■現在進行中の円安は「悪い円安」
米ドル/円は一時、112円の大台を突破し、昨年(2019年)4月高値112.41円に迫っている。筆者は一貫して構造的な円安傾向を指摘してきたが、うれしい気持ちはまったくない。なぜなら、その背景にあるマーケットのセンチメントは歓迎できるようなものではないからだ。
(出所:Trading View)
もっとも、円安にしても円高にしても、単にレートの変動なので良し悪しをつけるのが適切とは言い切れない側面もあるが、一国の通貨なので、やはり、通貨の強さはファンダメンタルズ上の属性を表すという考え方があり、それが今でも主流である。
たとえば、戦後からバブル崩壊までの円高は「良い円高」、すなわち日本国力の増強に伴う円高と解釈され、その一方、バブル崩壊後、デフレ環境に陥った円高傾向は「悪い円高」(デフレの通貨は上昇傾向になるのが経済学の常識)と見るのが一般的である。
では、円安の場合はどうだろう。筆者が円安傾向を指摘できた根拠は相場の内部構造に基づくものなので、ファンダメンタルズ上のロジックを必ずしも必要としないが、あえて言うなら、「デフレ脱出の円安」、すなわち「良い円安」を想定していた。
しかし、現在進行中の円安は、ロジックやセンチメントで説明するならば、明らかに「不安の円安」、「リスクオフの円安」、すなわち「悪い円安」だと思う。
(出所:Trading View)
■円安は「日本売り」そのものだと認識すべき
消費増税の失敗で、日本の2019年10月-12月期GDP(速報値)が年率換算で6.3%減と5四半期ぶりにマイナスとなったことを、今回の円安の背景として解釈する向きもあるが、それは明らかに間違っていると思う。
(出所:Bloomberg)
従来のパターンなら、お決まりの株安・円高だったので、日本の成長率の低下や景気後退の懸念は円安ではなく円高を招くはずだ。要するに、よく語られる「リスクオフの円高」そのものである。
そうなると、今回の円安は明らかに違う。その背景や市場センチメントをあえてロジック的に解釈するなら、日本政府の危機意識や危機対応能力に対する疑問や懸念というほかあるまい。
【参考記事】
●新型肺炎は「中国のチェルノブイリ事故」に!? 上半期の中国経済、ゼロ成長のシナリオも(2月14日、陳満咲杜)
今回、新型肺炎の防疫に対する日本政府の慢心や不作為、あるいは手際の悪さは、度を越したといえるほどずさんなものなので、円安は「日本売り」そのものだと認識すべきだと思う。
(出所:Trading View)
この部分に関して、もっとたくさん書きたいが、筆者は政治評論家でもない上、「反政府、反安倍」と思われたらいけないので、我慢することにした。
もっとも、政府のみでなく、日本社会全体に危機感が足りないところも大きく、すべて政府の責任とは言い切れない側面もあるかと思う。
中国で発生、また、進行中の悲劇を毎日テレビのニュースで見ても、また、新聞で読んでも、あくまで「対岸の火事」とみる風潮があり、一部専門家が流した「インフルエンザみたいなもの」といった誤った認識に安心させられ、政府も民間も慢心していたところも大きかったのではないかと思う。
■後手でも日本政府は新型コロナ対策を打つべきだった…
筆者は、最初からそのような事態に深い懸念を抱いてきた。筆者のツイッター(@chinmasato)では新型肺炎の危険性を繰り返し警告してきたから、ご覧いただければ筆者の主張をおおむねわかっていただけると思う。
政府関係者の危機意識の欠如、そして、初動対応の失敗や防疫体制の不備は誰の目にも明らかなので、今さら説明する必要もなかろう。
武漢封鎖(1月23日)以前の4日間だけでも、武漢から訪日した人は6000人弱と推計される。その全員がまったくコントロールされず、一部は日本を周遊してから中国に戻った突端に隔離された。
そのことを自身のツイッターでも書いたので、その日付は1月29日(水)であったことを覚えている。その時点でも、もうすでに手遅れ感が強かったが、まだ挽回の余地はあったはずだ。
名古屋から帰国した武漢の方19名、上海到着途端隔離された。日本政府の脇甘さを嘲笑するような出来事。 pic.twitter.com/UiasDs04Jw
— 陳 満咲杜@ブルベアFX (@chinmasato) January 29, 2020
このような事態を見ればわかるように、日本政府の防疫意識は明らかにどこかおかしい。そして、後手でもいいから、政府が対策を打つべきだったが、まったく改善されず、本日(2月21日)に至った。
(出所:Worldometerのデータを基にザイFX!編集部にて作成)
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