。
ブルームバーグによれば、エヌビディアの8~10月期の業績見通しで、総収入が前年同期比83%増、1株当たり利益が81%増の予想です。
今回は、新世代のAIプラットフォーム、Vera Rubinの立ち上がり状況も注目されます。また、いわゆる『循環取引』をめぐる状況や信用リスクなどについても、質問が出るでしょう。
ちなみに、直近の4回は決算発表後の株価は内容にかかわらず下落しています。
ジャクソンホール会議に日本から誰が出席するのかは、まだ確認がとれていません。
一方、国内では27日に日銀の氷見野副総裁が金融経済懇談会で発言し、その後、記者会見も予定されています。過去に利上げ予告をしたこともあり、注目度が高いです。
週明け24日にベッセント米財務長官が記者会見を開き、イランに対し「史上最も厳しい制裁措置」を発表することになっています。
すでにイラン側は、米国の「経済戦争」参加国を「敵」と見なすと警告していますが、発表の詳細やその後の展開に加え、原油価格や金利、米中関係への影響も気になるところです。
ベッセント米財務長官は、米国の財政健全化策も今週中に発表すると伝わっています。
経済指標は、国内では28日に7月完全失業率・有効求人倍率、8月の都区部CPI(消費者物価指数)が発表されます。
海外では、25日に米国8月コンファレンスボード消費者信頼感指数と米国7月新築住宅販売件数が発表されます。
26日には米国7月の個人所得と個人消費支出・PCEデフレータ、27日には米国新規失業保険が発表される予定です。
また、今週は米国2年・5年・7年入札が予定されています。
エヌビディアのほか、セールスフォース、クラウドストライク、ファブレス半導体のマーベル・テクノロジーの決算発表が予定されています。こちらも重要です。
為替市場の見通しはいかがですか?
トレーダー西原 今週も「米ドル/円の上値の重さ」と「米ドル/円以外の米ドル安」は、切り分けて考える必要があります。
まず米ドル/円です。日米協調介入以降、160円台の上値は明らかに重くなりました。
過去を振り返っても、日米協調介入が入った局面では、ルーブル合意を除いて米ドル/円の方向性そのものが変わっています。単独介入と違い、協調介入はメッセージ性が桁違いに強いということです。
ただ、今回は円高方向にも走りません。日米金利差が依然として大きく、米金利も高止まりしていて、積極的に円を買う材料が乏しいからです。
上にも行けない、下にも走れない。その結果、米ドル/円のボラティリティは急速に低下しています。
トレードでは、方向性と同じくらいボラティリティが大事です。動かない相場では、いくら相場観が当たっていても収益機会は限られます。いまの米ドル/円は、まさにトレード妙味が落ちている局面です。

(出所:TradingView)
こうなると、マーケットの関心は自然と「動く通貨」や「金利が取れる通貨」、つまりキャリートレードに向かいます。
以下は8月月初来の主要通貨の対米ドル・トータルリターンです。米ドル/円が膠着するなかで、高金利通貨のパフォーマンスが際立ってきているのがわかります。

高金利の通貨ペアのなかでも、注目しているのが豪ドル/円です。理由は3つあります。
1. 円キャリーの受け皿になりやすいこと
2. 豪州の利上げ観測が少しずつ織り込まれ、サポートになっていること
3. 米ドル安局面では、高金利通貨である豪ドルが買われやすいこと
もっとも、今週はエヌビディアの決算、ジャクソンホール会議、米国債入札、そしてベッセント米財務長官のイラン制裁発表と、材料は目白押しです。
米金利が再び上振れするのか、それとも当局の牽制で抑え込まれるのか。ここが為替市場にとって最大の分岐点になります。
そのうえで今週の基本戦略は、米ドル/円の160円台では戻り売り目線を持ちながらも、深追いはしません。一方で、豪ドル/円は押し目買いの候補として見ていくことになります。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は160円が上値の目安も、レンジ相場で売りはスワップ負担が重い。注目は120円を目指す高金利の豪ドル/円!(8月20日、西原宏一)

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株と為替のトレードを楽しんでいきましょう!
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