米国の大統領を決める、4年に一度の米大統領選。今年、2020年の米大統領選は、新型コロナウイルスの影響から例外的なスケジュールで選挙戦が進んできたが、事実上の最終決戦となる有権者による一般投票が、2020年11月3日(火)に実施される。
米ドル全体の動きを表すドルインデックスの動きをここ30年ほど見てみると、民主党政権下では米ドル高、共和党政権下では米ドル安の傾向が確認できている。また、前回、2016年の米大統領選後には、「トランプラリー」と呼ばれる猛烈なリスクオン相場が到来して、米ドル/円が1カ月ほどで17円近く急騰した。こういったことから、米大統領選はFXトレーダーにとっても極めて重要なイベントといえる。
【参考記事】
●米大統領選とは? 制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説
●ザイFX!で2016年を振り返ろう!(2) トランプ氏当選でまさかのリスクオン到来!
(出所:TradingView)
世論調査どおりバイデン氏? トランプ氏がまた逆転?
一般投票日まで1週間を切った10月28日(水)時点で、確認できる最新の各種世論調査や米大統領選の結果を収益化できる賭けサイトなどの状況を見る限り、そのほとんどで民主党のジョー・バイデン候補(以下、バイデン氏)が、共和党で現職のドナルド・トランプ大統領(以下、トランプ氏)をリードしており、バイデン氏優勢との見方が広がっている。
各種世論調査や米大統領選の結果を収益化できる賭けサイトなどで、総じて有利と見られている民主党のジョー・バイデン候補。当選すれば就任時には78歳と、米国史上最高齢の大統領が誕生する (C)Scott Olson/Getty Images News
しかし、前回、2016年の米大統領選では、世論調査や賭けサイトなどの動向から勝利する可能性が高いとみられ、有権者の得票総数でリードした民主党のヒラリー・クリントン候補が、選挙人の獲得総数ではトランプ氏を下回り、トランプ氏が米大統領選に勝利する「番狂わせ」があったことは、多くの方の記憶に新しいところだろう。
現職の第45代大統領で再選を目指す共和党のドナルド・トランプ氏。劣勢と見られていた4年前の米大統領選で勝利したように、今回も世論調査結果を覆して勝利するか注目される (C)Scott Olson/Getty Images
そうしたこともあり、金融市場では市場参加者が11月3日(火)の一般投票でどちらが勝つのか、いまだに予想を固めきれていないところもあると聞く。最終的には「蓋を開けてみるまでわからない」ということなのか、外国為替市場も例外ではなく、ここまで米大統領選に関しては様子見ムードを強めてきたという印象がある。
また、今回の米大統領選では、新型コロナウイルスの影響で郵便投票や期日前投票を利用して投票を行う有権者の数が、過去に例がないほど急増しており、全有権者の2割強、予想される投票者数の3分の1近くが、すでに投票を済ませているとの報道もある。そのため、通常なら一般投票が締め切られるとほどなくして大勢が判明し、次期米大統領が事実上決定するが、今回は開票作業の遅れなどから、最終的な結果の判明までには時間を要するとの見方もある(※)。
(※前回2016年の米大統領選では、投票日翌日の11月9日(水)未明(日本時間9日午後)に、トランプ氏が勝利宣言を行った)
仮に、開票作業が驚くほどスムーズに進んだり、どちらかの候補者が圧倒的な得票を集めて早い段階で大勢が判明して、日本時間11月4日(水)の東京時間に次期大統領が決定する可能性もあるが、どちらが次期大統領になるのか、すぐに決まらない展開になることも、十分に想定しておきたい。
そこで本記事では、決戦直前の最新世論調査の動向や、ザイFX!読者へツイッターを使って行ったアンケートの結果などを紹介しつつ、米大統領選の注目ポイントなども改めておさらいしておきたい。
平均支持率はバイデン氏が7.4ポイントリード
市場関係者の多くが注目している政治ニュースサイトの「RealClearPolitics(リアルクリアポリティクス)」が、メディアや民間調査会社などが行う各種世論調査の結果を集計した平均支持率では、選挙期間中は常に民主党のバイデン氏が共和党のトランプ氏をリードしてきた。
最新となる2020年10月27日(火)時点では、バイデン氏の平均支持率がトランプ氏の平均支持率を7.4ポイント上回っている。
(出所:RealClearPolitics)
集計の対象となっている個別の世論調査結果を見ても、バイデン氏一色と言っていい結果となっており、有権者に対して実施された世論調査の結果からは、バイデン氏勝利の可能性が高いということが推測できる。
(出所:RealClearPolitics)
しかし、10月中旬には一時10ポイント以上あった両者の差は、ここにきてジリジリと縮まっている。米国の世論調査機関としては最大手で、トランプ氏が調査結果を頻繁に引用することで知られているラスムセン社の世論調査では、直近でわずかながらトランプ氏がバイデン氏をリードする場面もあった。トランプ氏がいくぶん、バイデン氏に迫ってきていると推測することもできる。
スイング・ステートではトランプ氏逆転の可能性も!?
