米ドル/円はこう着しているが、この2週間で相場には2つの大きな変化があった
みなさん、こんにちは。
先週のコラムはお休みをいただき、ありがとうございました。
米ドル/円は相変わらず膠着していますが、この2週間で相場には2つの大きな変化がありました。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル買いがリスクオフでも続かず! AI株投資と米ドルの深い関係とは? 米ハイテク企業の決算発表と避難通貨スイスフランに注目(10月19日、西原宏一&叶内文子)
1つは、欧州のトラブルが財政の問題だけにとどまらなくなったことです。
フランスでは暴動が起き、フランス10年債利回りは一時5%を超えて2002年以来の高さとなり、仏独10年債利回りスプレッドも節目の150bpを突破しました。ガス価格の高騰や、ロシアによる破壊工作の疑惑も表に出てきています。
もう1つは、AI関連株の急落で米ドルが売られたことです。リスクオフなのに、米ドルは安全資産として買われませんでした。
欧州のリスクでユーロが売られ、AIのリスクで米ドルが売られる。この2つが重なったとき、どちらのリスクでも買われやすいのはどの通貨か。
答えはスイスフランだと見ています。今週はこの点を考えます。
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フランス10年国債利回りが一時5%超え! 欧州の政治・経済リスクがユーロの重荷に
週末、フランスでは生活費の高騰などに抗議するデモが、各地で暴動や略奪に発展しました。
マルセイユではデモが禁止され、パリの一部や北部の都市では夜間外出禁止令が出ています。フランス当局は、対応に不手際があったことを認めています。
これを受けて、フランス10年債利回りは10月19日(月)に4.87%へ上昇し、仏独10年債利回りスプレッドは約145bpと2週間ぶりの水準まで広がりました。
さらに21日(水)には、フランス10年債利回りが一時5%を超えて2002年以来の高さとなり、仏独スプレッドも約157bpと、2011年以来の水準に迫っています。
フランス国債ショックは財政の問題から始まり、今では社会不安という政治のリスクにまで広がりました。
加えて23日(金)には、ムーディーズがフランスの格付けを見直す予定です。格下げとなれば、仏独スプレッドの再拡大とユーロ売りの材料になります。
そして、欧州の悪材料はフランス以外にも積み上がっています。たとえば以下のようなものです。
| 材料 | 中身 |
| ガス価格の高騰 | 欧州の指標価格が一時1MWhあたり90ユーロを超え、約4年ぶりの高値。冬の入り口なのに、ガス貯蔵率は約74%(例年の同時期は約86%) |
| ロシアの破壊工作 | WSJ(ウォールストリートジャーナル)によると、8月にドイツのライプツィヒ空港で、ウクライナ支援の貨物機がドローン攻撃を受けた。ドイツ当局はロシア軍の情報機関の関与を指摘している(ロシアは関与を否定) |
| スペインの政治 | 11月29日(日)に総選挙 |
エネルギーを輸入に頼る欧州にとって、ガス価格の高騰は景気と貿易収支の重荷です。
しかも、ガス価格の高騰はインフレを押し上げるため、ECB(欧州中央銀行)は物価上昇への対応と、景気や国債市場の安定との間で難しい判断を迫られます。
ユーロ/米ドルは先週(10月12日~)、1.1113ドルまで下げ、年初来安値を更新しました。
AI関連株の急落で米ドルが売られた! リスクオフでも米ドルが買われない理由とは?
もう1つの大きな変化が、AI関連株の急落です。
先週は、AI向けクラウドのコアウィーブ(CoreWeave)の社債利回りとCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドが急騰しました。社債利回りは一時16%近くまで上がり、CDSスプレッドは1000bpを超えています。
また、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は8日続落し、週間で11%下落しました。
教科書どおりなら、リスクオフでは米ドルが買われます。ところが先週、米ドルは逆に売られ、ドルインデックスは1カ月以上ぶりの週間下落となりました。
月初から本稿執筆時点まで、主要通貨の中でもっとも強かったのは、避難通貨とされるスイスフランです。一方、AI関連株が急落して以降に限ると、主要通貨の中でもっとも弱かったのは米ドルです。
世界の投資家は、AI投資を通じて米ドル建て資産を大量に持っています。しかも、為替ヘッジを十分にかけていない投資家が多いようです。AI関連株が崩れれば、株式の売却に伴って米ドル売りが広がる可能性があります。
FT(フィナンシャルタイムズ)のジリアン・テット氏は、AI関連企業のCDSスプレッドの上昇を「炭鉱のカナリア」と表現しました。
2008年の金融危機の前も、株が最高値を更新する中で、住宅ローン債や銀行のCDSスプレッドがじわじわと上がっていました。先週のコアウィーブのCDSスプレッドの急騰は、そのカナリアが鳴いた形です。
もっとも、19日(月)には半導体株に押し目買いが入り、米国株は反発しています。AI関連株の売りが本格化するのか、一時的な調整で終わるのか。まだ答えは出ていません。