前回、2016年の米大統領選では、有権者の得票数ではヒラリー・クリントン氏が上回ったものの、過半数の選挙人を獲得したトランプ氏が勝利したことは、冒頭でも紹介したとおり。
間接投票のしくみが用いられている米大統領選では、選挙人の獲得総数が過半数の270を超えられるかが、最終的な勝負の行方を決める。そして、一部の州を除き、一般投票でもっとも多くの票を獲得した選挙人候補団が、その州のすべての選挙人を獲得できる「勝者総取り方式」において重要なカギを握るのが、民主党と共和党の支持率が拮抗しているとされている「スイング・ステート(トスアップ州)」の動向だ。
RealClearPoliticsによると、世論調査の結果から10月27日(火)時点で獲得が見込まれている選挙人の数は、バイデン氏が232人、トランプ氏が125人。そして、現段階ではまだ、どちらになるか予測しづらいスイング・ステートの選挙人数は181人となっている。
(出所:RealClearPolitics)
この予想からは、仮にバイデン氏が上図の青系に塗られた州のすべてで予想どおりに選挙人を獲得できた場合、スイング・ステートの中からは、約2割となる38人の選挙人を獲得できれば、過半数の270人を獲得して勝利できることになる。
一方で、トランプ氏は、上図の赤系で塗られた州のすべてで予想どおりに選挙人を獲得できたとしても、スイング・ステートの中から145人の選挙人、つまり、スイング・ステートに割り当てられている選挙人の約8割を抑えなければ、勝利はできないと考えられる。
ちなみに、RealClearPoliticsが集計した結果によると、スイング・ステートとされる各州の世論調査でも、多くの州でバイデン氏の平均支持率がトランプ氏の平均支持率を上回っている。
それをもとに、スイング・ステートの行方を加味した選挙人の獲得予測では、バイデン氏が311人、トランプ大統領が227人と、現状ではバイデン氏の勝利が見込まれている。
(出所:RealClearPolitics)
しかしながら、主要なスイング・ステートにおけるバイデン氏の平均支持率のリードは3.5ポイントと、全米の平均支持率7.4ポイントよりも小さい。しかも、差は少しずつ縮まってきており、激戦州なので、何かあれば逆転する可能性も十分ある差と言えるのではないだろうか。
(出所:RealClearPolitics)
ラスムセン社の全国世論調査で、トランプ氏が一時、バイデン氏からリードを奪ったことは先ほど伝えたとおり。トランプ氏が最終決戦に向けて追い上げている傾向が確認できているだけに、特にスイング・ステートの情勢は、投票直前まで目が離せない展開になることを想定しておいた方がよさそうだ。
賭けサイトもバイデン氏勝利が優勢
世論調査よりも予想精度が高いと言われることもある、米大統領選の結果を収益化できるマーケットや賭けサイトでも、現状ではバイデン氏の勝利を見込む向きが優勢だ。
以下は、アイオワ大学のビジネススクールが運営している「米大統領選先物」における、両候補の賭け金の推移だ。当たると1米ドルが収益となるこのマーケットでは、バイデン氏の勝利に掛けるために必要な金額の平均は81.1セント、トランプ氏の勝利に掛けるために必要な金額の平均は21.0セントとなっている(10月27日時点)。
(出所:Iowa Electronic Markets)
この金額を倍率(オッズ)にすると、バイデン氏勝利が約1.23倍、トランプ氏勝利が約4.76倍。参加者の多くがバイデン氏の勝利を予想していることがわかる。
ちなみに、番狂わせとなった2016年の米大統領選で、一般投票直前となる11月8日(月)の平均オッズは、ヒラリー・クリントン氏が1.27倍、トランプ氏が4.26倍だった。2016年は、トランプ氏が米大統領選に勝利して、多くの参加者の予想は外れたわけだが、現時点のトランプ氏の倍率は、4年前のヒラリー・クリントン氏と対立したときよりも高くなっている。
また、ブックメーカーなど、海外の民間企業が運営する主要な賭けサイトでも、現時点ではそのほとんどで、バイデン氏の勝利が見込まれている。以下は、RealClearPoliticsが主要なブックメーカーの状況から算出した平均賭け金の推移で、バイデン氏への掛け金がトランプ氏への掛け金を上回っている。
(出所:RealClearPolitics)
このように、米大統領選の結果を収益化できるマーケットでも、現状では参加者の多くがバイデン氏の勝利を見込んでいることがわかる。
日本の投資家はトランプ氏の勝利を予想!?
各種世論調査や賭けサイトの状況などから、メディアの論調もバイデン氏有利に傾いているが、米大統領選の結果次第では大きく動くことも予想されるマーケットを相手にしている日本の投資家は、果たして、今回の米大統領選の結果をどのように予測しているのだろうか?
ザイFX!では10月21日(水)に、公式ツイッター上で読者に対して、どちらが勝利すると予想しているかアンケートを行った。
すると、480票の回答中、トランプ氏勝利が72.3%、バイデン氏勝利が27.7%と、およそ4票中3票がトランプ氏の勝利を予想しているという、世論調査や賭けサイトの動向とは真逆の結果が得られた。
11月3日の米大統領選まで約2週間。
— ザイFX! (@ZAiFX) October 21, 2020
勝つのは共和党のトランプ氏? それとも民主党のバイデン氏? スバリあなたはどう予想しますか?
以下は米大統領選全般の解説記事です。
米大統領選とは?制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説https://t.co/7zTEM1zhnJ #米大統領選
また、ザイFX!のツイッターアンケートだけではなく、トレイダーズ証券「みんなのFX」と「LIGHT FX」が合同で実施している「米大統領選挙投票キャンペーン」でも、10月28日(水)の確認時点でトランプ氏の勝利が62.32%、バイデン氏の勝利が37.68%と、一般投票が近づくにつれて徐々に差が縮まってきたものの、ここでもトランプ氏が勝利すると予想している参加者が多い。
(出所:トレイダーズ証券「みんなのFX」)
それだけではない。YJFX!「外貨ex」が新規口座開設者向けに行っている次期大統領を予想するキャンペーンの中でも、10月18日(日)時点でトランプ氏が56.2%、バイデン氏が43.8%と、ザイFX!のツイッターアンケートの結果ほど開きはないものの、ここでもトランプ氏勝利予想が優勢なのだ。
(出所:YJFX!)
また、それ以外にも、日本の証券会社が実施している同様のアンケートでも、トランプ氏の勝利予想が優勢となっている。世論調査や賭けサイトとは異なり、日本の投資家の中では意外なぐらいに、トランプ氏勝利の予想が優勢という、興味深い結果となっている。
どんな結果になろうと柔軟に対応できる準備を!
このように、トランプ氏が足元では少し挽回してきているものの、メディアの報道からはバイデン氏が総じて優勢で、次期大統領にはバイデン氏が就任する可能性がかなり高そうという印象を受けるのに、日本のトレーダーの多くがトランプ氏の勝利を予想しているのはどういうことだろうか。そこには、4年前のトランプ氏の大逆転勝利やその後のリスクオン相場の記憶が強烈で、マーケットへの影響を考えたときの期待が込められているという側面もあるのかもしれない。
とはいえ、単に「期待」が込められているだけ、と片付けることもできないのではないだろうか。世論調査などの結果が絶対ではないことを我々はこれまで痛感してきた。2016年の米大統領選のみならず、同年に行われたEU(欧州連合)からの独立の是非を問う英国の国民投票でも、事前の大方の予想に反して離脱支持が残留支持を上回ってブレグジット(英国のEU離脱)が決まったということがあった。
ビッグイベントの結果が自らの収益に直結するトレーダーは、そういった記憶が世間一般の人々よりも、より鮮明に残っているのかもしれない。
また、米大統領選で誰に投票するかを世論調査などで公表することに消極的な有権者の数は、民主党支持者よりも共和党支持者の方が多いという調査報告もあるそうだ。いわゆる「隠れトランプ支持者」の存在が、実際の選挙結果の予想を難しくさせている可能性がある点にも注意が必要だ。
そして、冒頭でも触れたが、今回の米大統領選では郵便投票が急増している。郵便投票の開票を一般投票日まで待ったり、一般投票日までの消印を有効票と規定している州もあることから、集計の遅れは必至との指摘もある。
トランプ氏は郵便投票の急増は大量の不正に結びつくとも指摘しており、バイデン氏が明らかな大差で勝利しない限り、連邦最高裁判所で米大統領選の結果を争う可能性も示している。
10月26日(月)には上院で、9月に死去したリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ連邦最高裁判事の後任に、トランプ大統領が指名した保守派のエイミー・バレット判事が承認された。民主党は、次期大統領のもとで後任を決定すべきと強く反発していたが、バレット判事の就任によって、連邦最高裁判所判事の9人中6人が保守派となるため、共和党寄りの司法判断がなされる可能性も一段と高まっている。
そのため、選挙結果が連邦最高裁判所の判断に委ねられることになれば、トランプ氏再選というシナリオも現実味を帯びてくることが考えられる。
とにもかくにも、世界中が注目する4年に一度の米大統領選。そのラストバトルがついに始まる。あまり事前の予想には執着せず、どちらが勝っても、あるいは決着がつくまでに時間がかかっても、伝わってくる動向によって揺れ動くマーケットへ柔軟に対応できるよう、しっかりと準備をして臨みたい。
(ザイFX!編集部・堀之内智)
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