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欧州リスクとAIリスクの両方に強いスイスフラン! 基本戦略は米ドル/スイスフランとユーロ/スイスフランの戻り売り
ここで、欧州のリスクとAIのリスクが、それぞれどの通貨ペアに効くのかを整理しておきます。
| 通貨ペア | 欧州のリスクが主役のときの傾向 | AI発のリスクオフが主役のときの傾向 |
| ユーロ/米ドルの売り | ◎ ユーロ安・米ドル高 | × 米ドルが売られ、ユーロ/米ドルはむしろ上がりやすい |
| ユーロ/円の売り | ○ ユーロ安 | ○ 円買い(ただし円もエネルギー高に弱い) |
| 米ドル/スイスフランの売り | ○ スイスフランが安全通貨として買われる(ただし米ドルも買われやすい) | ◎ 米ドル売り・スイスフラン買い |
| ユーロ/スイスフランの売り | ◎ ユーロ売り・スイスフラン買い | ○ スイスフラン買い(ただしユーロは対米ドルで上がることも) |
ユーロ/米ドルの売りは、欧州のリスクには強い一方、AI発の米ドル売りには弱い傾向があります。
米ドル/スイスフランの売りはAI発の米ドル売りに強く、ユーロ/スイスフランの売りは欧州のリスクに強い傾向です。
つまり、どちらのリスクが主役になっても共通して買われやすいのは、スイスフランです。
欧州のリスクにはユーロ/スイスフランの売り、AIのリスクには米ドル/スイスフランの売りで備えるのがよいのではないでしょうか。
私自身も、この2つの通貨ペアの戻り売りを基本戦略としています。
実際に、先週はユーロも対米ドルで小幅に上昇しましたが、スイスフランはそれ以上に上がり、米ドル/スイスフランもユーロ/スイスフランも下落しています。
スイスフラン買い戦略のリスク要因は? 各社の相場見通しも確認
続いて、各社の相場の見方をまとめながら、米ドル/スイスフランとユーロ/スイスフランの戻り売り戦略のリスク要因を考えてみましょう。
| 各社 | 見方 | ||
| ブルームバーグ・インテリジェンス | リスク回避でスイスフラン強気派が復活。ユーロ/スイスフランは0.93スイスフラン割れ、0.9250スイスフランを想定。SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])は当面、スイスフラン高を止めに動かない | ||
| StoneX | AI投資への懸念で米金利が低下し、米ドルも下落 | ||
| ゴールドマン・サックス | ユーロの売りは極端に偏っており、数週間は一時的な戻りも | ||
| ING | ユーロ/米ドルは1.10ドルまで下げるリスク | ||
| ブルームバーグ(市況) | 投機筋のユーロの売りは大きいが、今の神経質な相場では無視されやすい | ||
| ※出所:各社レポート、Bloomberg、FT、WSJ | |||
注意しなければならないのは、ゴールドマン・サックスが指摘するように、ユーロの売りがすでに大きく積み上がっていることです。
この水準からユーロを追いかけて売るのは、踏み上げのリスクが高いと見ています。
そのほかのリスク要因として、以下のようなケースが考えられます。
●ECBが火消しに動く:TPI(伝達保護措置)への言及やQT(量的引き締め)の減速が示唆されれば、スプレッドは一気に縮み、ユーロは急反発する。
●ユーロの踏み上げ:売りポジションの買い戻しが集中すれば、ユーロが急反発する可能性がある。
●AI関連株の反発:ハイパースケーラー(※)の決算が好調なら、AI関連株とともに米ドルも買い戻される。米ドル/スイスフランのショートには逆風となる。
●SNBの姿勢の変化:スイスフラン高が急速に進めば、SNBが口先介入や実弾介入で歯止めをかける可能性がある。米ドル/スイスフランとユーロ/スイスフランの両方に逆風となる最大のリスク。
●フランスの政治の安定:予算の成立や抗議活動の沈静化で、仏独10年債利回りスプレッドが急速に縮小するなら、ユーロの売りは一服する。ムーディーズが格付けを据え置いた場合も、安心感からユーロが買い戻されやすくなる。
(※「ハイパースケーラー」とは、クラウドサービスを大規模に構築・運用する企業のこと。アマゾンやマイクロソフト、アルファベット、メタなどが含まれる)
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FOMCやECB理事会、米ハイテク企業の決算に注目
答え合わせは、まず23日(金)のムーディーズによるフランスの格付けの見直しです。
そして、来週(10月26日~)は大きなイベントが集中します。
29日(木)の日本時間早朝にはFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表とアルファベット、マイクロソフトの決算発表が予定されています。同日にはECB理事会、30日(金)には日銀会合(日銀金融政策決定会合)の結果発表も控えています。
さらに、11月29日(日)にはスペイン総選挙が予定されています。
欧州のトラブルは続き、AIの信用不安で米ドルも強くない。その両方に効くのは、スイスフランの買いだと考えています。基本戦略は、米ドル/スイスフランとユーロ/スイスフランの戻り売りとします。
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